4 ダンジョンに入れられました
「ふーむふむふむ。大体わかってきたぞ、リミト君は鑑定で散々な結果を出された挙句、殺されるかもしれなかったということなんだね」
トキマルさんは未だ超スピードで移動中なんだけど、僕を持ち上げたままごく普通に話しかけてくる。
「本当に殺されたかはわかりません、ただそう言われました……」
「トマロフ君なら本当にやりそうだ……小さい頃から変に頑固なところがあったからなぁ」
「小さい頃?」
トキマルさんはどう見ても父様より若く見える、せいぜい兄様と同じ年齢だと思うのになんで父様の子供時代を知ってるんだ? しかも『君』呼ばわりできる人なんて今まで見たことない……
「まぁとにかく君はあれだ、強くなりたいってことでいいんだよね!」
「いえ、違います」
急に何言い出すんだ……?
わざと言ってるのかな?
「フフフ……わかってるよ、隠しているけど、本当は強くなりたいんだろ?」
「いや、全然そんなつもりはないです」
「そうなのかい? 『不壊の魔法陣』なんて面白いことができるのに」
「不壊の魔法陣って言うのは珍しいことなんですか? それも僕にはわからないです」
「珍しいよ、君の他に俺が知ってるは君のずーっとご先祖様くらいだ」
「僕の先祖……グランドル家の?」
「ギャザン・グランドル、面白い男だった……」
「ギャザン!?」
グランドル家の初代と呼ばれる人の名前だ。
家の玄関に飾られている絵画がこの人だったはず、でも初代って詳しくは知らないけど数百年前の話だったはずなのに……
「なんでトキマルさんはそんな昔の人の事をまるで会ったことあるみたいに知ってるんですか?」
「ちょっとは興味を持ってくれたかい?」
まさかこの人、僕の興味を引くためにギャザン・グランドルを知ってるって嘘をついてるんじゃ……?
そうだとしたら不壊の魔法陣も本当のことじゃないのかも……
でも父様はこの人のことを待っていた……多分凄い人なのは間違いないんだろうけど。
「フフフ……色々わからなくなってしまってるようだね」
いつの間にかトキマルさんは走るのをやめていた。
さっきまで明るかったのに薄暗い……
洞窟の中にでも入ってしまったみたいだ。
「到着だよ、君をここに連れてきたかったんだ」
分からないことだらけすぎて整理が追いつかない……
トキマルさんのことも、この場所がどこなのかも、何から聞いたらいいのかも……
「あらら、冷めた表情をしてるけど地味にパニックを起こしちゃってるみたいだね」
「もう僕には何がなんだか……なんでここにいるのかすらわかりません」
「そっか、何も伝えてなかったもんね。あのさ、君を僕の仲間に迎え入れたいんだ」
「仲間? こんな場所に人がいるんですか?」
「ここはただのダンジョンだよ、仲間になるために君にはここで鍛えてもらおうと思ってさ」
「どういうことですか? 仲間に迎え入れられるのに僕は鍛えなきゃいけないんですか?」
「そう! 飲み込みがいいねぇ」
「お断りします、興味がないんで……」
急に訳もわからないまま連れてこられて、鍛えるのなんてただ面倒なだけだし、この人が信頼できるのかもわからない。
「あらら、流されそうなタイプに見えて案外ハッキリとものを言うんだねぇフフフ、でももう決めたことなんだ! 頑張ってみてよ」
「嫌です」
「あらら」
トキマルさんがガクッと肩を落とした。
頭を掻きながら少し考えてからトキマルさんはまた話しかけてきた。
「そうしたら君の望みはなんだい? 何が希望なのか教えてもらいたいな」
「僕はのんびりと暮らしていられればいいんです、寝てるだけで幸せなんで」
強くなりたいとか、頭がよくなりたいとかってあまり考えたことがない。
そこにたどり着くまでに疲れちゃいそうだから。
「達観してるんだねぇ、ふむふむ」
こう言うと父様はガッカリして何も言わなくなっていたのに、トキマルさんは僕の言ったことを全然気にしてなさそうだ。
「偶然だけど、ある意味このダンジョンはリミト君にちょうどいいかもしれないな」
「どういうことですか?」
「のんびり暮らしたいんだろ? このダンジョンはモンスターを倒すと食事をドロップするように改良してあるんだ。岩場でゴツゴツしてるけど、ある程度強ければモンスターを倒していくだけでのんびり暮らしていくことはできるかもね」
「なんだかすごく裏がありそうに聴こえますけど……」
「実家を出て行ってしまった君にとってのんびりできる場所なんて今はないんだろ? ここでのんびり暮らせるようになってみなよ」
確かに僕はどこでも寝れる自信はある。
こんな岩場だってその気になれば熟睡できるだろうな。
トキマルさんが言う通り、モンスターを倒さなきゃいけないらしいけど、食事もあるなら絶対にダメとは言い切れない……のか?
