2話 研修生と暁号
なかなか、情景描写が難しいと感じています。しばらくしたら設定集をあげたく思います。
◯オワリ駐屯地 第二小隊い組事務所 09:00
研修生受け入れの話が終わり、難しい顔をしながらリョウマが事務所に戻ってきた。
「うーん、どんな顔して迎えたらいいのやら・・・」
「先輩、ニャにか悩み事ですか?アタシで良ければお話聞きますからねっ! 抱え込んじゃダメですよぉ。」
シノの元気で少し気が晴れたリョウマは「おう、ありがとうな。」と軽く笑顔で返した。
「ぼちぼち時間か。」
リョウマがそう呟いたときに事務所のドアがノックされ、小隊長のウコンが姿を見せた。
「やぁ、噂の研修生を連れてきたよ。」
「了解です。みんな、黒板前に集合。」
メンバー全員がブリーフィング用の黒板前に集まった。そしてウコンが小柄な茶髪でショートヘアの少女と共に事務所に入ってきた。
(あぁっ、可愛い・・・)
(あう・・年下のはずなのにあたしのより大きい・・)
女性人が各々の感想を心の中で呟いている中、研修生は黒板の前でメンバーに向かい合う形で立った。
「じゃ、リョウマ君、後はよろしくね。」
ウコンが去った後、リョウマが続ける。
「えっと、じゃぁ、彼女がこれから3か月間、俺たちい組に仮配属になった研修生だ。ではまず、自己紹介から。」
「ハイっ!名前はアカリ サイカと申します。人間で年は16歳ですっ!先日、養成所を卒業してこの度、オワリ駐屯地第二小隊い組に仮配属させて頂きました。身体の身軽さと医療知識には自信があります。得意武器は細剣です。色々と迷惑をおかけするかもしれませんが、ご指導の程よろしくお願いします!」
「ありがとう。皆、よろしく頼むな。」
「あの、先輩、質問いいですかぁ?」
「何だシノ?」
「サイカってことは、もしかしてアカリさんは先輩の妹さんですか?」
「う、そう、なんだよ。」
「兄がいつもお世話になってますっ!」
「ははは・・・では皆も自己紹介頼む」
「レン シドウだ。人で大太刀を使う。」
「あの、えとユキヒメ フユキといいます。魔人です。射撃が得意です。」
「アタシは獣人族のシノ コナカ、よろしくねアカリちゃん!」
「みんなありがとう。さて、他のチームについてはおいおい紹介するとして、早速腕試しといこうか。皆にも伝えたようにミカワ地区11:00より魔物討伐の出動要請が入っている。出撃は10:15だ。各自、装備を整えて暁号に集合すること。」
「「「「了解!」」」」
「では、一旦解散。」
自己紹介イベントが終わり、リョウマは一息ついてデスクに座る。
「お兄ちゃん、リーダーっぽくてカッコ良かったよ。」
そう言ってニヤニヤしながら、アカリが話しかけてきた。
「ここでお兄ちゃんはやめろ。お前、支度は済んだのか?」
「だって移動してすぐだもん。手荷物だけデスクに置いたらいつでも出られるよ。」
「そうかい、シノ?」
「ニャンですか、先輩?」
「準備ができたらアカリを車庫に案内してくれないか?俺は少し書類を片してから行く。」
「了解ですっ!アカリちゃん、あと5分くらいしたら行こっか?」
「ハイっ!」
「あ、私ももうすぐ出られるので一緒にいきましょう。」
シノは何冊かのファイルをリュックに詰め、ユキヒメはロッカーから拳銃のようなものを取り出して腰のホルスターに挿した。そして準備を終えた女子3人が連れ立って車庫へ向かうため部屋を出て行った。
「あれがさっきの悩みの種か。」
「そうだよ、全くどうなってんだか。」
「安心しろ、俺たちの連携の高さはお前が一番わかっている。アカリに危険が及んでもフォローできる。」
「ああ、頼りにしてるぜ相棒。」
「それに今、戦略上お前が守るべきはシノだ。最悪、前線は俺とユキヒメに任せてアカリを連れて退け。いいな。」
「言われなくてもわかってるよ。お前がリーダーの方が良かったんじゃないか?」
「俺はそんな柄じゃない。任命されたのはリョウマ、お前だ。俺は適任だと思ってるよ。」
「ありがたいねぇ、そんじゃ期待に応えてカッコよくリーダーやりますか。なんだかんだで初陣だしな。」
「ああ。じゃ、俺は先に行くぞ。」
背中に身の丈ほどの長刀を背負い、レンが車庫へ向かった。
「さて、と。俺もぼちぼち行くか。」
リョウマも大楯を携えて事務所を後にした。
◯オワリ駐屯地 第四通路 09:55
「ニャンと、先輩はそんな小さい時から大楯振り回してたの?」
「ハイ、父が殉職してから「俺も強くなる」って訓練用の大楯を振り回そうとしてました。大体、12歳で養成所に入る前くらいからまともに楯を持って動けるようになってたかと思います。」
「あれ、メイスはどうなさったのですか?」
「うーん、それがいつ習得したのかわからないんです。私も事務所にあった兄の武器を見て驚きました。多分、養成所時代に型を作ったと思うんですけど。」
