1 まさかの鑑定結果
はあ、今日ものんびりとしたいい日だ。
窓から見える雲はゆっくりと流れてて心地いい。ずっとこんな日が続いてればいいのになぁ……
「リミト様! いるんですよね? 開けてください!」
はぁ……一瞬で現実に戻されるこの声……
使用人のルッカはのんびりしてたい僕をいつも急かしてくる。
「何? 今日はどうしたの?」
「どうしたのじゃありません! 前から言ってた鑑定士様がお屋敷にいらっしゃったんです」
「鑑定士? そんな人が来るんだっけ?」
「覚えてないんですか? もう。今日はグランドル家の息子として魔力の才を見ていただく大切な日じゃないですか!」
こんな風に急かしてくるけどルッカはまだ13歳、僕より一歳下だ。ついこの間まで親と一緒に世話をしてくれてたのに独り立ちした途端まるで小うるさい姉のように言ってくるようになった。
「リミト様……ぼーっとしてますけど、どうしたんですか?」
「いや、ルッカはいつも元気だなぁっと思って」
「ふざけないでください! 行きますよ!」
「あと10分……いや5分だけ寝かせて……」
「ダメです!!」
地雷を踏んでしまったみたいだ……
ルッカに強引に連れられて広間まで連れてこられた。
「遅くなりました、リミト様をお連れいたしました」
ルッカは広間の扉を開き、慌てた様子で円卓に座る父様に挨拶する。
隣には見知らぬ老人? 父様と同い年くらいの人が座っている、この人が鑑定士なんだろうな。
あっ、兄様達もきてる。
二人の兄様はもう家を出て、一流の魔導師として務めている。
「おう、ようやく主賓の到着か」
長男のジグソ兄様が俺を抱き上げようとするが、持ち上がらない。
「もうそんな子供じゃないです簡単に持ち上がりませんよ」
「ハッハッハッ! それもそうだ、あの小さかったリミトがもう鑑定だもんな日が立つのは早いもんだ」
ジグソ兄様は僕が物心つく前に近くのクラフト王国の騎士団に所属して家を出たからあまり面識はない、会うたびにこうやって赤ちゃんのように扱われる。
まあそれでジグソ兄様が楽しそうなら僕は別に嫌がる気もないけど……
フレン兄様もニヤニヤしながら僕に話しかけてきた。
「さすがの大物だなリミト、神聖な鑑定を寝巻きで受ける気とはな」
それを聞きルッカが大慌てで頭を下げた。
「申し訳ありません、私がしっかりしてなかったばかりにこんな失礼なことを!」
「いや、ルッカのせいじゃないよ、単純に僕がめんど……えーっと、寝坊しちゃったから」
「フフフ、本当に大物だなリミト。鑑定を面倒事のように扱うか」
「ハッハッハッ、飛び抜けた才を持つものはどこか抜けているものだ、リミトの才能はフレンも超えているかもしれないからな」
「将来はジグソ兄様の上官になる日も来るかもな、楽しみだ」
「かもな、フレンのギルドの長になる可能性だって否定できないぞ」
『ティタニアス』という有名ギルドにフレン兄様は所属しているらしい。
どちらの兄様も自分が優秀なのを棚に上げていつも僕のことを異常に持ち上げてくる。
「兄弟で楽しむのは後にしなさい、まずは鑑定からだ」
「それもそうだ」と両兄様は顔を合わせ席に戻った。
「さあ、鑑定士様うちの自慢の息子だ、早速鑑定をよろしく頼む」
父様も僕のことをいつも過剰なくらい持ち上げてくる……
生まれつき僕には才能があるらしい。
『火』『水』『風』『土』という四大属性の低級魔法を教わることなく全て使うことができた。
これはグランドル家の歴史の中でもかつて一度もないほどすごいことだったらしい。
元々できることだし低級魔法なんて全属性使えるのは稀らしいけど、使うのはそんなに珍しいことでもないから実感が湧かない。
「あの……自分は……?」
