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スローライフ 押しつけられました  作者: 夜昊
本編

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閑話~その名を告げる時~

これはアリがこの世界にうまれた日の話です。

その日は、プリ先生と先代管理者の別れの日でもありました。

 

 いつものように森へ溶けこみ隅々にまで意識をすべらせていく。

 今日、ウィルはこの森を去っていった。




 三百余年この森の管理者を務めたあの子は、前世がアンサルの宮廷魔術師であった。

 そんなあの子が世捨て人のようなこの森の管理者に収まったのは、王宮にありがちな陰謀や裏切りが原因だったように思う。


 それでも人を愛する心を持ち続けたあの子の魂は、なんと輝いていたことか。

 勤勉でそして良く笑い、見習いの期間を無事に終えたウィルは、前世の記憶の賜物か魔術行使が天才的であった。


 ウィルは得意の魔術でこの家の守りを固め、貴重な薬草を畑に植えて育て始めた。

 初めはやはり上手くはいかず、されど数十年が過ぎる頃には、安定した収穫が望めるようになっていた。


 森で行動不能になったハンターを助け、迷子を見つけては森の境界まで案内した。この国には調合した薬を納め、魔生物の増減の情報を与えるなど、ウィルは充実した毎日を送っていたように思う。

 そんなウィルとの暮らしは我に喜びをもたらし、二百年の時など瞬きをする間のように過ぎてしまった。


 そしてウィルが管理者になりパパガヨの国王が三度(みたび)代わった頃、ウィルは時折考え込むようになった。


 悩みがあるなら教えて欲しいと訴えると、ウィルはようやく重い口を開き、次代を喚ぶ準備をしたいと我に告げた。


 アンサルは魔術国家で長命な種族が多い。しかし前世のウィルが亡くなった後、すでに三百年という月日が流れ、何やら思うところがあったようだ。


 代替わりを行うにはやらねばならぬことが増す。我はより多くの時を森に溶けこむことに費やし、ウィルは次代の育成にかかる期間に問題が起こらぬよう、調薬に力を入れた。


 次代はどのような子であろうかと、ウィルは慰めになるような細々とした物を買い揃え、刺繍や彫刻で日用品に彩りを添える。


 このように次代のための準備を進める姿が目に入ると 管理者から解放されこの世界に根付くことへの喜ばしさはあるものの、少し寂しくも思う。


 そんな我を思ってか、ウィルはこの家の玄関に小さなドアベルを取りつけた。


『最近はお互いに忙しく、すれ違う毎日を送っているから、僕が帰宅したときには必ずドアベルを鳴らすよ』


 そう言い得意の魔術で創りあげたそれは、金色に鈍く光る小さな鐘であった。




 ウィルがチコの首に跨がる。

 代々の管理者と同じく、ウィルも次代とは顔を合わせずに去るという。

 ピョップンらなど数日前より拗ねて土から出てもこぬ。


 別れが近づき感傷的になるこの心を叱咤し、言わねばならぬ言葉を紡ぐ。




 二度と会えぬわけではない。自分はまだこの国と前世生まれ育ったアンサルの地しか知らぬ。再び生まれしこの世界を見て回りたいのだという。


 ウィルは次に会う際には嫁御を紹介するなどと笑っておったが。管理者の役目を終えたいま、その身に流れる時の速さに、百年を待たず永遠の別れとなるであろう。


 その貴重な時を使い、如何程(いかほど)我に会いに来るであろうか。


 あぁ、いまウィルの気配が森から消えた。チコの奴め、もう少しゆっくり飛べば良いものを。


 幾度(いくたび)味わっても別れは淋しいものだ。

 しかしこの出会いは僥幸であった。


 我らが尊き主は、この世界ができあがると早々に手を引き、我ら四つの守護者に任せ、のんびりと世界を揺蕩(たゆた)っている。

 その始まりより悠久の時を経ても、この心のありようは変わらぬとみえる。


 出会うたびに新な歓びを得て、そして別れるたびに哀しみに染まるこの心は。


 また新しき管理者を迎える。次代は我に何をもたらすのであろうか。


 ウィルは善き管理者であった。いつまでもここで別れを惜しんでいても仕方あるまい。

 さて、そろそろ……。


「カラーン コローン」


 あぁ、鐘が鳴る。ウィルの創りしあの鐘が。


 我は飛び立ち鐘に向かう。

 それと同時に我の姿はしゅるしゅると縮み、灰色の小さき鳥に変わった。


 鐘の下にはぼんやりとした表情の、茶色き子どもの姿があった。


 なんと、こやつは裸足ではないか。ウィルの揃えし履き物は気に入らなかったのであろうか。


 こやつは何処の生まれであろう。ウィルの魔術は歴代でも指折りであったから、アルコンの脳筋らなどでは比較にもならなかろう。

 こやつも苦労し泣くのであろうか。


 じっと見つめると、澄んだ灰色の瞳の奥には哀しみが揺れ動いておる。されどこやつは笑うのか。

 ウィルに見た輝きと重なる姿に、我の魂がうち震える。やはり我が主には隠し通すことなどできぬか。


 こやつが望むのは気のおけぬ友や姉のような存在(もの)か……。


 扉を開けし新しき管理者を見下ろしながら、我は最後の言葉を想う。


『さようなら、ウィルフレド。善き人生(たび)を』


『さようなら、リューシャ。僕の守護者』


 ウィルが二度と使われぬ名で我を呼ぶ。



 次にまみえしその時には、そう、新しき我の名を……。


補足です。

リューシャは古代語で哀しみに寄り添う者という意味。

神はプリ先生が哀しみに負けない輝きをもつ魂が大好きなのを知っているので、毎回そういう子を管理者に選んでいます。

次代候補の魂は少ないので、プリ先生はどんな魂でも良いといっています。

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