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えっちな写真を撮る能力

 目が覚めて、自分が机に突っ伏しているのに気づく。


 あれ、僕なんで机で寝てるんだっけ?

 ……そうだ、(いさみ)さんの「謎セミヌード写真」を撮って気絶したんだ。


 いやなぜそうなる、いくら何でも同級生の下着姿見て気絶なんて、変態がすぎるぞ僕……。

 きょ、今日は色々ありすぎたし、体がついていけなかったのかな~、うん。


 とにかく!勇さんには謝らないと。

 わざとじゃないにしても、乙女の柔肌を許可なく見てしまった罪は重い。


「あ、起きたみたいですね。体調の方は大丈夫そうですか?」


 謝ろうと体を起こすと、気絶する前と同じ場所に座って勇さんが心配げに話しかけてくる。

 あまり怒ってはなさそう、かな?


「うん、もう大丈夫みたい。ありがとう」


「それは良かったです。いきなり倒れたからびっくりしましたよ」


 快復を伝えると勇さんは安心したのか、僕ににこにこと笑いかけてくれる。

 ……いや、心なしか笑顔の裏に「魔王」みたいなオーラが隠れてない?き、気のせいだと信じたい。

笑顔は最初、敵への威嚇のための行為だったという今思い出したくない雑学が頭に浮かんだ。


 もとより謝るつもりだったわけだし!謝ろう、心を込めて!


