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 ここはホシノ王国。ロココ時代のヨーロッパ調だが、魔法があって近代の日本の文化が微妙に混ぜ合わさったような、不思議な世界だ。

 ゲームか小説の中のような世界だなと、アリスは記憶が甦ったとき最初に思った。


 そう、アリスは転生者だ。前世はファンタジー好きの独身アラサーだった。

 だからと言って、記憶が戻って魔法有りのファンタジー世界だヒャッホーとならなかったのは、記憶を取り戻したきっかけが、母親の自殺現場を見た事だったからだろう……

 当時10歳だった少女の精神では耐えることが出来無かったようで、2日間寝込んでしまった。

 その間に前世大人だった時の記憶が引っ張り出されたことで、何とか精神が壊れずに耐えることが出来たようだ。

 

 アリスの母はとても美しく弱い人だった。アリスの家は侯爵家で、母は子爵家の出身だった。

 この世界には運命の片翼と言うものが存在し、片翼と出会った男女は強烈に惹かれ合い、お互い以外は目に入らなくなるのだとか。

 ただ、そんな片翼と出会える確率はまれで、ほとんどは関係無く結婚する。

 王族は別で、何処の国でも王子や王女は各地を回り、時には留学し、片翼を探すそうだ。

 なので、王族の配偶者が貴族とは限らない。

 高位貴族は王族の片翼探しの旅に同行し、自分も探すのだとか……ただ、アリスの父である侯爵は残念ながら片翼に出会えなかった。


 諦めきれずに30歳まで探し続けたが、さすがに侯爵家嫡男が何時までもそうしているわけにもいかず、後継ぎを残すために貧乏子爵家の令嬢を金で買ったのだった。

 その子爵令嬢がアリスの母だった。貴族は基本的に片翼を探すため、若いうちは政略結婚等ほとんどしない。

 それでも片翼と出会えるのは1,000人に1人なのだが、アリスの父と同じように何年かかっても探し、20代後半で結婚するのが普通だ。

 ちなみに、片翼に出会えるのはほとんどが貴族で、片翼探しの旅など出来ない平民は、片翼等関係無く若いうちから結婚する。


 侯爵家は子供を産める若い令嬢を探していたため、貧乏子爵家のアリスの母に白羽の矢が当たったと言うわけだ。

 片翼以外は子供が出来にくいので、少しでも確率を上げるために若ければ若い方がいいと思ったようだ。


 それでも、アリスの両親の仲はとても良かった。一回り以上年上の父に、美しく優しい母はとても愛されていた。

 母も父を尊敬し、とても愛していて、理想の夫婦そのものだった。

 アリスが生まれたあと、中々子宝に恵まれずに母は悩んでいたが、アリスが婿を取ってもいいし大丈夫だよと父はいつも優しく言っていた。

 そしてアリスが10歳になる少し前に母の妊娠がわかり、家族はもちろん使用人もみんな喜んでいた。


 アリスの母が妊娠6ヶ月になり、お腹もふっくらしてきたある日……父が1人の女性を連れて帰ってきた。

 頭から上着が被せられ、まるでアリス達から隠すように連れて来られた女性は、長年探していた父の運命の片翼だった。


 アリスの父は、アリスと妻をまるで敵でも見るかのような目で睨み、片翼に子供が出来るまではアリスはここに置いておくように言い、妻には堕胎剤を飲んですぐに出ていくようにと言って、さっさと片翼と共に夫婦の寝室に籠ってしまった。

 

 急にそんなことを言われても、アリスの祖父である子爵は娘を金蔓としか思っておらず、くれぐれも侯爵に飽きられないようにと常々言い聞かせるような人だった。

 子供のアリスでも母が子爵家に戻ることは難しいと簡単に想像がついた。

 しかもお腹には子供がいる。もう少し小さければ堕胎も理解できるが、もう6ヶ月だ。

 堕胎剤を飲むなど、母の命さえ危険にさらすことになると、父ならわかっていたはずだ。

 だが、片翼に出会った父にとって、万が一腹の中の子が男児なら脅威になりかねないとでも思ったのだろう……


 せめて少しだけでも話し合えないかと、すぐに母と共にアリスは父を追いかけた。

 だが、まだ入って数分しかたっていない寝室からは、激しく求め合う父と片翼の声が聞こえてきて、母は顔面蒼白になり、急いでアリスの手を掴んで離れた所にある客間へ逃げ込んだ。

 暫く1人になりたいと言う母の願いを、誰も拒むことが出来なかった。


 アリスは自室に戻り、これからどうなるのかとボーッと考えていると、執事と侍女長が来て大丈夫だからと慰めてくれた。

 アリスの母は使用人達にもとても優しく、慕っている者達も多かった。

 とりあえず父に内緒で母は何処かに匿い、父が落ち着いた頃に離縁の慰謝料や子供達の今後について諸々の話し合いをしてもらうようにすると執事が言ってくれたので、アリスはほっとした。

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