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先生はオカメインコ

 

「とりあえずお茶でも飲みながら話しましょ」


 オカメインコはそう言うと、(ゆう)にドアを開けさせて家の中に入っていった。


 あとに続いて家に入ると、真正面にはこの家の裏口が見えた。左側には高さ一メートルほどのパーティションがあり、(ゆう)が寝ていたベッドは玄関からは見えなかった。


 そしてベッドの奥には壁に接して置かれた、木製のクローゼットがこちらを向いていた。これはさっきグルグルしていたときに、ベッドの頭の方にあったものだ。


「モタモタしてないでこっちに来なさいよ」


 ちょっと不機嫌そうな声が聞こえたので、右側を向くと小さなキッチンがあった。そばには四人掛けのテーブルがあって椅子が二脚ついている。

 そしてオカメインコは椅子の背もたれに止まり、(ゆう)を待っていた。


 どうやらワンフロアをパーティションで仕切って、寝室とダイニングキッチンに分けているらしい。


 この部屋の右奥には真ん中あたりにドアがあるから、奥にはさらに部屋がありそうだ。

 キッチンの奥には地下への階段も見える。

 裏口の方にも何かありそうだが、ここからはわからなかった。


「お茶っ葉はそこにある缶の中よ。ポットとカップは戸棚の中」


 翼を広げ片方の羽で戸棚を指し示すオカメインコは、なんだかとっても偉そうだと思ったが、(ゆう)は言われるままに動き出した。


「早くお湯を沸かしなさいよ」


 そう言われて流しに立ったけれど、蛇口の上にはレバーがなかった。手のひらをかざしてみても水が出ない。

 捻ったり回せそうな物も付いておらず、困った(ゆう)が尋ねたところ、この家は魔道具で管理されていると返された。


 (ゆう)が蛇口の上の小さな石に触れると、水は魔法のように簡単に出た。同じようにコンロや冷蔵庫、トイレやお風呂にも石が付いていて触れることで作動する。

 これは魔素で満たされている魔石というものらしい。


 お湯を沸かしているあいだに、オカメインコが家の中を案内してくれた。

 部屋の奥の廊下を進むと左側にトイレがあり、その奥隣が浴室だった。


 玄関から見えた右奥のドアの先にある部屋には、机や本棚、理科の実験室のような器具が置いてあった。聞くと薬などを調合をするための部屋なのだという。

 案内しているあいだ、オカメインコは(ゆう)の右肩に止まっていた。


 そして部屋の右奥にある階段から十段ほど下りたところには、木製の扉が見えていた。

 ドアレバーを下げて扉を押すと思ったよりも軽く開いた。


 入り口の左側の壁にも魔石が付いていて、触れると部屋の明かりがついた。

 中に入ると四畳くらいの広さで作り付けの棚があり、みかん箱の倍くらいある木箱やら瓶やらと一緒に、よくわからないものが置いてあった。


 オカメインコから設置されている魔道具の使い方を聞いた(ゆう)は、ひとつひとつに驚き、そして感心していた。


「アンタ前世はどんなところで育ったのよ。おおかた、パトのど田舎かブルハの山奥で暮らしてたんじゃないの?」


 オカメインコが失礼なことを聞いてきたので、(ゆう)はちょっと威張って言い返した。


「前に住んでたのはこんな木しか生えてないような場所じゃないよ。外の木より高い建物だっていっぱいあったし」


 いっぱいはなかった。外の木は高いところで三十メートルはある。(ゆう)は田舎育ちなので、そんな建物は数える程度だ。

 (ゆう)はオカメインコに対して見栄を張ったのだ。


「アンタ転入者なのね。どうりでものを知らないと思ったわ」


 オカメインコは驚いたのか冠羽が広がって、身体は少し細長くなっていた。



 キッチンに戻ると沸いたお湯でお茶をいれながら、(ゆう)は転入者について聞いてみた。


 転入者とはこの世界以外で亡くなった魂が、この世界に生まれ変わった存在で、数百年に一人か二人は見つかるらしい。

 前の世界のことを覚えている者もいれば、全く記憶のない者もいるので、優遇されることもなければ、かといって迫害もされないらしい。


 なぜ前世の記憶がないのに転入者だとわかるのかといえば、神殿に行くと判明するとのことだった。


「あれっ? でも私は赤ちゃんじゃないよ。親もわからないし産まれてからの記憶もない。ついでに言うけど、前世が終わったことにも気がつかなかったよ。それにさっきはなんで私に前世の記憶があるってわかったの?」


