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それでも僕はやってない

「僕が撮れるはずないよ。(いさみ)さんとは出会ったばかりだし」


  それに、こんな表情でカメラ目線なのに撮った人を探すってどういうことだろう。


「というか、これで正直にいう犯人さんもいませんよね。少しテキトーすぎました」


  てへっとした口ぶりからも、どうやら心底その犯人を捕まえたい! というわけじゃないみたいだ。


「え、犯人って?」


  もしかしてこれ盜撮だったりするの?

  この完璧目線満面笑顔が盜撮だなんて、とんだ淒腕カメラマンもいたもんだ。


「ん〜、そのあたりの事情も含めて色々と説明しちゃいましょうか。渡海(わたるみ)くんはどうやら魔力を持っているみたいですし」


「魔力!? 魔力を持つようなことなんてしやった覚えないよ……?」


  どう見ても一般人じゃなさそうな勇さんならまだしも、僕に魔力があるなんて。


「それはまぁ、後々わかることなのでいいんですけど、その量が少なすぎるんですよね……」


  一連の事情について何でも知っていそうな勇さんも理解できないことがあるようで、首を傾げている。


「う〜ん、先に説明を始めましょうか。まず第一に、私は勇者なんです」


「勇者、勇者かあ」


  現実離れしたことを言われたけど、心構えがいつの間にやらできていたみたいで、あまり驚かなかった。


「だからいつも帯剣してるんだ……。戦ったりもするのかな、危なくない?」


  勇者だっていっても、戦うとしたら危険なはずだ。さらに言えば女の子だし。


「大丈夫ですよ、最近の勇者は戦わないんです。これは保険ですね」


  勇さんは腰の剣に触れてそう言う。


「それで、渡海くんにこの剣が見えるのも魔力の影響なんです。試しに、ウインクして私を見てみてください」


  可愛くウインクする勇さんにそう言われて、真面目にウインクする。お茶目なところもあるんだなぁ、勇さん。


  パチっと右目で勇さんを見るとそこには。

 

  校則をしっかりと守った黒髪の勇さんがあらわれた!

 

  腰の剣も全く見えない。

  なんだこれ、すごい!


「ウインクは冗談のつもりだったんですけどね……。ん、改めて見ると渡海くん……すごいカワイイ顔してますね」


  何回もウインクして勇さんの変身を楽しんでいると、右目ではなく左目で見るときだけ勇さんは変身するみたいだ。


  あれ、今勇さんに何か言われてた?


