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魔力ぐるぐる

 劇的だった昨日という日は尾を引き、今日はいつの間にやらもう放課後。


 変わりなく僕がカギ当番で部室に向かうと、その扉の隣で降魔ごうまちゃんが仁王立ちで待ちぼうけていた。

 まさに魔王たる貫禄が出ていた、マスコット的でミニチュア的な。


「降魔さん。待たせちゃったかな、ごめんね」


 言いながら扉を開錠して降魔ちゃんを通す。


 そんなに待ってないから大丈夫だ、と彼女はトテトテと中へ入ると上座の玉座(パイプ椅子)に威厳たっぷりに座った。

 こうべを垂れよとか言いそうな雰囲気だ。


 僕はといえば長机の右側中腹の椅子に腰掛ける。お誕生日の人を一番に祝う席だ。


「もし次僕が遅かったら鍵は職員室の入って右に掛けてあるから、取ってきてもいいよ」


 実際今日は、用があったので少し遅れてしまったし。

 長い間部室の前で立ちんぼするのも嫌だろう。


「いや我はその……かなり敬語が苦手なんだ。だから……まだボーっと待っている方がマシというか」


 降魔ちゃんはあの自己紹介の時みたいに、もじもじしながらそう言った。

 昨日は敬語というか、一人称を私にするのにもあくせくしてたみたいだったし、そうなのかも。


「さすがに先生にその口調はびっくりされそうだもんね……」


 先生に「我は魔王!」と鍵を受け取りに行く図が頭に浮かんだ。

 孫がいる先生には案外受け入れられたりして、なんて。


「鍵のことはいいとして、今日の部活は何をするんだ?」


 そうか、昨日は部活があるって言っただけで何をするか言ってなかったや。


「今日は私事で悪いんだけど、いさみさんに魔力の操作を教えてもらうんだ」


 実は昨日の夜から、シャッターを切れない不安で寝不足になっているのだ。

 早くしないと、限界超えて降魔ちゃんにカメラを向けてしまうかもしれない。


 なんだかカメラが凶器みたいな言い回しだが、今の僕にはそれもあながち間違いではないかもしれない。


「あ~初めの頃は魔力暴走しがちだもんな」


 どうやら昨日のアレは魔法あるあるだったようだ。

 それで、勇さんも僕を斬らずに大目に見てくれたのかもしれない。


コンコン、とノックの音がして後誰かが入ってくる。


「すいません。遅れました」


 あ、やっぱり勇さんk……。


 入ってきた勇さんは、まるで釘バット持つヤンキーみたいに聖剣肩に背負しょっていた。

 もうオーラがヤバいんだよ。そこらの荒くれもの目じゃないんだよ。


「なにゆえまた抜刀を……」


 これは保険ですって言ってたじゃん……!

 いや、いざという時斬るとも言ってたから今がその時なのかもしれない。

 僕まだなにもしてません!


「これはですね、剣を抜いた石ころの私が見える人が部員候補だって、昨日の夜閃いたので実践してきたんです」


 うわぁ、廊下で鉢合わせなくてよかった。

 理由知らずにこんなの見たら、僕は今日は真っ先に家に帰ってたよ。


「よく思いついたね、そしてよく実践したね」


 なんか小学校の先生が生徒を褒める時みたいになってしまったが、僕のこの言葉にあまり褒める気 持ちが入っていないのは言うまでもない。


「それで誰か反応したやつはいたのか?」


 全然動じてない降魔ちゃんがこの恐ろしい実験の結果をたずねた。

 勇さんの奇行には慣れっこなんだろうか。


「それが悲しいことにいなかったんですよね~」


 剣を綺麗な所作で収めながら勇さんは答えて、僕の真向かいに座った。


「そもそもなんで魔力を持ったやつにこだわってるんだっけ?」


 今日部室に来るのが初めてな降魔ちゃんが最もな疑問を口にした。


「それはせっかくの部活に仲間外れはいない方がいいって、勇さんが」


 昨日の話をかいつまんで降魔ちゃんに伝える。


「なるほどな、マヒロらしい気遣いだ」


 にひっと慈愛の笑みを勇さんに向けて褒める降魔ちゃん。


「そうですかね……?」


 勇さんの方も言われて照れ笑いして頭に手をやっている。


 あれ?