 (ゆう)はわからないことを矢継ぎ早に質問した。


「死んだことに気がつかなかったのは、アンタがぼけっとしてるからでしょ。そこまで育ってるのはアンタが次代の管理者だからよ。アタシに赤ん坊の世話ができると思う? 管理者は必ず前世の記憶を持ってんのよ」


 焦っている(ゆう)に、所々に毒を含めながらそう答えると、オカメインコはこの世界について話しだした。


 この大陸には七つの国があり、四つの大森林が存在する。

 そのうち三つの大森林は高い山脈に沿って、いくつかの国に跨がっているが、大陸の東にあるこのパパガヨ王国の青の森だけは、国の南端にあるためほかの国とは接していないのだという。


 四つの森にはそれぞれ管理者がいて、森の深部で生活しながら薬草の調合や魔生物の数の調査、ハンターの補助やごくまれに遭難者の救助を行っている。


 魔生物とは空気中にある魔素によって発生する生き物で、親となる個体を必要としない。必ずしも悪いものではないし、動物に限らず植物にも該当する。


 四つの森には普通の動植物と魔生物がいるが、ダンジョンの中は魔生物しかいないとのことだ。

 ダンジョンがあるんだね。ゲームみたいだなと(ゆう)は思った。


 管理者は空気中の魔素に干渉してその循環を助ける、不純物を取り除くフィルターのような役目らしい。そして長く森から離れることはできない。


 管理者は数百年で代替わりをする。

 そのため先代の管理者は、次代が一年間、管理者について学ぶことに専念できるように準備をする。そして準備ができたら次代が喚ばれる。


 次代は九歳に成長した姿で召喚され、一年間の引き継ぎを終えた十歳で神殿に参拝し、魔術を扱えるように術をかけてもらう。


 これはほかの子どもたちも一緒で、小さいうちは魔素をコントロールするのが難しいから、魔術が使えないようになっている。

 十歳未満の子どもには、魔素を扱えるように魔術をかけようとしてもダメらしい。


 昔どこかの貴族が、自分の子どもが早く魔術を使えるようにしたいと、歳を誤魔化して神殿に連れていったけど、失敗したのだという。

 魔術を使う能力が高い人は、魔術師として引く手あまたらしいから、親としては必死なんだろうね。


 次代を喚んだ管理者は解任されるため、森からの干渉はいっさいなくなり自由に森から出られるようになる。

 先代が亡くなったのではなかったことにほっとした。


「さて、だいたいこの世界のことがわかったと思うけど、そろそろアンタがやらなきゃいけないことを教えとくわ」


「あっ、その前に遅くなったけど自己紹介してもいいかな。まだ名乗ってなかったから」


 アンタと呼ばれるのがちょっと気になり始めた(ゆう)が話の腰を折る。


「前世の名前は使えないわよ。ここでの名前は自分で決めないと。そしてアタシの名前も考えんのよ」


 無茶振りである。(ゆう)の名付けのセンスは母の胎内に置いてきたか、オプションだったために付けられていなかったかで、皆無であった。(ゆう)は標準装備で産まれたのである。

 ちなみにすでに永眠してるが、津川家の柴犬は(けん)くんと呼ばれていた。(ゆう)の最初の被害者である。


「じゃあ、私は(アリ)と名乗ることにするよ」


 捻りもなにもなかった。


「それで、あなたはプリちゃんね。可愛いから」


 可愛いものに対する仕打ちではない。

 目の前のオカメインコから冷気が漂い始めたので、(アリ)は慌てて言い直した。


「ゴメン、ゴメン。色々教えてくれるんだから、プリ先生で」


 どっと疲れた様子のオカメインコ改め、プリ先生は諦めて冷めたお茶を飲み下した。


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