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返事をしなくてはと思うものの、互いに目を離せずに再び唇が重なろうとした瞬間、また控えめなノックが響いた。
「アリス様、カイル殿下……夕食はどうされますか?」
控えめなノックと共にかけられたマーサの声に反応して、アリスのお腹が可愛らしく音を立てた。
アリスは羞恥で真っ赤になったが、カイルはお腹の音さえも愛おしいとでも言うように、うっとりとアリスの頬を撫でながら返事をした。
「ありがとう、いただくよ」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
すぐってどのくらいの時間かな……と思ったのがバレバレだったようで、カイルはくすっと笑ってチュッチュッと今度は軽く触れるだけのキスをした。
思ったよりすぐにマーサは2人分の夕食の乗ったカートを押して戻って来た。
テーブルにお皿を並べながらも、チラチラと2人を気にするマーサに、クスリと笑いを漏らしたカイルが説明した。
「マーサ、心配をかけたな……アリスが番を認識できるようになったようだ」
「まあっ!まあまあまあまあ、おめでとうございます!本当にようございましたね……ううう」
「ああ、ありがとう。あ、そうだマーサ。今夜からは一緒に寝るからそのつもりで頼む」
“ええっ!一緒に寝るの?いや、でも正式に夫婦だし成人してるからいいのかな?いや、でもまだ早くない?”
アリスが真っ赤な顔で口をパクパクさせていると、クスクス笑いながらカイルに頬を撫でられた。
「大丈夫だよ、ただ抱き締めて眠るだけだから……」
そうか、抱き合って眠るだけなのね……とアリスは少し残念に思いつつも、ほっとしていた。
「当たり前です!まだ月の物の最中ですし、体も成長しきっておりません。初夜は大先生の許可が出るまで禁止です!
ですが……まぁ魔力の補給も出来ますし、同じベッドで寝るだけならいいでしょう。
カイル殿下……絶対に手を出してはいけませんよ?分かりましたか?」
「大丈夫だ。アリスに負担をかけるようなことはしたくない」
カイルの返事に満足したようで、マーサは準備がありますのでと退出した。
食後は別々に風呂に入り、アリスは肌の露出の少ない厚手の寝巻きを着せられ、カイルの寝室に案内された。
寝室に入ると、先に準備が終わったカイルがベッドに腰かけて待っていた。
「お、お待たせしました……」
「いや……さあ、まだ体調が万全じゃないんだろう?寝ようか?」
ベッドに入るとカイルの匂いに包まれた。毎日シーツは洗っているはずなのに、不思議なものだ……
部屋が薄暗くなると、ますますカイルの匂いと体温が強く感じられ、下腹部がキュンとなった。
「アリス……」
カイルはアリスに覆い被さり、初めから深く激しいキスをして来た。
「んっ……んちゅ……んはっ……ぁふ……んくっ……」
くちゅっ……くちゅっ……
息をする間もないほどの激しいキスに、アリスの頭はくらくらしてきた……
「はふぅ……ま、まって……苦しい……はあっ……はぁっ……」
「はぁっ……はぁっ……すまない……アリスが腕の中に…いると思うとっ……我慢がっ……」
アリスが止めると、カイルも苦しそうに息を切らしていた。
「……っく……想像以上に辛いな……っ、……」
何事かアリスの上で呟いたあと、苦し気に体勢を変えアリスのとなりにドサッと寝転んだ。
しばらくの間、腕で目を覆い苦し気にしていたが、徐々に落ち着いてきた。
「ふーーーーーっ……うん、もう大丈夫だ……さぁ、寝ようか?」
カイルはアリスの方を向き、優しく微笑んで頭を撫でた。カイルに触れられて一瞬ゾクッとしたが、アリスは大人しく眠ることにした。
「おやすみなさい……」
頭を撫でる手の心地よさにうっとりしている間に、アリスは気付けば眠りについていた。
目が覚めると、切れ長の黒い瞳がうっとりとアリスを見つめていた。
「っちょ……!寝顔見てたんですか!?」
「ああ、よだれ垂らしてたよ。っくっく」
「えっ?うそっ?やだ、何処ですか!?」
「あっはっはっはっは」
カイルは楽しそうに笑って、笑いすぎて言葉が出ないようだ。
「……騙しましたね?」
「はっは……ご、ごめん、焦った顔が可愛くてつい……っくっく」
「もう、知りません!」
プイッと寝返りを打って背中を見せると、後ろから抱き締められた。ちゅっと首筋にキスをして、さらにぎゅっと抱き込まれた。
「はぁ……こんなに幸せな朝が来るなんて夢みたいだ……」
モゾモゾとカイルに向かい合うように体の向きを変え、カイルの目を見るとうっすら涙が浮かんでいた。
「私も……こんなに幸せな朝があるとは知りませんでした……見つけてくれて、ありがとうございまっすぅむ……んあ……」
アリスが言い終わらないうちに、カイルに唇を塞がれた。結局その後いつまでもだらだらといちゃいちゃして過ごし、2人が部屋を出たのはお昼も近い時間になってしまったのだった。