「あ、ごめん勇さん。今何か言ったかな」


「あぁ、渡海くんってかわいい顔で女装がよく似合いそうだなぁって。そう言ったんです」


  え、女装? 女顔ってはよく友達にからかわれてたけど……。え、女装かぁ……。


「え女装!? に、似合わないよ! それにいつのまにそんな話が脱線しちゃったの!?」


「あぁすみませんお見苦しいところを。私カワイイものが大好きで、いつもはもっと気をつけてるはずなんですけど……。恥ずかしいっ」


  僕、そんな可愛くないと思うけどなぁ。

  特別、セルフィーを撮ろうと思ったこともないし。

  でも、こんな綺麗な人にそう言われて悪い気はしない。


「えーとなんだっけ、そう! 魔力のおかげで剣が見えるんだよね!」


  顔を覆う彼女を橫目に、わざと少し大きな声を出して話を元に引き戻す。


「あれ、でも剣を抜くのは大丈夫なの? いくら見えないからって、変に思われるんじゃない?」


  さっきの僕に剣が見えていなかったとしたら、勇さんはかなりの変人だ。


「それは、剣を抜くと魔力を持たない人からはまるで石ころみたいに、気にされなくなるから大丈夫です」


  気を取り直した勇さんが説明してくれる。

  なんかそんなド◯えもんの道具あったような……。


「そんな感じのドラ◯もんの秘密道具ありましたよね」


  あ、勇者な彼女も知ってるんだ、◯ラえもん。

  現代勇者の生活は本当に平和みたいだ。


  というかつまり、僕に抜刀した勇さんは僕が魔力持ちかどうか確かめたかったってことか。

  何でだろう、まあ今はいいか。


「勇者剣、便利だね。ここの鍵も開けてたの見たよ」


  あのシュールな絵は当分記憶から離れそうにない。


「うぅ、あれ、見られてたんですか……恥ずかしい」


  あぁ、あれ見られると恥ずかしいものなのか。わからない感覚だ……。


「礼儀がなってませんよね、すみません」


  礼儀というか、れっきとした不法侵入というか……。


「ま、まあ、人に迷惑かけないならいいんじゃないかな……。ふふ、勇さんって結構個性的な人だね」


  勇さんは普段の清らかな雰囲気に反してかなり特徴のある人のようで、刻々と変わる印象が僕をウズウズさせていた。


「うぅ、本当にいつもは意識して抑えてるんです。でもなぜか今日はぼうそうしちゃました」


  どうやら僕のかわいさは、彼女の気持ちを溢れさせて暴走しちゃうほどのものらしい。


「僕、暴走しちゃうほど、かわいい?」


  出会い頭少し怖い思いをしたお返しに、少しいじわるしてみた。


「なんですか、渡海くん。そんなに女装してみたいんですか?衣装がないなら貸しますよ?ちょうどここは写真部ですし、良い写真にしましょうね!」


  うん、やらなきゃ良かったかも。

  かわいいもののことになると、少し目を細めて笑う勇さんだった。


「ごめんごめん!からかいすぎたよ。でも僕も今、勇さんの写真撮りたかったし良いアイデアかも」


「私の写真ですか?」


  そう、この今日の日の強烈な出会いは、思い出に残すべき出会いだと思う。


「僕は今までアート、というか物の写真ばかり撮ってきたんだけど、人物写真にも挑戦しようと思ってて」


  父が褒めてくれるような写真を撮りたいし、勇さんが良いと言ってくれるならぜひ撮りたかった。


「いいですね。私で良ければモデルになりますよ。渡海くんの写真も気になりますし」


「本当?ありがとう」


「明日衣裝持ってくるので、よろしくお願いしますね?」


  モデル料、僕の女裝写真か……。

  からかったツケが回ってきちゃったな。


「気持ち悪くなっても知らないよ?」


「えぇ、きっと良い写真になります」


「それじゃあ、今日は僕の番ってことで」


  僕は鞄から自分のカメラを取り出す。

  父からもらった、あまり高くはないらしいけど愛用のカメラだ。


「わかりました。どういう風に撮りたいとかありますか?えっちなのは……さすがに許可できませんけど」


「撮らないよ!頼む度胸もないし!」


  言われてちょっと想像してしまったのは内緒だ。


「じゃ、じゃあ、今の座ったままの状態でこっちを向いてもらえるかな」


  撮る準備をしながら、勇さんに指示をする。


「こんな感じでいいですか?」


  綺麗な姿勢でこちらを向く勇さん。

  彼女が意識するとこんなにも印象が変わるのか。


  背は僕の方が少しだけ高いみたいで、目線を揃えるために前に屈む。


「うん、いい感じ。それじゃあ撮るね!」


  カメラ越しに感じる彼女と彼女が醸し出す清楚な雰囲気。


「はい、いつでもどうぞ」


  まだ、全ては表現できないだろう。


  だから、これを一枚目にする。

  僕がこれから撮っていく、僕が目指す僕にしか撮れない人物写真の一枚目に。


  シャッターを切る。


  良い写真が撮れた感覚とともに少しめまいが襲ってくる。

  なんだろう、そう思いながらも写真を確認する。


  そこに写っていたのは、紛れもなく勇さんの下着姿だった。

  恥ずかしくてすぐに目を逸らしたけど、彼女の瞳の色と似た上下水色の下着だった。


  すぐさま目の前にいる彼女と写真を見比べる。

  当たり前だが、勇さんは脱いでなどいなかった。

  何が起こったらこうなるんだ!?


「どうですか?良い写真撮れました?」


  にこやかに勇さんは撮った写真を見にこちらに歩いてくる。

  あぁ、このステキな笑顔にも恐怖を感じてしまう……。


「え、冤罪なんです……」


  そう弁解しながらカメラを机に置く。

  どうかこのカメラが切り刻まれないことを祈るばかりだ。

  いや、切られるのは僕かもしれない。南無三。


  ピークに達しためまいに僕は意識を失って、目の前が真っ暗になった。

カンソウ、クダサイ……!

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