11 炎の魔神
「パゾがこの村に?」
「そうなんです……数ヶ月前にパゾ様が一人でこの街に来てルッカを探し回って行ったんです」
「あのパゾがたった一人で? でもそれは数ヶ月前の話じゃ? なんで今もマーサおば様はそんなに怯えて……」
「パゾ様の召喚魔法です……ルッカがいないことがわかるとパゾ様は魔法で炎の魔神を出していなくなって行ったんです、そのせいでこの街はめちゃくちゃです」
「なんでパゾはそんなことを……」
全くわからない……パゾはどうしてルッカを探してたんだろう。
それにあのパゾが召喚魔法なんて使えるようになったんだ、成長したのはいいことだけど、なんでこの街に召喚した魔神を置いてくようなことしたんだ?
「お母様、じゃあ魔神が現れてからもう結構な日数が経ってますけどこれまで大丈夫だったんですか?」
「ええ、魔神は街もルッカがここに来ることを待ってるみたいで……それまでは貢物さえ献上すれば何もしないけど、こんなに長く居座られると思わなかったからもう与えるもののないところも出てきてしまって……そういうところだけ魔神が暴れまわっていくみたいなの」
「そんな……じゃあ私のせいで街のみんなが……」
ルッカが膝から崩れ落ち胸を押さえた。
「ルッカのせいじゃないよ、パゾだ……」
これはパゾがやったこと、理由はわからないけど……
「そうよルッカ、あなたが悪いわけじゃない……」
「ねえ、それより魔神がルッカを狙ってるってことは、ここにルッカがきたら……」
「はっ……!? そうです、もしルッカが魔神に見つかったら何をされるか」
「そんな……私どうしたら……」
僕が案じた時にはすでに周りの暑くなり始めていた……
多分だけど、もう魔神はルッカのことに気づいている……
「来た」
家を飛び越えて人よりも一回り大きい体中に火を纏った魔神が僕たちの元までやってきた。
「フゥゥゥゥゥゥゥ…………やっと来た……」
「魔神よ! ルッカ、リミト様! 逃げて!!」
マーサおば様が慌てて僕とルッカのことを引っ張って逃げようとするけど、その手を引き離して魔神に振り向いた。
この魔神言葉が話せる、それなら……
「ねえ魔神さん、パゾから何て言われてるの?」
魔神は僕のことを見て体に纏う炎をより燃え上がらせた。
「誰だテメエは? 俺はこの女に用はない、邪魔するなら命はねえぞ」
「大事なことなんです、答えてください」
「テメエ……俺を恐れてないみたいだな……」
この魔神もなんか自信満々なタイプっぽいなぁ……
ダンジョンの時といい、モンスターってみんなこういう性格なのかな、召喚された魔神をモンスターっていうのかはわからないけど……
「怖いとかそういうのはどうでもいいです、ただ聞きたいことがあるだけなんで」
今までの経験だとこの手のタイプはこう聞いてもちゃんと答えてくれずに怒っちゃうんだよね……
ほら……やっぱり右手に炎を集め出した……あっ、もう撃ってくるんだ。
ボフッ!
魔神が右手に集めた手のひらを覆い尽くす程度の火の玉は僕に向かってきた。
「恐怖心のない人間ってのはバカなだけだ! このバカは何をされたかもわからずに殺してやった」
僕の姿も確認せずに、魔神はルッカと会話を始め出した。
「すみません……まだ僕との会話が終わってないんですけど……」
「なっ! テメエなんで生きてやがる!?」
「なんでって……見え見えの攻撃だったんで、普通に守っただけです」
炎が消えてきた僕の姿を改めて見て魔神があんぐりと口を開ける。
「リミト様……いつの間にそんな力を?」
マーサおば様も魔神と同じくらい驚いてる、そんなにすごいことなのかな? ただ火の玉をオーロラでガードしただけなのに。
魔神は急に僕から離れ体の炎をより強めて構えだした。
「誰だか知らないが、この女護衛を連れてきやがったな」
そういうと魔神が大きな魔法陣を浮かび上がらせた。
これは多分上級魔法……さすが炎の魔神だけあってそんな魔法も使えるんだ。
「くらえ! フレア!!」
ドォォォォォォォン!!!
やっぱり上級魔法だった。
ものすごい爆発に飲み込まれて周りが何も見えない……
ウインド!
邪魔な爆風を風で振り払った。
あっ、魔神がルッカを連れてる。
「あああ! ルッカ!」
おば様も連れてかれるルッカを追いかけるけど、全く追いつかない。
「テメエまさか今のも無傷だ何てな! 悔しいが俺の目的はこの女だ! 残念だったな!」
捨て台詞を吐きながら魔神は僕から離れていく。
ダンジョンなら逃げていくモンスターをどうにかしようなんて考えたこともないけど、ルッカを連れて行かれちゃってるんだよなぁ。
「あの……ルッカのこと返してもらえませんか?」
魔法陣に乗って移動して魔神に追いついた。
「うわぁぁぁぁ!! なんで!? テメエどうやって移動してきやがった!??」
「どうやってって……魔法陣に乗っただけですけど……」
「そんなことできるやつが?…………本当に乗ってるじゃねえか!??」
僕の乗ってる魔法陣を何度も繰り返し見て魔神の驚きの顔はしばらく続いてた。
「あの……とにかくルッカのことは返してもらえませんか?」
「リ……リミト様……」
ほら、ルッカも魔神に攫われそうになって泣きそうになってる。
早くその手を離してくれないとかわいそうだ。
「く、くそォォォォ!!」
「やっぱり同じだ……」
ダンジョンのモンスターと同じで追い詰められるとみんなその場で魔法陣やら得意な武器や攻撃をめちゃくちゃに使って攻撃しようとしてくる。
フリーズ
ピキィィィィィィ……
僕の魔法で魔神は一瞬で凍りついた。
「ルッカ、大丈夫だった?」
凍った魔神からルッカを救い出すと、ルッカはそのまま僕に抱きついてきた。
「ううう……すみません、リミト様……」
泣いてる。よっぽど怖かったんだ。
「もう平気だよ、ケガもなさそうでよかった」
「ううう……」
うずくまったまま、会話もできそうにない。
今の魔神をパゾが召喚したんだよな……下手したらルッカの街が滅ぼされてしまうかもしれなかった……
行きたくないけど……本当は会いたくないんだけど、聞かなきゃ。
「ルッカ、実家に……グランドル家に帰ろう」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少しでも興味を持っていただけたようなら、ブックマークや下の☆にチェックしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします。