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異世界三日目

貴重な読書三余にこの作品選んでいただきありがとうございます。

なお、作者は「三」に恨みはありません。

 

「おはようございます。本日もよろしくお願いいたします」


 鳥かごの上に止まりこちらを見ていたプリ先生に、起き抜けで正座をしたアリは、神妙な顔をして挨拶をしながら頭を下げた。

 しかしリネンのネグリジェドレスのままで、ふわふわの髪はあちらこちらへと跳ねていたため締まらなかった。


「何なのよ、朝っぱらから」


 プリ先生は返事をするのも面倒臭そうだ。


「プリ先生、今日はここに来て三日目ですよ」


「そうね」


 アリは五の月の一日、午後にこのベッドへと召喚された。

 今日は五の月の三日である。


「そうね。じゃないよプリ先生!」


 アリの態度はすぐに崩れた。


「三っていうのは不吉な数字なんだよ!」


 言いがかりである。


「美人に飽きるのは三日!」

「ブスに慣れるのも三日!」


 慣れるのならば良いではないか。


「恋人との関係が崩れるのも三ヶ月目か三年目なんだよ」

「それに三年目なんか浮気されちゃうんだよ!!」


 何の根拠も無いが、前世アリは三ヶ月で彼氏に振られた経験があったため必死である。ちなみに彼氏からは三股をかけられていたので三角関係ではなかった。


三日天下(みっかてんか)とか、舌先三寸(したさきさんずん)とか」


 プリ先生はアリの勢いにくちばしを挟む暇がない。


人三化七(にんさんばけしち)とか。あっ! このことばはここでは普通だったね。いまの無しで」


 アリは使い方を間違えている。たしかに容姿は人外だが不細工だからではない。容姿以外も人外だ。それに七も含まれているぞ。


「それに、冷汗三斗(れいかんさんと)とか、三軍暴骨(さんぐんばくこつ)とか」


 アリは三にまつわることばを次々に挙げていく。そして、チラリとプリ先生に視線を移したあとに「喙長三尺(かいちょうさんじゃく)とか」と付け足した。失礼である。


二束三文(にそくさんもん)とか、二転三転(にてんさんてん)とか」


 今度は二が含まれ出した。


 アリは着替えながらも、プリ先生に切々(せつせつ)と訴え続ける。


放蕩三昧(ほうとうざんまい)とか、三界流転(さんがいるてん)と……」


 チュニックに腕を通した瞬間、部屋の中に『ガッッ』という鈍い音が響く。

 袖から出したアリの指はそのままタンスに向かい、勢いが落ちないままぶつかった。

 突き指である。

 アリは指を押さえてしゃがみこんでいる。


「いったいなにをそんなに興奮してんのよ」


 プリ先生は、指を握り涙を堪えているアリに仕方なく聞いた。


「美人は三日で飽きるんだよ! いまの私の顔って美少女でしょ、今日でプリ先生に飽きられるじゃない!」


 アリよ、その三段論法(さんだんろんぽう)は大前提を間違えているぞ。そしてうぬ惚れが過ぎる。


 こんな風に騒々しくアリの異世界三日目が始まった。



 突き指した箇所をしばらく冷やしたあと、貯蔵庫にある薬箱の中から湿布を取り出し、患部に貼った。

 いくらかテンションが落ち着いたので、アリは水やりに家を出た。


 昨日のこともあり無駄口をきかずに、そして気配をできるだけ消して素早く水を撒き始めた。しかしピョップンに近づくたびに赤い葉が揺れるので、再びテンションは上昇してしまった。


 今朝は歌わずにすんだが精神的に疲れてしまった。怪我をしていることもあり、ノロノロと食事をしたあとは一日ゆっくり過ごすことに決めた。


 アリは調合部屋から図鑑を運んでくると、靴を脱いでベットに寝転びうつ伏せになった。そして腹這いで図鑑をめくり、この森に住む小さな生き物や食べられる木の実などを見つけては、小さな紙に鉛筆で書き写していった。


 ・コバジョン

 大森林の比較的浅いところに生息する小型の魔生物であり、子どもでも狩ることができる。

 外敵に見つかると、同じところをクルクル回り出すため簡単に倒せるが、その肉は食用には向かない。毛皮の価値は低い。始めたばかりのハンターが練習に狩ることが多いが、湧きやすいために数が減ることはない。


 なんだか不憫な生き物だとアリは思った。見た目はバスケットボールに頭と手足がついたような姿をしている。見てみたいとは思ったが、森の浅い所にいるのならお目にかかることはないだろう。


 ペラペラと流し読みをしてしばらく経つと、眠気が襲ってきてうっかり鉛筆をベッドの下に落としてしまった。


 親切にもプリ先生が拾ってくれたのだが、目の前に止まった姿を見てアリは悲鳴をあげた。


「プリ先生! たいへん! 足がヤバい」

「あぁ、添え木を取ってこなきゃ。湿布はさっき私が使った残りがあるし」

「冷やすのか? 冷やしていいのか?」


 アリはあわあわしている。


「静かにしなさい!」


 オカメインコの一声によって、アリは落ち着きを取り戻した。


「先生は足が痛くないの?」


「なんのことよ」


「先生の指が後ろの方に折れ曲がってるよ」


 アリは指差したが、プリ先生は首をかしげている。


「鳥の足ってこうだよね」


 アリは紙の余白に三本の線を引いた。それは木という漢字の横線がないものだった。


 アリは知らなかった。その足は三前趾足(さんぜんしそく)といい全ての鳥類がその足を持つわけではない。それに後趾もあるため正確には三本ではない。鳩やカラスの足がそれである。

 オカメインコは対趾足(たいしそく)であった。

 骨折したから指が後方に伸びていたのではなかったのだ。



 なんともお騒がせな一日を過ごし、異世界三日目が終わった。


投稿をはじめてから四日目になりました。

三日坊主にならずほっとしています。

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