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ガウターと一緒に 4

 

「じゃーん」


 アリはマルマゴをひとつ割って玉子焼きを作った。味つけはマルマジオと貴重なマルマトウである。


 マルマジオとマルマトウの割合はどれくらいなんだろうか。いつか私にもマルマトウを採れる日が来るのだろうか。

 五個中五個がマルマジオだった私は、一生マルマトウとは出会えないのかもしれない。


 そう自分の将来を悲観していると、町に出たら代替品があるらしい。その名もサトウ。それってマルマトウの方が代替品だよね?

 くわしく聞くとマルマジオはシオ、マルマッシュはジャガイモという代替品が町では主流なのだとか。


「多数決で決めます! こっちが代替品だと思うひと~」


 プリ先生がジト目で見てるけど絶対逆だよ。まったくノリが悪いんだから。


 プリ先生には遠慮されちゃったから、晩ごはんはガウターと半分こ。ん? 犬と半分この歌があったような……。まぁいいか。


 マルマジオやマルマラシなんかのマルマの実シリーズは、こだわりを持つ料理人がハンターに依頼して手に入れる、貴重な食材扱いだった。

 マルマの実の調味料がハイグレード品ってことなんだね。


 マルマの実を持っていったら、王都の五ツ星レストランの料理長とかと仲良くなれないかなぁ。


「美食フラグよ(われ)のもとに()たれ!!」


 アリは転生テンプレに期待して、両手を天に向け神に祈った。美味しいものを食べたい一心で。

 プリ先生とガウターは呆れたようにアリの寸劇を見ていた。


「もぅ、食に関心の薄い子には困っちゃう。『晩御飯なにが良い?』って聞いてるのに『何でもいい』って言うのぉ。それなのに『なぁんだー今日カレーか』とか言うんだよぉ」


 って友だちが中学生になる息子さんと、旦那さんのこと嘆いていたから、美味しいものを求めるのはいいことだと思うよ。

 アリは友人の口まねをしたあと、食に対する情熱に引きまくっているふたりに自らの正統性を説いた。

 アリの寸劇は終わっていなかった。


「……」(がじがじ、かじかじ)


 ガウターなどすっかり飽きてしまい、食事を終えてマルマボールで遊んでいる。


 いずれにせよフラグが立っても、ことが起こるのは十歳以降と気づいたアリは、いまある幸福に感謝した。


「ほんと、ウィルフレド様のご飯が美味しくて良かったよ」


 プリ先生にはいつものお茶をいれる。


「先生はいつもこのお茶だね」


「私はスッキリしたいからノギル茶にしよう」


「ガウッ」(あり、そのおちゃくさいよ)


 ノギル茶はガウターにも不評であった。


 キッチンには十センチくらいの大きさの、プリ先生ご愛用茶葉を入れた缶があるんだけれど、地下の貯蔵庫には一斗缶くらいの木箱があって、その中に九分目まで同じ茶葉が入っていた。

 ウィルフレド様がプリ先生のために準備したみたい。愛だよねぇ。


「違う味のお茶は無いのかな」


 あまり期待せずにアリが言うと、プリ先生がこの草について教えてくれた。


「これは白だけど赤、黒、青は別の味ね」


「ほぉーう」


 この草はプレールと言い見た目はドクダミで、咲いた花の色によって違う味のお茶になるのだという。


「白は紅茶っぽいけど他のはどんな感じなの」


「黒い花は水の色も黒っていうか焦茶っていうか。薫りはいいけど独特な風味とコク、それに苦味があるわね。株によっては酸味が強いものがあるわ」


「それは珈琲かな?」


『オカメインコが風味とコクだって!!』

 アリは心の中では笑いをこらえていた。


「赤い花は水の色が白い花よりも濃いわね。それになんだか焦げたような、でも香ばしい感じね」


「う~ん、ほうじ茶かなぁ? 黒豆茶かも?」


 こちらは何なのか自信がない。異世界特有の飲み物かもしれないし。


「青い花は水の色が黄色っぽいんだけど緑にも見えるの。ほんのり甘いんだけど苦味や渋みがあるわ」


「それはたぶん緑茶だね!」


 緑茶だったら嬉しい。アリのテンションは上昇中である。


「先生、それはどこに生えてるの?」


 あとで図鑑も確認しておこう。そう思いながらプリ先生に質問を続けた。


「この森に生えてるわよ。この近くだと南ね」


「南は昨日行ったけど、あのあたりじゃないの?」


 南だとしたらすぐ近くに生えてるのかもしれない。さらにテンションが上がる。


「この森の最南端は三十キロ以上南ね」


「えー? 崖っぷちまで行ったのに」


 アリのテンションは急下降した。


「この家の南は十五キロほど湾になってるのよ。崖から左側に森が続いてたでしょ。南端に行きたいならまずは南東に進むのよ」


「へー、気がつかなかった。でもなぁ、三十キロも歩いて探すのなんて無理でしょ」


 アリはガッカリして肩を落とした。


「くぅ~ん、きゃん」(ぼく、みたことあるよ)


 すると黙って話を聞いていたガウターが、プレールについて情報提供をした。


「ガウター、寝てると思ってた。急にどうしたの? 子どもは寝る時間だよ」


 アリはガウターの存在をすっかり忘れていた。しかも何を言っているかわからない。


「クゥン、キュウ」(いいもん、おしえてあげないもん)


 ガウターは寝床に行って、こちらに背を向けて寝転んだ。


「なんなのよ」


 アリはガウターの態度が何故変わったのかわからなかった。


「アリ、ガウターはプレールを見たことがあるんですって」


「えぇー」


 驚いたアリはガウターに近づいて様子を伺った。

 ガウターはくるりと丸まって、前肢で顔を隠している。


「ガウター、ガウたん、お利口だね。私にプレールがあった場所を教えてくれないかな?」


 アリはガウターの機嫌を取ろうと必死だ。


「ガウッ、キューン」(ぼく、もうねたんだもん)


 しかしガウターはすっかり拗ねてしまい、アリがいくら、(なだ)めすかしても顔をあげることはなかった。


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