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 その日は夜中から頭がずきずき痛かった。


 “ああ、またこの痛みか……“


 アリスは母親が死んだ10歳の頃から、時々来るこの痛みに、すっかり慣れっこになっていた。

 とは言え怪我や腹痛と違い、この頭痛は治癒魔法も効かない。

 しかも、黙って寝てれば治まると言うものでも無いので、酷くなる前に何とか朝1番で教授室に行こうと急いだ。

 年々酷くなる痛みに加え、最近では間隔も短くなり、気付けば万年睡眠不足に食欲不振に陥っていた。


 “あそこの角を曲がればやっと教授室だわ”


 その頃にはあまりの痛さに吐き気までプラスされ、脂汗が吹き出て視界も霞み、ふらふらの状態だった。

 アリスが角を曲がろうとした瞬間、何者かとぶつかった。とっさに謝ろうとしても体が言うことを効かず、そのまま意識を失った。




 目が覚めると頭痛もやみ、近年では珍しいくらいスッキリして、身体中がポカポカと気持ちいい魔力で溢れていた。

 真っ先に目に飛び込んで来た、見慣れぬ透ける素材の軽やかな生地の白い天蓋に、アリスは首をかしげた。

 

 “ここはどこかしら?医務室のベッドにしては恐ろしく寝心地がいいわよね……え?”


 ふと違和感を覚え手を見ると、見知らぬ男性がアリスの手を握り、椅子に座ってベッドに頭を伏せて寝ていた。


「え?だ、誰!?いやっ!」


 アリスは驚いて手を振り払おうとしたが、がっちり握られていて離れなかった。

 手を振られたことで男性が起きたようで、ガバッと勢いよく頭を上げた。


「よかった、気が付いたのだな!何処か痛む所は無いか?医者が言うには、魔力の淀み以外はどこも悪くないと言うのだが……」


 赤みがかった焦茶の髪の、左側だけ3本編み込みをした超絶イケメンがそこにいた。

 切れ長の黒い瞳が、心配そうにアリスを見ていた。


 “ふわ~、某スポーツ選手を男らしくした感じで、めっちゃタイプ……って、アホなこと考えてる場合じゃなかった!”


「倒れたところを助けていただいたのですか?ありがとうございました。私はアリスと申します。

 えっと、失礼ですがここはどこでしょうか?学園の教授室に向かっていたと思うのですが……」


「ここはニジノ王国の王宮だ。私はカイル=ニジノ。

 可愛い片翼……やっと名前を聞けた。アリスか……ふっ、私の片翼はなんて綺麗な瞳なんだ。

 一瞬だけ見えた色は、やはり見間違いでは無かったようだな。


 意識を失っている間に連れてきて悪かった。あまりの嬉しさについ拐ってきてしまったのだ。

 ああ、安心しろ。学園にはちゃんと連絡してある。明日にでも寮にある荷物も届くだろう。

 家名を聞いてもいいか?家族にも連絡をしたいのだが……」


 嬉しそうに頬を赤らめながらカイルが捲し立てた。


「か、片翼っ!?家族…………?……う、うえ……え……。おえ……す、すみません……おえっ……」


 アリスは片翼、家族と聞いて、思わず母の最後が思い出され、盛大に嘔吐してしまった。

 と言っても頭痛で何も食べられなかったので、出てくるのは胃液だけなのだが……

 鮮明に思い出される母の最後の姿と、父と片翼の情事の声、嘔吐による胃のムカつきや喉の傷みで、アリスはぽろぽろと自然に涙が溢れてきた。


「だ、大丈夫か!?」


 慌ててカイルがアリスの背中をさすろうと手を伸ばしてきた。


「触らないで!おえっ……ごめんなさい、ごめんなさい……クリーン……お願い、近付かないで!」


 嘔吐しながらも、自ら汚したシーツにクリーンをかける姿は異様だった。


「ほらカイル殿下、ぼーっとしていないでお医者様を呼んできてください!早く!

 ゆっくり呼吸をして……大丈夫ですよ……

 お水を飲まれますか?さっぱりするようにレモンも搾りましょうね。はい、どうぞ……ゆっくり飲んでくださいね」


 年配の女性がカイルを押し退け、アリスに優しく声をかけ、レモン水を差し出してくれた。

 その間にバタバタとカイルが出ていった。


「あ、ありがとうございます……」


 カイルが部屋を出たことで、少し落ち着いたアリスは水を受け取り、ゆっくり飲んだ。

 

「私はマーサと言います。カイル殿下の乳母をしていました。暫くは私がお世話しますので、何でも申し付けてくださいね。

 さて、具合はどうですか?戻したばかりの方に聞くのもなんですが、お腹はすいていませんか?」


「え?お腹……?」


 ぐ~……ぎゅるるるる~……


 こんな状況でもお腹はすくようだ。アリスは恥ずかしくなって真っ赤になった。


「ふふふ、お腹すいているようですね。誰か、誰かいる?アリス様に胃に優しい物を何かお願い。よろしくね。


 それにしても、先程は嘔吐されていましたが、昨日と比べて随分顔色が良くなられましたね。

 丸一日食べておられませんので、お腹が鳴るのも当然です。可愛らしいお腹の音など、気にされなくて大丈夫ですよ」


「え……?ま、丸一日っ!?」


 アリスは驚いて思わず大声を出してしまった。


「はい。昨日の朝、突然カイル殿下がアリス様を抱えて転移門に現れたもんですから、王宮は大騒ぎでしたよ。

 意識は有りませんし、顔色が死人のようで……意識も無いのに勝手に連れてきたって言うし、名前もわかりませんし……

 やっと見つけた、かた……う゛う゛ん、運命のお相手が、急にお倒れになって焦ってしまったようですわ。

 ですが、いくら王族でも……立派な誘拐ですわよね……?

 みんなすぐにでも連れ帰るべきだと思ったのですが、あまりにも顔色が悪かったので、お医者様に見せるのが先だとなったんです。

 起きたら突然見知らぬ場所にいて驚いたでしょう?」


 マーサが申し訳なさそうにアリスが置かれている状況を説明してくれた。

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