side レイカ2
『マット様、続きは私が……その後何度声をかけても奥様からの返事が無く、困り果てたテレサが私の元へ来ました。
すぐに鍵を持って客間へ向かいましたが、許可無く開けていいものか悩んでいましたら、アリス様が現れて自分がドアを開けるからと開けてくださいました……
私達の目の前には……っく……ぅぅ……か、変わり果てた奥様がっ……し、失礼しました。胸から流れ出た血でドレスを真っ赤に染めた、変わり果てた奥様がいました。
あまりの衝撃に、アリス様は2日間意識を失っていました。奥さまの葬儀の日に目を覚まされましたが、とても……とっ……とても気丈に振る舞っておいででした。
旦那様はその間ずっと寝室に籠って葬儀にもお出になりませんでした。その事で、旦那様の名誉は地に落ちてしまいました。
片翼に狂った侯爵が邪魔になった妻を殺しただの、片翼が邪魔な妻を殺しただの、世間は面白おかしく噂したものです。
私達は、ともかくアリス様の身の安全を最優先に考え、マット様に相談して旦那様が寝室に籠っている間に学園に入る手続きをいたしました。
ただ、旦那様にとってもはやアリス様は片翼との間に子供が出来るまでの繋ぎに過ぎません、なので学費と最低限の生活費だけを私が預かり管理しておりました。
幸いな事に、片翼との間に子が出来ませんでしたので、アリス様に害を与えることはありませんでした。いずれ国外に逃がそうと3人で計画しておりましたので、今回の事はとても有り難いことでした。
結婚式にあの男を呼ぶ必要はありません!むしろニジノ王国への立入禁止にした方がアリス様のためです。
旦那様はアリス様の事で城に呼ばれているのですが、その間に少々事が起こる予定です……ですので、アリス様をお守りいただくよう、なにとぞよろしくお願いします』
静まり返ったなか、誰かのすすり泣く声だけが響いていた。何人中にいるのかは分からないが、1人2人ではなく少なくない人数のすすり泣く声が聞こえる。レイラも泣いていた。
“な、な、何て事なの!?そんなの、そんなの片翼に拒否反応を起こして当然じゃない!それなのに私ったら……”
『もう一つお聞きしてもよろしいですかな?……父親との確執は分かりましたが、お母様のご実家とはどんな関係でしたか?
普通でしたら親族に魔力の相性がいいものがいると思うのですが、アリス様は常に魔力不足で淀んだ常態が続いたようです。通常でしたらここまで酷くはならないと思うのですが……』
『おっしゃる通りです。母親の実家である子爵家は、娘が死んだことで侯爵家からの援助を受けられなくなりました。
アリスも侯爵に捨てられたようなものです。子爵家にとっては何の利用価値も無い娘など、孫と言えど関わる気は無かったようです。
アリスの母親が死んでから、魔力の補給は私からだけになりました。親のせいでアリスに近付く生徒もいませんでしたしね……
ホシノ王国で、アリスの味方は私達3人だけでした……ですので、心残りがあるとすれば母親と赤ん坊の墓だけでしょう。
それも遺骨を持ってきましたので、こちらに作らせていただければと思っています』
『ああ、もちろんだ。場所は住む場所を決めてからおいおい考えよう』
“お母様の実家にまで……!なんて……なんて事なの!?”
気付くとレイカは走り出していた。アリスの部屋はきっとカイルの隣の部屋だ!
ドアの前で護衛騎士達が驚いていたが、レイカの勢いと日頃と全く違う姿に驚き、ドアを開ける事を許してしまった。
しかし、しっかり腕を掴み、入室は止めた。
「ごめんなさいー!!アリス様ー、さっきは本当にごめんなさい!」
泣きながら涙も拭かずに謝る姿に、アリスはもちろんその場にいた侍女達も護衛騎士達も驚きで目を丸くした。
大丈夫だろうと護衛騎士が腕を離すと、レイカはアリスの座っているソファの横へ行き、ドレスが汚れるのも気にせず床に膝をつき、アリスの手を握りしめた。
「アリス様、何も知らずにあんな酷いことを言って本当にごめんなさい!私カイルお兄様が好きだったのーっ!
だから悔しくて、でもお祝いしようって来たのに、アリス様がお兄様を拒んでるって噂で聞いてカッとなってしまったの!本当にごめんなさい!
お兄様が私が片翼だったらよかったのにって言ったのも、私が9歳の時なの!8年探しても片翼に出会えなくて、ちょっと落ち込んでる時に子供相手に言っただけなの!わざと誤解するような言い方して、本当にごめんなさいー!うえええええーんっ!ひっく……ひっく……ごめんなさい……」
その後、何度も何度も謝り続けた。




