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彼女の新しい出会い

 

「結局、誰からも説明されないまま部屋を出ちゃったなぁ」


 (ゆう)はシンプルな作りの木のベッドから起き上がると、あたりを見回しながら(つぶ)やいた。

 けれどベッドの上から見えたのは右側の壁にある窓だけで、左側はラタン製の四連になったパーティションが邪魔をして、天井が高いことしかわからなかった。


 (ゆう)はベッドから降りようとして、自分の右手にあった火傷の痕が消えていることに気がつき、その動きを止めた。

 火傷の痕はうっかりアイロンにぶつかってできた三角形で、変に目立っていたから消えていることはすぐにわかったのだ。


 手足を撫でまわし服をめくって身体を確認してから、最後に両手を胸に添えた。


「小さい」


 震えて出た声も小さかった。


 (ゆう)の身体は火傷の痕が消えただけではなく、全体的に縮んでいる。もちろん胸もである。


 いったいどうなってしまったんだろう。グルグルと考えをめぐらせながら、ベッドの周りをグルグルと回る。

 完全にパニック状態である。鏡を探したけれどこの部屋には見当たらない。

 本当にわけがわからない。ここはどうやらログハウスのようで、部屋の中を歩き回った感じとしては天井が高く広々としている。


 キッチンの近くでふと窓の外を見ると、空き地の奥には木しか見えなかった。反対側はどうだったかとパーティションをまわり込んで、ベッドのそばまでいくと、窓に張りついて外を確認する。

 そこからは小さな畑が見えた。しかしその奥も木しか見えなかった。


 (ゆう)は恐る恐る玄関らしきドアを開けて、三段ほどの階段を降りて外に出ると周りを見回し硬直した。

 そしてしばらくすると、胸いっぱい空気を吸い込んで力いっぱい叫んだ。


「どこなの、ここは~!!」


 (ゆう)が目覚めたログハウスは、ぐるりと森に囲まれた半径七十メートルほどの空き地の中心に建っていた。

 ログハウスの隣には、縦が三メートルで横が五メートルくらいの長方形の畑と、後ろに物置小屋があるだけだ。


 ここは近所づきあいができそうなお隣さんがまったくいないという、究極のぼっち具合であった。


 どちらを向いても森である。下草も伸び放題で藪になっていて獣道すら見当たらない。つまりこの家に出入りしているものは、人間はおろか動物すらいないということだ。


「完全に囲まれてる」


 鬱蒼(うっそう)とした木々に見下ろされるなか呆然と立ちすくみ、しばらくして少し落ち着いてきた(ゆう)は、振り返ってログハウスを見上げた。


 三角屋根のこぢんまりとした佇まいは、装飾がいっさい無く簡素な様子だったけれど、唯一、玄関の扉の横に金古美色のドアベルが取り付けられていた。

 それはドアの開閉によって鳴るタイプではなく、ベルから下がる紐を引くタイプだ。


 どうやらこの家には、以前は来客があったらしいことがわかった。


 それにしてもこの紐はずいぶんと下まで伸びているね。子どもでもいたのかな。などと考えつつ試しにそっと引いてみる。


「カラーン、コローン」


 なかなかにいい音が響いたね。そしてベルが静まると何かが家の裏の方から、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。




 真っ黒でつぶらな瞳をじっと見つめる。相手も視線を逸らさない。片方の目だけではあるが……。


 顔は逸らされているが片方の目でじっと見つめるのは、先ほどこちらに飛んできた小さな生き物である。

 階段の手すりに止まったこの生き物は、(ゆう)を見つめて動かない。


 沈黙に耐えかねて、(ゆう)の方から声をかけることにした。


「チチチッ。可愛い小鳥ちゃんですね~。人を怖がらないみたいだけど、誰かに飼われてるのかな?」


 そう、飛んできたのはふんわり灰色の身体にピョンピョン跳ねた冠羽を持ち、ほっぺにオレンジ色のチークをいれたような風貌の小鳥。

 オカメインコであった。


 片目だからではなく目が離れているから、正面からでは(ゆう)を確認できないので、オカメインコは横を向いてこちらを見ているのである。


「チッ」


 いまのはさえずりではなかったね。完全に舌打ちにしか聞こえなかったよ。その人間っぽい仕草に(ゆう)は驚きに目を見開いて、オカメインコをじっと見つめた。


「間抜け面してボケッと見てんじゃないわよ!」


 可愛い小鳥は可愛らしいくちばしから、ものすごく可愛くない暴言を吐き出した。


「次代は女なのね。しかもこんなに間抜けだなんて、本当に務まるのかしら」


 オカメインコは器用なことに、ため息をつきながらそう言った。

 こちらから話しかけはしたが、まさか返事をされるとは思わなかったよ。



 これがいつの間にか異世界転生した(ゆう)と、この世界の常識などを(ゆう)に教えることとなる、見た目がオカメインコの生き物との出会いであった。


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