「トキマルさんもここで一緒なんですか?」
「いないよ、俺は多忙だからね」
「じゃあやります」
「君……案外失礼だね……」
薄暗いとか、ゴツゴツしてるとかっていう場所のことはこの際気にしない。
誰にも邪魔されずにのんびりできるかもしれないならそうしてみよう。
「あの……僕はいつまでここにいればいいんですか?」
「フフフ、そうだねぇ……一年かな」
「長っ!」
さすがにそこまで長いとは思ってなかった……こんな薄暗い場所で一年も閉じこもってるのは僕でもちょっと嫌になりそうだ……
トキマルさんはあたり一面岩だらけのこのダンジョンと呼ばれる場所の一方を指差した。
「あそこに高く伸びる岩場がみえるだろ? あそこが出口だ、もし嫌になったら勝手に出て行くといい」
閉じ込められるってことではないんだ……
嫌になったらいつでも外へ出れる。
「ここに残ってるなら一年後に迎えにくるよ、また会えることを楽しみにしてるね」
そう言い残すと、トキマルさんは姿を消した。
瞬間移動? それとも僕を連れてきた時のように目にも止まらぬ速さで移動したのか?
変な人だった……
結局何をしている人なのかも教えてくれないし。
複雑な気持ちを残して、トキマルさんの言われるがままの形でここに残ることになってしまった……
一年もここに居ろだって?
ふざけてる……
まぁいいか……疲れたから横になろうかな。
風属性の魔法陣!
ブゥゥゥゥゥン…………
ごく微量の|ウインド(低級風魔法)を横向きに発動させ続けて岩場でも関係なく寝れる風のベッドにする。
消えない魔法陣でだからできる、お手製のベッドだ。
合わせて火属性や水属性で上手く温度調節をすれば快適な空間だって作れるし、僕からすればどこでだって寝るのに苦労することはない。
ガサ……
近くで音がした……トキマルさんはもういない、ってことはモンスター?
「グルルルル……」
やっぱりだ……二足歩行で剣を持った虎の顔をしたモンスター。
さっそく見つかっちゃったのか……嫌だな……
僕と目が合うとすぐ、モンスターは飛びかかってきた。
「はぁ……これじゃ全然のんびりできないじゃないか」
相手ほ剣を持ってる、斬撃には斬撃で対抗しとこう。
「ウインド!」
疾風の刀で斬り刻む!
キンキンキィィィィン!
僕の放った風の剣をモンスターは剣で弾き返してきた。
結構強いぞ、このモンスター……
「フレイム!」
出し惜しみしてる場合じゃない!
火属性の魔法陣が伸ばした手を中心に浮かび上がる。
動物なら火には弱いはず!
ありったけの炎を打ち込む!
ボボボボボボボボボボボボボ!!!
普通に放てばフレイムは小さな火の玉だけど、僕の魔法陣なら何発でも発動させられる。
火の玉が連なって炎の柱となりモンスターを貫いていく。
ボンッ!
倒したと思った途端モンスターが煙と共に消えてボトリと何かドロップした。
「あっ、肉の塊だ」
しっかりと調理された骨付きの肉が出てきた。
これがさっきトキマルさんが言ってた食事ってことか。
確かに食事は出るみたいだけど、結構強いモンスターだった。。
こんな場所じゃ、のんびりなんてできないんじゃ……
やっぱりトキマルさんに騙されたんだ……
これからどうなってしまうんだろう。
ガブリと肉に食らいついた。
「あっ結構美味しい……」
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