「あの……突然気絶したのもそうだけど、撮った写真、見たよね……。ごめんなさい!」


 心を込めて誠心誠意非礼を詫びる。

 それを聞いた勇さんは目をじとーっとさせながら、イジワルする時みたいに少しだけ笑った。


「も~、えっちなのはダメって言いましたよね……?わざとじゃないとは思いますけど」


「ほんとにごめん!お詫びになるかわからないけど、僕ができることならなんでもするよ!」


 望まず体を晒させてしまったんだ。責任をできる限りとらなきゃあいけない。


「なんでも、ですか?私相手に浅慮ですよ、渡海(わたるみ)くん。そこまでしなくても許していましたよ?」


 勇さんの背中から今度は名状しがたい謎のオーラがぶわっと湧いてきたのが見えたような気がした。

 でも、思ってみれば初対面の異性に肌を見られて不快に思わない人間はいないだろうから、僕が何でもするぐらいで許してくれる勇さんはかなりの聖人だ。


「あはは、お手柔らかに頼むよ……」


 なんでも、という言葉の重みを彼女の更に深まった笑顔に今更感じながら、許してもらった安堵で今度は疑問が浮かんでくる。


「そういえば、僕ってなんで気絶しちゃったのかな」


 もしかしたらこのファンタジーに理由があるのかも、と訊いてみる。


「おそらく、ですけど。魔力切れを起こしたんじゃないかと」


 僕が眠っていた間に考察していたのか、すぐに答えが返ってくる。

 シャッターを切った瞬間、ふらついたのを思い出した。


「魔力切れ? じゃああの時、僕なにか魔法を使ったってこと?」


 写真の撮り方はいつもと変わりなかったように思う。勇さんを撮ったことが関係しているのかな。


「魔法、そうですね。渡海くんの能力だと思います。普通、私を写真に収めると勇者じゃない私が写るはずなんです」


 家族写真とかがそうなので。と続ける勇さん。


「能力かあ。それって魔力を持ってる人によって違うの?」


「はい、違いますよ。例えば私の能力だったら、この剣を自由自在に操れます」


 くいっと勇さんは煌びやかな剣をこちらに見せる。う~ん、なんとも少年心をくすぐってくる剣だ。撮りたい。


あれで剣先をカギに変形させてたんだ……。

普通なら剣術がうまくなる能力だと思うけど。自由自在の幅のあまりの広さに笑えてくる。


「なるほどね。じゃあ僕の能力って何なんだろう?」


 写っていた勇さんは「勇者」の髪色や目をしたまま、あ、あの姿で写っていた。

 つまり、ここから導き出される答えは——。


「えっちな写真を撮る能力ですかね」


 いたって真面目そうな顔して、勇さんは僕の名誉をぶん殴ってきた。

 今に限っては、その清楚ささえ僕への攻撃材料と化している。


「違うよ! いや、違うと信じたいよ!」


 仮にも写真家に憧れている身としては、自分の能力がそんな最低な犯罪能力だとは信じたくない。


「好意的に考えるなら、写真の中を望んだように変えられる能力みたいな感じでしょうか」


 そっか、僕はあの時彼女を見たままに、「勇者」を撮ろうとしていたから、って


「それじゃあ、僕が勇さんを脱がしたかったみたいにならない!?」


 えっちなのはダメと言われて、少しその、想像はしちゃったけど撮るときは純真だったはずだ、多分。いや絶対に。


「それもありえますけど……。違うとしたら、魔力が足りなかったんでしょうね」


 楽しそうに笑って僕へ変態のレッテルを貼る勇さんが、可能性の高い結論を出してくれる。

 僕を変態だとからかうのは暴走した時のやり返しなのかな。勇さんをイジるのにはイジり返される覚悟が必要らしい。

次に暴走するときを楽しみに待たせてもらおう。


「だから僕は気絶したんだ。魔力切れってこわいね」


 写真一枚撮って気絶なんて、気づけば撮る僕の写真が呼吸みたいな生活には支障出まくりだ。


「渡海くんは特別魔力が少ないみたいですからね。今日はもう遅いですから、必要なら明日から魔力操作の練習をしませんか?」


 遅い時間と言われて外を見ると、すっかり空は茜色をしていた。僕はどれだけの間、勇さんを放置していたんだ、申し訳ない。

 それにしても、この勇さんの提案はかなりありがたいな。


「ありがとう、練習付き合ってくれて。僕の魔力が少ないばっかりに」


「それは全然構わないんですけど。渡海くん、他に部員さんはいらっしゃらないんですか?」


少し不安そうに尋ねてくる勇さん。


「どうして?」


 なんだか嫌な予感。部員の人数がなにか大事なんだろうか。


「どうしてって……。あと二人部員さんがいないとこの部活、廃部になっちゃいますよ?」


 廃部ってことは……。


「もしかして、部活動紹介で何か言ってた……?」


 どうせ全部プリントに書いてあると思って、勇さんばかり見ていたのがまずかったみたいだ。


「聞いてなかったんですか?」


 勇さんの少し叱りつけるような目。魔王オーラよりは怖くないな。


「あの時は勇さんがずっと気になってて、あとでプリントみればいいやって……」


 あはは、と誤魔化して弁解する。


「あ!またからかいました……!」


 もういいです!と不満げな勇さん。

 図らずしも、また勇さんをイジるかたちになってしまった。あとがこわいぞ、これは。


「……紹介されなかった部はとりあえず三日後までに三人の部員がいなければ問答無用で廃部だと説明されていました」


 勇さんは微妙に怒りながらも説明を始めてくれる。

 しかしなんてことだ……。三度、いや六度の飯より写真の僕に、ほかの部活なんてできっこない。驚愕の表情が勝手に溢れ出す。

 しかもだ。


「とりあえずってことは……」


「入部届期限の一か月後までには四人の部員が揃っていないといけないみたいですね」


 勇さんは絶望する僕をできるだけ傷つけないようにか、それとも単に頭にキているのか、事務的に淡々と説明してくれた。


許してください、わざとじゃないんです!

今日でもう二回目ですよ、それ。


「じゃあ来週までに一人……。えと、勇さんって写真部に入ってくれるのかな」


 勇さんは写真が好きでこの部室にいた感じじゃなかったからな。もしかしたら、もうこの部に用はないかもしれない。

更に言えば、さっきので僕にも用がなくなったのでこの世から消されるかもしれない。


うぅ、入部してください、お願いします……!縋るような目で見つめる。


「……そうですね。やりたいこともあるので、入部しようと思ってます」


 むぅと目を細めて思案顔で顎に手をやり、勇さんはそう言ってくれる。

 結局のところ、勇さんのやりたいことはなんなんだろう。お手伝いでもできたらいいんだけど。


「良かった、ありがとう! じゃああと一人はどうしようか」


 賢人(けんと)には頼めないし、他の友人はもう部活を決めきっているみたいだった。


部活が強制なのは入学以前にみんな知っていただろうから、前から決めている人が多いのだろう。


「勇さんはまだどこにするか決めてない友達知ってたりしない?」


 知っていれば、かなり楽になりそうだ。他人からの部活勧誘はちょっと厳しいものがあるしね。

 少し魅力がわかりづらい写真部ならなおさらだ。


「いることにはいるんですが……。魔力操作の練習もありますし、私たちが見えないとこの部は大変そうですよね」


 たしかに目の前で石ころになって、せっかくの新入部員を一人きりにするのはかわいそうだし、仲間はずれみたいで心が痛むな。


「でも他に魔力を持ってる同級生なんているの?」


 言ったら怒られそうだから言わないが、少なくとも僕の目には目立つ髪の色や瞳をした人は勇さんしか入っていなかった。


「部活を決めているかはわからないですけど、一人心当たりがあります」


 ふふんと胸を張って、勇さんは楽しそうに答える。


「それってどんな人なの?」


「ん~、今結構近くにいるみたいなので先に会いに行きましょうか。渡海くんもその方が驚いてくれるでしょう?」


 弱みをできるだけ握りたいのか、僕を驚かせたい勇さんだった。

抜刀されたとき、比喩じゃなく死ぬほど驚いたからそれで勘弁してほしい。


 言いながら立ち上がった勇さんは僕に付いてくるよう手招きすると、横を通って扉を開ける。

 ふわっといい匂いがした。うわきもいな僕。僕を矯正したい僕だった。


 横を通られたとき、意識して嗅いだわけじゃないから勘弁してほしい。

わざとじゃないんです、許してください!今日でもう三回目ですよ、渡海くん。


 勇さんに(なら)って僕も立ち上がって彼女を追いかけた。

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