彼女の終わりと始まり
初めての作品で、読みにくいところが多いとは思いますが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
「懐かしいなぁ」
有はため息をつきながらアルバムのページをめくった。
アルバムの写真には夕陽に染まった赤い海と、北海道最北端である三角形の碑や、間宮林蔵さんの立像が写っている。
これは十年程前に、有がひとりで北海道をドライブ旅行した時のものだった。
一般家庭に生まれ育ちほどほどの学力で進学し、地元の企業に就職した彼女は、特に山も谷も経験することなく、平坦な人生を歩んできた。
そんな彼女の趣味は自由気ままなひとり旅だった。田舎の暮らしには車が欠かせないため、就職と同時に水色の軽自動車を購入した。
その愛車で本州の東西南北全ての最端を制覇したり、北海道を一周したりしながら、気に入った景色を写真に収めることを楽しんでいたのだ。
各地の道の駅やサービスエリアでのお土産選びも大好きで、地域限定のちょっとした物を集める、そんな風に数年は楽しく過ごすことができていたのだ。
しかしそんな楽しい一瞬を収めたアルバムは、かれこれ五年以上増えることがなくなってしまっていた。
彼女の勤続年数が長くなるにつれ責任のある職務が増え、長期休暇が取りにくくなったのも理由ではあるが『独身のままふらふら遊んでいないで婚活くらいしたら。子どもがいないと老後は大変よ』という母の言葉に、なんだか以前ほど旅が楽しめなくなったことが大きかったのだ。
そして現在彼女がアルバムを眺めているのは、都会で暮らしている兄が高齢になった両親のために、地元に戻って同居することになったからだ。
彼女の部屋と隣の部屋を兄夫婦の部屋にするため、引っ越し作業中なのだが、荷物整理は遅々として進まなかった。
「やっぱりこの家は出たほうがいいよね」
舅、姑との同居の上、不便な田舎暮らしを義姉に強いるのに、いい歳をした小姑がおまけについているだなんて、あまりにも義姉が可哀想すぎる。自分だったら嫌だ。
「よし!」
有は決意を込めてアルバムをパンッと閉じると、先ほどまでとはうって変わって、せっせと部屋の荷物を片づけ始めた。
ひと月後、有は愛車のハンドルを握り西を目指していた。
「私の旅は行き当たりばったりだからね」
今回だって目的地が決まっているわけでもなく『時間はあるし観たいところがたくさんあるんだよね』などといいながら、気の向くままに走らせていた。
有は思いきって会社を辞めて、部屋の荷物を片づけたあとは、久しぶりのひとり旅を楽しむと決めたのだ。
ついでに終の棲み家を探すのもいいかもしれない。そんなことを考えながらまずは小腹を満たすために、次のサービスエリアを目的地に定めてアクセルを踏み込んだ。