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長いこと更新せずにすみません
夜中、アリスは激しい頭痛と体の痛みに目を覚ました。朦朧とする意識のなか、少しでも痛みを和らげようと横向きになったり体を丸めたりとしてみたが、どんどん痛みが増し脂汗に涙が止まらなかった。
「お待ちください!勝手に寝室に入るなど……」
「煩い!アリス、大丈夫か!?急いで医者を呼んで来い!アリス、アリス、しっかりしろ!」
急なカイルの訪問に護衛騎士は驚き、慌てて止めようとしたがカイルの慌てた様子に強く止めることも出来ず、アリスの部屋にカイルの入室を許してしまった。
「ぅぅ……っく……ひっ……」
カイルと共に護衛騎士が部屋に入ると、アリスがベッドの上でバタバタと姿勢を変えながら苦しそうにもがいていた。
護衛騎士は驚きその場に硬直し、カイルを止めようとつかんでいた腕をゆるめた隙に、カイルは急いでベッドの横へ行くと、アリスに手を伸ばした。
アリスも虚ろな目でカイルに手を伸ばし、すがり付くように抱きついた。
カイルは一瞬驚いたが、すぐにベッドに腰かけてアリスを膝に乗せ、横抱きにして抱きしめた。
触れ合っている部分から温かな魔力が流れ込み、あんなに苦しかったのが嘘のようにすーっと痛みが引いていった。
アリスは無意識にもっと魔力を吸収したくて、カイルの胸に頭をすり付け少しでも隙間を埋めるようにぎゅうっと抱きついた。
それに応えるように、カイルもきつく抱きしめ返した。
安心して落ち着いたのか、しばらくするとアリスの規則正しい寝息が聞こえてきた。
バタバタといくつもの騒がしい足音が聞こえ、マーサ、大先生、助手の順番でアリスの部屋に駆け込んできた。
「アリス様!大先生を……「マーサ、静かに…アリスは今眠ったところだ」」
3人がカイルに抱かれているアリスを見ると、汗で前髪がおでこに貼り付いてはいるが、カイルに抱きつき安心したように、穏やかな表情で眠っていた。
「どれどれ……ふむ、思ったよりも修復スピードが早いようですな。片翼と出会ったことで、体が安心して今まで出来なかった荒れた内臓の修復に成長にと一気に魔力を使ったのでしょう。
マナよ、どうじゃ?アリス様は少し成長しているのではないか?」
大先生に問いかけられたコケティッシュな助手が、いつもの無表情で淡々と答えた。
「身長1cm、体重2キロ、胸囲に…」
「もうよい!全くお主は…もう少しデリカシーを持てと毎回言っているであろう!
それにしても困りましたな……この速度で魔力を使うとなると、1時間手を繋いでいただくだけではまたすぐに酷い淀みが予測されます。
かと言って、これ以上の触れ合いを……果たしてアリス様の精神が耐えられるかどうか……
片翼と言う言葉に酷く反応されると言うことですが、こんなに体がボロボロになる程、いったい何があったのでしょうな?
母上は亡くなられたと言うことですが、父上や他の家族どうなんですかのぅ?
普通は家族や親戚、友人と共にいればここまで酷く淀む事はあり得ないのじゃが……」
部屋にしんみりとした空気が流れた。
カイルはアリスが風邪をひいてはいけないと思い、アリスにクリーンをかけた。
心地好い魔力に包まれたせいか、アリスの口許が幸せそうにほころんだ。
「まぁなんですな……とりあえず今夜は魔力補給のために殿下がついていた方がよろしいでしょうな。
明日ホシノ王国よりアリス様の荷物を持って来られる方達から、何か聞けるとよいのですが……」
「そうですね……どなたが来られるかは分かりませんが、アリス様の情報を色々聞いてみましょう。
さてカイル殿下、その体勢ではさすがにキツいでしょうからアリス様をベッドへ下ろしてください」
「いや、問題無い。手を握るよりこのままの方がアリスにより多く魔力を渡せるようだ」
そう言ってカイルは奪われまいとアリスをさらにキツく抱き締めた。アリスも幸せそうにカイルの胸に頬をすりすりした。
「はぁ、全く……アリス様が目を覚まされたら驚いてしまうでしょう?少ししたらベッドに寝かせてくださいね!
婚約前の男女を2人きりにする訳にもいきませんので、私も朝まで同席させていただきますからね」
「ああ……わかった。もう少しだけ、このままでいさせてくれ」
アリスに出会うまで、長いこと苦しんでいたカイルの姿を知っているだけに、誰も無理矢理カイルからアリスを引き離すことは出来なかった。
アリスが目を覚ますまで、もう少しだけこのままいさせてあげよう。自然とみんながそう思っていた。
アリスを膝に抱いたカイルとマーサを残し、みんなが退出したあと、マーサはソファに座り朝を待つことにした。
朝が来るまでにアリスをベッドに寝させなきゃと、始めこそ気を張っていたが、薄暗い部屋の中ですることもなく、自然と船を漕いでしまっていた。
一方カイルは、探し始めて16年、ようやく出会えた片翼の寝顔を飽きること無く見つめていた。
髪と同じ桃色の睫毛で縁取られたアメジストの美しく輝いた瞳……アリスはいったいどんな顔で笑うのだろうか?
そんなことを考えているとパチリと大きな瞳が開き、美しいアメジストに吸い込まれたように目を離すことが出来なくなった。
どのくらいの時間そうしていたのか、みるみるうちにアメジストに透明の膜が張り、透明の雫がボロボロと流れ落ちた。
「い……いやー!離して!離してよっ!」
アリスは転がり落ちるようにカイルの膝から降り、部屋の隅のカーテンに隠れて震えていた。
アリスの激しい拒絶に、カイルは幸せの絶頂から絶望へと突き落とされた。