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ちゃん付けの似合う魔王

「そういえば、どうしてその人が近くにいるって……。僕が寝てる間にやりとりしたとか?」


 もしや、これも魔力パワーなのかも?

 僕が起きた時も、(いさみ)さんはなにも手に持っていなかったと思うし。


「いえ、魔力は人によって個性があるので、知り合いなら大体どこにいるのかわかるんです、生まれた時からの友人ならなおさらですね」


 なんかそういうド〇ゴンボールの設定あったよな。気でだれがどこにいるかわかる感じの。


「そういう設定、ドラゴボにもありましたよね。気で位置を判別するみたいな」


 ド〇えもんもそうだったし、勇さんって意外とアニメ文化に詳しい?

 って勇さんのド〇ゴンボールの略し方ドラゴボ!?

 ……なんかこう、いいんだけども。なさかの略し方だよ。


 ま、まあどう略すかなんて人それぞれだからね。


「そのあとはよく瞬間移動したりするよね。勇さんもできたりする?」


 内心の驚きを平静に装って会話を続ける。


「瞬間移動ですか?練習すればあるいは……でもかなりの時間が要るでしょうね」


 練習すればできる可能性があるんだ!ロマンあるなあ。


「うぉ~、勇者ってさすがだね!」


 歩きながら指先で小さく拍手する。

 そんなそんなと照れ笑いして、勇さんは続けた。


「実際、勇者のお仕事があるってこと以外、他の魔力持ちさんとはほとんど変わりがないんです」


 勇者に特別性がないなんて、一般人の僕からしたら不思議な話だ。

 勇者って選ばれし者って感じがあるしな。


「お仕事があるんだ。ん~例えば、魔王を倒す使命とか?」


 あれ、でも最近の勇者は戦わないんだっけ。

 ……チェスとかするのかな。ダメだ、想像力が乏しすぎる!


「魔王、ちょうど良い言葉を出してくれましたね。噂をすればならぬ、影が噂をなんとやら?」


 上手いことを言った気なのか、上手いこと行った風にキメ顔で彼女はそう言った。


 ちょうどいい言葉って……え、まさか?

 そう話している間に、差し掛かった階段の奥から話し声が聞こえてくる。


「私は文芸部にするから、他にいい部がなかったらチカもってことで!じゃまた明日~!」


 階下に降りていく足音。今話していた人は帰ったみたいだ。

 階段の角を過ぎると、「やはりまさか」の存在がそこにいた。


 青暗い夜色の髪に睨むような少し吊り上がった赤い目、力強く生えたツノ。

 背は小さくてかわいい感じ。


 勇さんの発言からすれば、おそらく彼女は「魔王」なんだろう。


 近づく僕たちの足音に気づいたのかその大きな瞳が僕を突き刺、いや隣の勇さんを捉えたようだった。


魔王というイメージだけでビビってしまっている僕だった。よくないぞ、そういうのは。


「よ!マヒロ。もう帰るのか?うぉ、隣に誰かいたぁ」


 魔王に驚く僕に驚く魔王、ちゃん。

 ツノと目を除けば、なんだかちゃん付けが似合いそうな雰囲気の人じゃないか。

声は少し高くてそれもかわいさを呼んでいる。


「はじめまして!勇さんのクラスメイトの渡海透(わたるみとおる)です」


 ペコっと会釈して自己紹介する。

さっきからずっとツノに目が行ってしまう。すごく、尖ってます……。えいりぃ〜。


「わ!私の名前は降魔(ごうま)チカだ、です。はじめまして」


 キリっと勢いよく飛び出した挨拶は急降下、一転もじもじしたはじめましてに。

 魔王の威圧どころか、マスコットのかわいさが出ちゃっていた。


「フフフフ、チカちゃん。実はこの渡海くん、魔力があるので私が勇者なことを知ってるんですよ。びっくりしますよね」


 魔王ちゃん、降魔(ごうま)さん、ちゃん、に笑いかける勇さんはまたニヤリとあの危ない目「かわいいサイト」をしていた。


 どっちかといえば彼女より勇さんのこのオーラの方がよっぽど魔王。かわいいもののために世界、征服してそうだ。


「あ、ほんとだ!マヒロの陰に塵みたいな小さな豆粒大のひょろひょろ魔力が」


 なぜそんな急に具体的な悪口!?

 もしかして、僕も無意識的に「かわいいサイト」で降魔ちゃんを見てしまっていたのか。


「む、確かに勇さんに比べたらかなり少ないかもしれないけど、塵扱いはひどいよ」


 魔力の大事さも全く知らない僕だけど、なんにせよ塵扱いはちょっとだけ悲しいものがある。


「あぁ、悪口で言ったんじゃないんだ……この特別な少なさに驚嘆しただけで」


 結局煽りに変わりない気が……。

 降魔ちゃんもそう思ったのか、ごほんと咳ばらいを一つすると再び自己紹介を始めた。


「我の名は降魔チカ! もしよければ世界を統べる、悪の魔王だ!」


 まさかの魔王が世界を統べるために人の下手に出ていた。少なくとも「悪の」魔王ではない気がする。


スッと勇さんが耳元に顔を寄せてくる、内緒話?