「今思ったんだけど、勇さんってみんなに丁寧口調なんだね」


「ん~そういえばそうだな。覚えてる限りだとはじめからこの口調だったから気にしてなかったけど」


 小さい頃から丁寧にしゃべるなんてできるものなのかな……。超人的だ、アンパ〇マンの中だったらしょくぱん〇んが好きなタイプだったのかな。


「この口調はですね……キャラ付けなんです!」


「キャラ付け」とは……何かしらの特徴を以ってその人物の個性とすること。またはその個性を目立たせること。[Pixi〇参照]


 きゃ、キャラ付け?

 無理してですます調にしてたの!?


「た、たしかに個性の確立は大事だよね」


 勇さんの意外過ぎる言葉に動揺して、道徳の教科書にしか書いてないような相槌が口から出る。

 降魔ちゃんはほぇ~と目と口を開いて心底意外そうにしていた。


「まあ冗談なんですけどね」


 ズコッと二人で脱力する。


「といっても理由はないと言えばないんですよね、小さい頃から周りに大人がたくさんいたぐらいで」


 やっぱり冗談か……。勇さんの冗談は彼女自身が出す雰囲気のせいで嘘に思えないので毎度信じてしまう。


「じゃあもう癖みたいなものなの?」


「そうですね、この方がしっくりくるんです。……と、お話もいいんですけどそろそろ練習始めましょうか」


 スッと時計を見て勇さんが提案してくれる。

前みたいに気絶するかもしれないし、早めに始めるに越したことはないか。


「ん」


 降魔ちゃんもうなずいて同意?している。


「それでは、何からやりましょうか。チカちゃん何かいい方法あります?」


 勇さんがこちらに向き直って、魔力か何かで手をキラキラ輝かせながらそう言った。

 いきなりファンタジーは驚くのでやめてほしい。


「一回魔法は発動したんだろ?それなら何回もやって……そうか量が少ないんだったな。どうするか」


 またも僕の魔力量が障害となっているらしい。

 なんでこんなに少ないんだろう、器の大きさとかに比例してないことを祈ろう。


「魔力ぐるぐる回すやつやるか。二人だと暇になるから三人で」


 降魔ちゃんは少し悩んだ後、そう案を出した。


「魔力を回すって何をするの?降魔ちゃん」


 勇さんの手のキラキラでキャッチボールでもするのかな。

と思っていたら、降魔ちゃんがおもむろに僕に手を差し出した。


 ……お手かな。

 少し迷ってから恐る恐る手を丸めてお手をした。


「いやお手じゃないんだから、握れよ」


「あ、お手じゃなかったんだ」


 練習料に服従を誓わせようとしてるのかと思ったら違ったみたいだ。


「ほら、マヒロも」


 三人でってことは手を繋いで輪になるってことか。

 理解して勇さんとも手を繋ごうと目をやると、あっ。いつものあのかわいいサイトをしていた。

 一日一回はこの目してるんじゃなかろうか。まるでログインボーナスだ。


「ふふっ、懐かしいですね。これ」


 繋ぎ終わって輪になると、勇さんがそう懐かしむ。

 魔力が発現した者の最初の作法なのかな。


「それでは、我から魔力を出そう。あまり多いと渡海わたるみが壊れるから少な目で」


 ん、今降魔ちゃんにすごい怖いこと言われた気が。壊れるって言わなかった?降魔様?


「ちょ、降魔さん。ほんとに大丈夫なんだよね?」


「大事ない。我、器用な方だから」


 降魔ちゃんの器用さに僕の命運がかかっていた。

 言い様に不安しか感じないんだけど!


「それならまず私に回してもらえれば調整しますよ」


 勇さんが多分良いことを言ってくれた。

 魔力のことはわからないので二人に任せるしかない。


「わかった。それでは始めよう」


 そう降魔ちゃんが言うと、彼女の指先が一瞬暗く煌いたあと勇さんに吸い込まれていった。

 あの色、降魔ちゃんの髪の色に似てる。言い表すなら夜色って感じだった。


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