6
ぱたん
“……っは!最後の方マーサさんが早口過ぎて理解するのに時間がかかってしまった!
え?え?手を繋ぐ……?え?どええええええー!?あの人と?え?え?
てかマーサさん……言い逃げしたなー!手を繋ぐくだりだけやたら早口だったし!
毎日1時間も出会ったばかりのイケメンと手を繋ぐとか……前世アラサー独身喪女を以てしても辛いわー
う~、でも先生とはもっと凄いことしてたし……きっと大丈夫……大丈夫……大丈夫……”
そう自分に言い聞かせているうちに、アリスは気付けば寝てしまった。
次にアリスが目覚めた時、辺りはすっかり暗くなっていた。アリスは、部屋の何処にランプがあるかわからなかったので、とりあえず部屋全体に向けて灯りをつけるための魔力を放った。
次の瞬間、眩しすぎるほど明るくなってしまったので、慌てて力を調整して調度いい明るさまで灯りを落とした。
“ふぅ……何だか凄くお腹がすいたな。そう言えばしばらくの間はお腹が物凄くへるって言ってたっけ。
痛っ!っつー、何だか関節が痛い。まぁでも、ホシノ王国に居たときに比べたら驚くほど身体が軽くてビックリだけどね~。
えっと、このベルを鳴らせばマーサさんが来るんだよね?チリンチリーンって、やっぱりここでも音は鳴らないか。
いつ見ても不思議……音は鳴らないけど、相手が何処にいても片割れの魔石が反応して、きちんと使用人が来てくれるんだよね……”
等とアリスがぶつぶつ考えている間に、ドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
アリスが返事をすると、食事の乗ったカートを押したマーサが入ってきた。
「失礼します。よくお休みでしたね。きっとアリス様のお体が、休息を求めているのでしょうね。
たくさん食べて、たくさん寝てくださいね。お食事は、胃に優しい雑炊と果物、あとデザートもお持ちしました。
お風呂は入れそうですか?あのドアの向こうが浴室ですので、部屋から出る必要はありませんが、起き上がるのがキツいようでしたら明日にしましょう」
「お風呂……?入りたいです!お風呂大好きなので、ニジノ大国がどんなお風呂なのか楽しみです!
あら?そちらの瓶は何ですか?凄く綺麗ですね……」
アリスはカートの上に置かれたままの、ガラスのコロンとした瓶に目が止まった。
「こちらはカイル殿下からの贈り物です。と言っても我が国を代表する一般的なお菓子なんですけどね。
金平糖です。綺麗でしょう?1粒1粒は星のように可愛らしい形なんですよ。ふふふ
とても甘くて美味しいので、ぜひ召し上がってみてください。
では、私はお風呂の準備をしてまいります。石鹸などでお好きな香りはございますか?」
「そうですね……あまり香りが強すぎるものや甘すぎるものは好きではありませんが……今までは用意されたものを使っていたので、どんな香りがあるのかよくわからなくて……」
「では、いくつか用意しますので、お好きなものをお選びください」
そう言って、マーサは浴室の方へ行った。
アリスは夕食を食べながら、ぼんやり金平糖の瓶を眺めた。7色の金平糖が虹のように綺麗に並べて入れてあって、瓶に光が反射してキラキラしていた。
“高価な宝石やドレスだと絶対受け取らないけど、庶民的で可愛らしいお菓子のプレゼントだと拒否できないな……
ふふ、金平糖懐かしい。何処かのデパートの催事で、可愛い瓶に入ったカラフルな金平糖が売られてたな~。
でも意外とお高くて、結局買わなかったんだよね。味も同じなのかな?ふふふ、大人の男性からのプレゼントが金平糖とか……ちょっと可愛いかも“
アリスがニヤニヤしながらご飯を食べていると、マーサが戻ってきた。
「夜の雑炊もお口に合われたようでよかったです。お風呂もお湯を出して来ましたので、いつでも大丈夫ですよ。
入る頃に、お手伝いさせていただく侍女を呼びますね」
「え!いえ、1人で入れます!」
「ええ、ええ、わかっていますよ。ですが、まだお体の調子が万全ではありませんので、中で何かあっては大変ですわ。
それに、作法なども違うかもしれませんしね……侍女がお嫌でしたら私が手伝いますが……どうしましょう?」
「えっと~……1人で入ると言う選択肢は……」
「ございません」
“ひい!マーサさんから黒いオーラが!物凄くいい笑顔なのに……黒い!黒い!どす黒いー!“
「えっと……でしたら……侍女さんでお願いします……」
「さん付けは要りませんよ?では、侍女達を呼ぶことにしましょうね。ふふふ」
“……侍女 達っ!?“
嫌な予感は当たり、入浴は3人の侍女に甲斐甲斐しく洗われ……磨かれ……あがった後は、たっぷりの香油で髪と全身をピカピカに磨かれて、アリスは羞恥に耐えるのに必死で入浴を楽しむどころではなかった。
“うう、疲れた……貴族なら当たり前なんだろうけど……やっぱり無理!お風呂は1人じゃないと落ち着かないよ~。
今後は何がなんでも断ろう……!”
そう決意して、疲れた精神を癒すために金平糖を一粒口に含んだ。甘くて懐かしい食感に、アリスの口角は無意識に上がっていた。