「チカちゃん、見えない人には普通に振る舞うようにしてるみたいです。それで口調もこういう風に。どちらもカワイイ挨拶で何度見てもいいですよねぇ」


同意を求められても……かわいいけど口にするのは気恥ずかしいよ。それと、距離が近いのも恥ずかしい。


でも降魔ちゃんが気遣い屋のいい子だってことはわかった。いい子って、同級生なんだけども。


あれ、何か忘れてる気がする……。


「あそういえば、私たち部活の勧誘に来たんでした」


そうだよ、我々写真部は廃部の危機なんだった。


「部活?そういえばさっき写真部って言ってたな」


合点がいったのか降魔ちゃんはポンと手を叩いた。


「そう、今写真部が廃部になりそうで……。よければ入部してくれない?」


廃部のことを持ち出すのは少し卑怯だったかも、と思ったけどもう言った後。


「写真部かぁ、特別興味があるわけじゃないからな。というか、マヒロ写真部なのか?」


昔馴染み的には意外、という風に尋ねる降魔ちゃん。


勇さんは写真のための入部じゃないみたいだしね、でも中学の時はなんの部活やってたんだろう。

うーん、文化部も運動部も似合うから予想つかないな。


「そうですよ。野暮用もありますし、渡海くんがかわいいそうでしたし」


ん今「い」が一つ多かったような……?

勇さんの目を確認する。……気のせいにしとこう。


「でもあんまり気を使わないでね。廃部で脅したいわけじゃないんだ」


「あ、脅しといえば。あの写真もありましたね、それも理由の一つかもですね」


言われて思い浮かんでくるあの光景。


「え、あの写真消してなかったの!?」


「勝手に人の物を触るのは良くないかなあ、と思いまして」


いや礼儀正しいけども!下着より礼儀なの!?


「あの写真ってなんだ?脅しってことはヤバい写真なのか?」


訝しんで僕を見つめる降魔ちゃん。魔王の威圧、怖い。

う、僕が完全に悪いけど助けて勇さん!


「まあチカちゃん。いざとなればこの剣があるから大丈夫ですよ」


「たしかにそうだな」


んー助かったけどまた別に怖いものができたよ。

勇さんが手を剣にやる度にドキドキすることになりそうだ。


「あの、弁解させてもらうとあの写真はハプニングでわざとじゃなくて。ましてや脅すなんて一ミリも考えてなかったよ!」


このままだと犯罪者認定されそうだったので釈明する。

それでも僕は(わざとは)やってない。


「本当か〜?」


降魔ちゃんがさっきより近くでジ〜ッと僕を見つめてくる。


何か吸い込まれるような感覚があった。


「まあ多分嘘じゃないな」


何やら確信めいた言い方だ。

勇さんもうんうん頷いている。なんで?


「もしかして……嘘を見抜く能力?」


感覚とその言いようでそんな気がしたので訊いてみる。


「力のこと教えてもらったのか。でも違う、これは遺伝だ」


遺伝、そういうのもあるのか。


「じゃあ能力はまた別なんだ」


「まあマヒロと違って全然使わないけどな。魅了(チャーム)っていう相手を虜にする能力だ」


勇さん、剣をカギにするみたいなこと普段からやってるんだ……。


「だってこの能力、使い勝手がすごいいいんですもん!」


確かに魅了だなんて悪い奴ならともかく、降魔ちゃんは使わなさそうだ。

あくまで今までの知ったかぶりな印象だけど。


「魅了かあ、それって一度かけたら解除ってできるの?」


「できると思うけど、なんでそんなこと訊くんだ?」


悪い第一印象が抜けていないようで、降魔ちゃんは少し怪しんでいる。


「興味本位だよ、魅了(チャーム)にかかってみたくて」


「かわいい顔して凄い、その……変な奴だな。一度も使ったことないし、ダメだ」


オブラートに包まれて僕は変なやつだと評された。


「違うんだ、何事も経験って教わってきたから……変な意味で言ったんじゃないんだ!」


ヤバい、降魔ちゃんの顔が……もう信用は地の底かもしれない。


「おいマヒロ、コイツと同じ部で大丈夫か?監視するって意味で入部したくなってきたぞ」


「あら、渡海くん勧誘が上手ですね。心配なら支配するのはどうでしょう。初めての魅了(チャーム)です、元には戻らないかもしれませんけど」


そんなはじめてのチュウみたいなノリで僕を廃人にしようとしないでよ、ん?支配……そうだ!


「降魔ちゃん、もしよければ写真部を統べてよ!」


「あ〜、ん?どういうことだ?」


分かったような分からないような、それとも変なものを見るような目で降魔ちゃんはこちらを見る。


一方、勇さんには伝わったようだ、なるほど!って顔をしている。


「写真部をチカちゃんが部長になって治めてくれませんか、ってことですよ」


「なるほどな!我の城、というわけか……。部長というのは目立てたりするのか?」


さすが幼馴染、通じ合ってるね。

降魔ちゃんも乗り気になってくれたみたいだ。


それで、目立てるかってその言い方は目立ちたいってことなのかな。


「う〜ん、イベント事に部長は良く前に出るかな。今日の部活動紹介とかもそうだし」


僕は結構緊張しいなので遠慮したいところだ。


「むむ、は、恥ずかしいが魅力的だな」


降魔ちゃんはモジモジしながら嬉しそうに悩んでいる。


「恥ずかしいんだ。前に立つ人ってそういうのあまり感じないと思ってたよ」


「これも遺伝ですからね。種族の欲求というか」


魔王だから人の上に立ちたくなるってことなのかな。

写真家が良い写真を撮りたいと思うのと同じことか。


「恥ずかしがり屋も治してくれと思うけどな」


部長になる想像だけで少し顔を赤くしている降魔ちゃんが不満を言った。


「できるだけ良い魔王になりたいんですよね。チカちゃんはいつでもいい子です」


「まあいい!それでは我が写真部の部長となるとしよう!全然写真のこと知らないけど……」


褒められるのに照れて、大きな声で入部を宣言してくれた。


よし、部の存続まで首の皮一枚は繋がった。

一ヶ月後までにあと一人、誰か見つけなければ!

勇者、魔王に続ける濃ゆい人物がそういるとは思えないけど……。


「それじゃあ、これからよろしく!」

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