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「米を知っているのか!?」


「ひいっ!……あっ!す、すみません」


 マーサの言い付け通り、少し離れた場所に待機していたカイルが急に大きな声を出したので、アリスは思わず叫んでしまった。

 その瞬間、カイルが傷付いた様に顔を歪めた。


「殿下!急に大きい声を出したからアリス様がビックリしたじゃありませんか!

 さあさあ、レディはこれからお食事です。そんなに見られていては落ち着かないでしょう?

 まだ起きたばかりで混乱していますし、アリス様が落ち着くまで殿下は立ち入り禁止です」


 そう言って、マーサはカイルを部屋から追い出し、ドアの外にいる護衛騎士に、許可するまでカイルを入れないようにと指示を出してドアを閉めた。

 アリスはドアが閉まる直前に見えた、泣きそうな表情のカイルに胸が苦しくなった。

 

 “うう……ビックリしただけだったんだけど……傷付けちゃったみたいで心苦しい……

 でも、実際近くにいると落ち着かないから、マーサさんが追い出してくれてよかった”


「ご自分で食べられそうですか?きついようでしたらお手伝いいたしますが……」


「いえ、大丈夫です!自分で食べられます!

 こちらの主食はお米なのですか?昔食べたことがあって……とても懐かしいです」


 アリスはお米を知っている理由を適当に誤魔化すことにしたと同時に、主食が米だと嬉しいなと言う期待を込めてマーサに聞いてみた。


「まぁ、そうだったんですね。お米は我が国の代表的な穀物になります。

 遠いホシノ王国にも各国を経て輸入されたのかもしれませんね」


「各国を経て……ですか?」


「はい、ホシノ王国とニジノ王国は遠く離れておりますので、直接の交流はありません。

 それぞれの友好国の転移門を3回通ってやっと行き来できるのです。

 カイル殿下など王族でしたら簡単に門を通ることが出来ますが、普通の旅人や商人などはそれぞれの国で検問など厳しく行われますし、通行手形を入手するのも一苦労だと思います。

 通行料もそれぞれかかりますので、ホシノ王国に行くまでに通行料も加えてとんでもなく高級な品になってしまいます。

 ですので、おそらくアリス様がお召し上がりになられたお米は、販売用ではなく珍しい食材をお土産として渡されたんだと思います。

 町中で売っていたり、食事に出てきたりはしなかったでしょう?」


「そう言えば……そうですね。狭い世界で生きていたので知らないだけかもしれませんが、家でも学園の寮でも出てきた記憶はありません。

 でも、もう一度食べたいと思っていましたので、とても嬉しいです!

 いただきます!……もぐもぐ……美味しいです!味付けもすごく好みです!」


 久し振りに……と言うか、アリスになって初めて食べるお米はとても美味しく、ホシノ王国の食事が口に合わなかったアリスは、気付けば涙を流しながら黙々と食べていた。


 “うう、雑炊美味しい……こんな国があったなんて……お味噌や醤油もあるのかな?

 雑炊に醤油が使われてるみたいだけど……う~ん、舌は肥えてないからよくわかんないや。

 それにしても、かなり遠くの国に来てしまったみたい……まぁでもお米もあるし、くそ親父とも離れられるし、噂も届かないだろうし、過ごしやすいかもしれない。

 あ、でも私あのカイルって人の片翼とか言われたんだった……しかも殿下って……一生片翼なんて見つからなきゃいいと思ってたのに……これからどうなるんだろう”


「アリス様……大丈夫ですよ、カイル殿下と一緒でしたら、ホシノ王国にも簡単に行くことが出来ますので。

 お寂しいでしょうが、体調がよくなるまで暫くは我慢していただけますか?」


 マーサが申し訳なさそうに俯いた。


「あ、違うんです!家族は居ないようなものですし、友人と呼べる人もいないので帰りたいとかは思っていません!

 いつか国外に出ようとも思っていましたし……その辺は気にしないでください。

 その……唯一よくしてくれていた執事や侍女長や先生に何も言わずに来てしまって、心配していないかなとそれだけは気になりますが……落ち着いたら手紙を出すことはできますか?」


「はい、もちろん可能です!すぐに便箋を準備いたしますので、お気分が宜しい時にでもお書きください。私が責任を持って届けさせます。


 その……帰りたいわけではないと言うことでしたら、心配事はカイル殿下の事でしょうか?」


「うう……はい、その……殿下と言うことは王族の方と言うことですよね?」


「はい。ですが第3王子ですし、王太子殿下にはすでに男児が2人いますので、気負う必要はありません。

 カイル殿下は結婚後公爵位を賜る予定です。アリス様がご実家を継がなければいけないなら、婿入りすることも可能です。


 長年探されていた運命のお相手にようやく出会われて、勢いで拐ってくるなどと愚かな真似をしましたが……普段は頼りがいがあり、思慮深いいい方なのです。

 お嫌かもしれませんが、アリス様と魔力の相性が1番いい相手ですので、1日1時間手を触れることをお許しください。

 大先生が言うには、アリス様は長年の魔力の淀みで体を作る魔力が足りなかったそうです。

 ですので、やっと淀みも無くなりいい魔力が流れ込んできたおかげで、今まで出来なかった弱った身体の修復と成長に、一気に魔力が集中する事が考えられるそうなのです。

 そのため、魔力不足でまたすぐに淀みが発生してしまう恐れがありますので、1日1時間はカイル殿下と手を繋ぐようにとの事でした……

 その……お嫌でしたら寝ている間にこっそり握らせますが……ああ、でもレディの寝室に入れるなどとんでもありませんわよね……!?どうしましょう……


 まぁ、殿下の事は置いておいて、とりあえず今はゆっくりお休みください。

 まだお体がお辛いでしょう?私共は部屋を出ますので、何かありましたらベルをお鳴らし下さい。

 淀みが無くなった影響で、いつも以上にお腹が空くかもしれないとのことでしたので、我慢せずにいつでもお呼びください。

 では、失礼いたします」

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