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「い、いや、顔を上げてくれ。そもそも俺がいきなり連れてきたのが悪かったんだ。

 寂しい思いをさせてしまったな……」


「いや、むしろ今回はそうしていただけてよかったんです。普通の手順を踏んでいたら、今頃どうなっていたか……おかげで無事我々もこちらに来ることが出来ましたしね。

 それよりアリス、旦那様になったんだし、カイル殿下と呼ぶのはおかしいんじゃないか?せめてカイル様と呼ぶんだな。はっはっは

 それにしても、少し背が伸びたんじゃないか?アリスは姉さんにそっくりだからな、きっと番と出会えたことで美しく成長するぞ、楽しみだな」


 “そんなに早く身長が伸びるはず無いじゃないか……何言ってるんだか”



 その日からマーサと共にテレサが身の回りの世話をしてくれるようになった。

 元々マーサはカイルの乳母で今では引退していたのだが、カイルが無理言って来て貰っていた。

 どこぞの貴族夫人なので、いつまでも侍女の真似事はしていられないのでちょうどよかったそうだ。

 そうは言ってもテレサもいい年だ。いずれは爵位を賜り城から出る予定なので、落ち着いたら年若い侍女も探すそうだ。

 ちなみにセバスはこの国の事を色々と学んでいるらしい。カイルの従者もいるので、純粋に私の世話だけでいいのでそんなに大変ではないらしい。

 元々侯爵家を取り仕切っていた優秀な執事なので、カイルとしても有り難い人材なのだとか……


 アリスは身長がさらに伸び、来た当時より5cm大きくなった。体重も増え、体に丸みも帯びてきた。

 とは言えまだまだ細身のご令嬢ではあるのだが……胸もささやかに成長し、今では13~4歳くらいの見た目になっていた。

 時が経つにつれ、アリスには大きな悩みが出来ていた。何故かカイルを番として認識できないのだ。


 父と片翼の話が衝撃過ぎたせいなのか、片翼ではなく番だと認識を改めたからか初めのような嫌悪感は無くなった。

 イケメンだと思うし、紳士的でとても好ましく思うのだが、番かと言われると首をかしげてしまう。

 そんな複雑な思いとは裏腹に、今日もカイルの膝に乗せられていた。


「あの……そろそろ魔力も安定してきましたし、ここまでする必要も無くなったのではないでしょうか?」


「でもまだ成長が止まったわけではないので、安心は出来ないと大先生が言っていた。

 恥ずかしいとは思うが、大先生がもう大丈夫だと言うまでは我慢してくれ……それにまたアリスが倒れたらと思うと、俺も心配なんだ」


 “っく……至近距離のイケメン……心臓がー!そんなに近くから見つめないでー!”


 男性に免疫が無いアリスは、いつまで経ってもこの儀式が恥ずかしくて仕方なかった。




 その日の夜中、アリスは酷い下腹部の痛みで目が覚めた。急いでトイレに行くと、血が出ていたので慌ててシーツを確認した。

 シーツは汚していなかったようで安心した。すぐにテレサが来てくれて、着替えと色々準備をして寝かせてくれた。


「ううう……アリス様、初潮おめでとうございます……中々始まらずに心配しておりましたが、本当にようございました。

 さぁ、お辛いでしょうからゆっくりお休みください」


 そう、15歳になってようやく初潮を迎えたのだった。正直自分でもあまりに始まらないから子供が生めない体なのではないかと心配していたので、ほっとした。

 だが、遅すぎた初潮のせいか、あまりの重さに2日間意識が朦朧としていた。

 3日目になると落ち着き、湯浴みをしてソファに座りアリスは大先生の診察を受けていた。


「ふむ、魔力の淀みも無く、とても綺麗に流れていますな。今まで外に出られずに溜まっていたものが一気に出て、体に負担がかかったのでしょう。

 次回からはもっと楽になるはずですので、安心してくだされ」


 “そっか……次回からはもっと楽になるのね。重い体質かとドキドキしたけどよかった~”


「アリス様、カイル殿下がお見えですがお通ししてもよろしいですか?」


「ええ、お願い……っ!」


 久しぶりにクリアな意識でカイルを見てアリスは息を飲んだ。身体中の血が沸騰したようにカーッと熱くなり、今までに感じたことがない程の衝動に駆られた。

 あの人が欲しい!あの人は私の物だ……細胞の一つ一つがそう訴えかけてくる。

 思わず手を伸ばせば、カイルが抱き締めてくれた。


 “ああ、なんて落ち着くの……”


 どのくらいの間そうしていたのか、いつの間にか2人を残して誰もいなくなっていた。


「カイル様……今までごめんなさい……やっと分かったわ。貴方は私の物なのね?」


「……っ!アリス!ああ、そうだ!そしてアリスも俺の物だ!お互い唯一無二の存在なのだ」


 本当に……この美しい人が私の物なのね……無意識に頬を撫でれば、勢いよく唇を塞がれた。

 それはファーストキスなどと言う甘いものではなく、まるで獣に襲われているような激しいものだった。

 いつの間にかいつものように膝に乗せられソファに座り、貪るように唇を奪われていた。

 唇から入ってくる魔力が心地よく、アリスは口を開け無意識にカイルの舌に吸い付いていた。

 ピチャッ……ジュルジュル……と静まり返った部屋に卑猥な音が響いていたが、2人の耳には届かなかった。

 夢中で唇を合わせていた2人だったが、控えめなノックでようやく我に返った。

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