これまで隅で存在感を消していた弟のパゾが蚊の鳴くような小さい声で申し訳なさそうに父様に話しかけた。
「ああ……貴様も一応鑑定を受けるために呼んだんだったな」
貴様って……同じ兄弟なのにパゾは酷い言われ方するなぁ。
「パゾ、君はリミトと違って才能が無いんだ、ここにいられるだけでもありがたいと思うべきなんだぞ」
「フッ、この歳で魔法をひとつも使えないなんてグランドル始まって以来のボンクラだ、こんなのが弟だなんてとてもギルドには言えないよ」
兄様達も散々だ、そんなこと言わなくていいのに……
「申し訳ありません……」
別にパゾが悪い訳じゃないのに、謝った。
いつもこうやって虐げられてはパゾは謝ってる。
「がんばろパゾ、魔法なんてコツだよ。いつか使えるようになるよ」
「おお! 心まで優秀だなリミトは!」
僕がちょっと庇っただけで父様は冷たい雰囲気から一変陽気になった。
「父様、せっかくだからパゾから先に鑑定していただくのはどうです?」
「えっ自分が……?」
「ほう……」
「それは面白い! リミトの余興と言うことか!」
悪ノリだ……
父様や兄様達が悪戯をするような嫌らしい顔でパゾを見ている。
「ぜ、ぜひお願いします!」
「パゾ、本当にいいの?」
悪意のかたまりのようなこの雰囲気でもし酷い鑑定でも受けたら大変なのに……
「はい、いいんです。受けさせてもらえるだけで嬉しいので」
申し訳なさそうにパゾは鑑定士の前に立ち深くお辞儀をした。
「ふむ、じゃあ君からでいいんだな?」
鑑定士が父様に確認をとってからパゾに手を当てた。
「ふむ……なかなかの才能だ、火のエレメントを伸ばせば最上級まで使えるようになるかもしれんな」
それを聞いた途端父様、兄様達が飛び上がった。
「そんな馬鹿な! このパゾが最上級魔法だと!?」
「俺ですら上級までしか使えないんだぞ」
「こちゃたまげた、パゾすごいじゃないか!」
人間て一瞬でこんなに変わるものなのか?
つい数分前まで、あれだけバカにしてたパゾのことを今度は褒め出した。
「あ……ありがとうございます……こんな自分が、まさか……なんて言っていいんだか」
でもよかった……これまでずっと虐げられてきたパゾがこれで少しは父様達から認めてもらえるのかもしれない。
喜びも束の間に父様はすぐ様、僕に顔を向けた。
「さあさあ、喜ぶのはまだ早いぞ、うちには期待の星がまだいるんだ」
「おっとそうだった、パゾが最上級が使えるんだもんな」
「こりゃリミトなら『究極』レベルの魔法が使えるかもしれないぞ」
怖いな……パゾがいい結果だっただけにイマイチな鑑定だったら何言われるかわからない。
まあいいか……早く終わらせてまた寝よ……
「お願いします……」
鑑定士の前にささっと移動してお辞儀をした。
「君は期待されてるようだな……」
鑑定士も父様達からいろいろ聞かされてるみたいで僕の顔を物珍しいそうにじっくりと眺めてから手を触れてきた。
「ん……?」
なんだ? 鑑定士が首を捻っている……触れてからすぐ鑑定を終わらせたのにやけに時間もかかっている。
「どうした?」
様子のおかしさに父様も鑑定士に声をかけた。
「限界に達してる……」
えっ? 限界だって?
僕が疑問に思うより早く父様が口を開いた。
「リミトが限界? どういうことだ?」
「すでに全ての魔法の習得が終わってる……この子はこれ以上魔法を覚えることはない……」
さっきまでの盛り上がりの嘘のように部屋が静まりかえった。
鑑定士のこの言葉からのんびり生きていたいはずの僕の人生は変わってしまった……
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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