「先輩のメイス捌きはオワリ駐屯地七不思議クラスのネタニャ。みんな参考にしたいけど動きが独特すぎて真似できないのニャ。」
「そうなんですか・・・、あの、普段の兄はどんな感じなのですか?」
「優しくて強い、でもたまに少し子供っぽく感じますね。」
「ユキヒメ姉に言われると、大体みんな子供になるニャ。」
「シノちゃん、何かいったかしら?」
「気のせいニャ〜、よし到着。ここが車庫だよ。」
機械とエアブローの音が鳴り響く、騒々しい空間がアカリの目の前に広がっていた。
「えと、先ずニャっと。おやっさぁーん!」
シノはそう叫びながら、ある方向に手を振る。
「あぁん?シノ、てめえ、せめて"中尉"をつけろと言ってるだろうが!」
1mほどの巨大モンキーレンチを片手に悪態をつきながら初老の男性が近づいてきた。
「この人がおやっさん二ャ。」
「シノちゃん、きちんと紹介しなさい。この方はガンテツ中尉。オワリ駐屯地の整備隊の隊長さんで、皆さんからはおやっさんと呼ばれてます。」
「おお、よろしくな。あんの中隊長が部下の前で軽々しく呼ぶもんだから皆が真似し出して、気がついたら定着しちまった。ところでお嬢ちゃんは誰だい?見ねえ顔だな。」
「アカリ サイカと申します。本日、第二小隊い組に仮配属になりました。それと兄がいつもお世話になってます!」
「なるほどマゴイチの娘か。」
「父のことよく知ってるんですか?」
「知ってるも何もアイツと俺は同期だ。まぁ、アイツが逝っちまった時、俺はずっとここで武器のバックアップしてたがな。全く、こんなべっぴんな娘残して逝くなんて罪な野郎だ。」
「その、私、父の記憶が全然無くて。また任務が終わったら聞きに来ていいですか?普段、どんな人だったとか。」
「あぁ、構わねえよ。16:30以降なら作業が終わってるからその辺りで来な。研修生ならさして急ぐ仕事もねぇだろ。」
「ありがとうございます!」
「おう。ところで用はこんだけか。」
「おやっさん、こんだけじゃないニャ。アタシ達、10:15にミカワへ討伐任務に行くのニャ。暁号にはもう乗り込んでも良い?」
「おぉ、そうだったな。整備は朝一に終わってるぜ。」
「サンキューニャ!アカリちゃん、行こっ!」
「ハイっ!」
アカリがぺこりとガンテツにお辞儀をした後、シノとアカリは暁号へ向かって小走りでかけて行った。
「いつもすいません。」
「まぁ、いいさ。アイツは娘みたいなもんだからな。アカリがどの程度できるか知らんが、簡単な討伐任務と思って油断するなよ。」
「はい。彼女に何かあったらマゴイチさんにあの世で顔向けできません。リョウマさんも同様に、ですが。では、私も失礼します。」
「おう、気をつけてな。」
そう言ってしばらく、彼女の背中を見送った。柄にもないことを自然に口走った自分に対し、少しこっぱずかしい気持ちを抱きながらガンテツもその場を後にした。
「これが暁号・・・」
アカリは4輪駆動の大型車両を見上げて呟いた。
「説明は後、先ずはサッサと乗り込むニャ」
シノは車両後方のハッチを開き暁号へ乗り込んだ。アカリはそれに続いた。
中はそれなりに広かった。運転席が前方に二人分あり、室内中央にテーブルとカプセルに近い形をした座席が一つ、そして一人分の空間を空けて二人分の座席が左右の壁に沿って2列づつ付いている。シノは中央のカプセル型座席下のコンテナにリュックを入れ、そのまま座席に座った。
「アカリちゃん、運転席はリョウマ先輩とレン先輩が座るから、後部座席の好きなところ座ってね。」
そのように促され、アカリは中列左側の座席に座った。
「じゃ、軽く説明するニャ。この機体の名前は暁号。正式名称は移動司令室内蔵型装甲車、通称・地車。オワリ駐屯地には第一小隊用と第二小隊用で2機が配備されてるニャ。隊によっては武器がついてることがあるけど、基本は戦闘に参加せずに後方支援に徹するのが普通ニャ。」
シノから説明をもらい、うんうんと話を聞いているとユキヒメ、レン、リョウマが乗り込んできた。
「よし、全員揃ったな。出発するぞ。」
リョウマ、レンが運転席に座りリョウマがハンドルを握った。ユキヒメは中央の左側の座席に座った。全員の着席とベルトの固定を確認した後、リョウマは出撃準備に入る。
「ろ組 ミズハ、聞こえるか。い組はミカワ地区魔物討伐任務に出撃する。暁号の出撃許可を求む。」
「こちらミズハ。指令コードを確認・承認しました。車輪のロックを解除します。」
アナウンスと共に車輪を固定していた輪止めが解除された。
「エンジン始動、各計器異常なし。発進準備完了だ。」
レンが機内装置の確認をして、発進準備完了の合図を出す。
「こちらも機内装置の正常稼動を確認、では皆さんお気をつけて。」
「了解、暁号発進する!」
エンジンの轟音を上げ、暁号が車庫を出る。徐行で出撃門まで来るとリョウマはアクセルを踏み込み、一気に加速して目的地・ミカワへ向かうのであった。