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“ふわ~、なんか体がポカポカして気持ちいい……この抱き枕最高……ん?抱き枕?持ってたっけ?
おお、塩顔イケメン!なんだ夢か。イケメンに抱っこされてる夢を見るなんて……ご褒美か!
右を見ても左を見ても鏡を見ても西洋人。しかもあり得ない髪色ばかりと来たもんだ。記憶が戻ってからずっとどこか落ち着かなかったんだよね~
久々に落ち着くイケメン見れたわ~。眼福~ふふふ
夢……夢だよね?なんか……夢にしては抱かれた腕の感触が……あ、あかんこれ現実や!
え!?なんで女子寮に男が?……これまじあかんやつや!”
「い……いやー!離して!離してよっ!」
“ヤバいヤバいヤバいヤバい!何とか逃げたけど、貞操の危機と命の危機どっちや!?
どっちにしろやられる前にやらなヤバい!……あかん、膝が尋常じゃないくらい震えとる”
「ア、アリス様!驚かせてしまい申し訳ございません!マーサもいますので安心してください!
カイル殿下、とりあえず今は御退出を!アリス様のことはお任せください」
「あ、ああ……そうだな……」
カイルが苦し気にアリスの隠れているカーテンを見ながら、ふらふらと部屋を出ていったことを、カーテンに隠れているアリスは気付かなかった。
“カイル殿下?マーサ?……あ、そうだった!私ニジノ王国にいるんだった!寝ぼけて大騒ぎしてしまったわ!
しかも関西人じゃないのにエセ関西弁で……は、恥ずかしい!いや、エセ関西弁は心の中だけだから聞かれてないはず!
ああでも叫び声を上げてしまったわ……って起きたらイケメンに抱っこされてるんだもん!叫ばない方がおかしいし!”
「アリス様?大丈夫ですか?カイル殿下は出ていきましたので、どうぞ出てきてくださいませんか?」
「す、すみません寝ぼけてお騒がせしてしまいました!あの、えっと……さっきの状況は……?」
アリスは震える足に何とか力を入れて、おずおずとカーテンから顔を出してマーサに聞いた。
「覚えていらっしゃいませんか?夜中に酷く苦しんでいらっしゃって……カイル殿下に魔力を補充していただいていたんです。
手を繋ぐだけでは時間もかかりますので、少しでも早く楽になるようにと……勝手してしまい、申し訳ございませんでした。
でもその、私も一緒にいましたので、誓って魔力の補充以外は何もしておりませんので!」
そう言って、マーサは深々と頭を下げた。
「あ、頭を上げてください!こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ありません!その、目を開けたら男性に抱かれていたので驚いてしまっただけなんです。
ちょっと寝ぼけていて……ここがどこか忘れていたと言いますかなんと言うか……すみませんでした」
羞恥に顔を真っ赤にしてアリスも頭を下げた。
“どうしよう……助けてくれたのにあんなに拒んでしまって申し訳無いわ。次会ったらちゃんと謝らなきゃ……
それに驚いたけど嫌悪感はなかったわ。あの人は父とは違う……きっと違うはず”
「そんな、顔を上げてください!普通目を覚まして男性に抱かれていたら誰だって驚いて当然ですわ!
御気分はどうですか?辛いところはありませんか?さあさあ、ソファにお掛けください」
マーサに手を引かれ、素直にアリスはソファに座った。
「体調は……そうですね、とってもいいです。あっつぅ……何だか少し関節が痛い?」
「ああ、そう言えば内臓の修復が終わって、今度は体の成長に魔力が使われているそうです。ですので、成長痛だと思いますわ。
また後で大先生がいらっしゃいますので、その時聞いてみましょう。
さて、今日はホシノ王国よりアリス様の荷物を持って使者の方が来られますけど、ドレスはどれにいたしますか?
まだお荷物が届いておりませんのでニジノ王国のドレスになりますが……この薄いグリーンなんてどうでしょう?アリス様の綺麗な桃色の髪とよく合うと思いますわ」
そう言って薄いグリーンにラベンダー色の帯のようなリボン、裾に同じくラベンダーやピンクの花の刺繍のある綺麗なドレスをかかげて見せた。
「うわ~、凄く可愛い!私が着てもいいんですか?」
「もちろんですよ、こちらにご用意しているドレスは、全てお好きにお使いください。
具合がよろしいようでしたら、今日は庭園を見てみられませんか?あまり長い時間は無理ですが、気分転換にもなると思いますよ。
私は使者の方をお迎えしますので、お供することはできませんがそちらのメアリがご一緒いたしますので」
「ありがとうございます。そうですね、きっとホシノ王国とも違うお花が咲いているんでしょうね……ぜひ見てみたいです!」
「かしこまりました。では、朝食の後にお願いね、メアリ」
若くて愛想のいい侍女はお任せくださいと頭を下げ、いそいそと朝食の準備に取りかかった。
マーサの退出後メアリにドレスを着せて貰い、美味しい朝食を食べると、さっそく庭園に行くことにした。
薔薇の多かったホシノ王国と違い、ニジノ王国の庭園はツツジが咲き乱れ、どこか懐かしいような雰囲気がした。そうしてしばらく歩いていると、目の前に深紅の髪のちょっときつめの美少女が現れた。
「貴女がカイルお兄様の運命の片翼ね!片翼のくせにお兄様を拒んで悲しませてるそうじゃない!
なんで貴女なのよ!要らないなら私にちょうだいよ!お兄様だって私が片翼ならよかったのにって言ってくれたのよ!
なのに今さら現れてお兄様を傷つけるなんて……消えてよ!お兄様の前から消えてよ!貴女なんていなくなってしまえばいいのよ!」
“ああ、なんだ……やっぱりあの人も父と同じだったのね……”