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医術師と子どもたちのネットワークの優秀さについて

 

 これは私、やっちゃったんだろうか。

 姉妹のうち、悪いのは姉だとまったく疑っていなかった。それはマノリト様が騎士からの説明を受けてから妹を保護していたからなんだけど、そもそも騎士の取り調べが正しかったのかなんて、私は確認しようとも思わなかったのだ。いや、だってレアンドラさんの件で散々お世話になっていたし……。

 被害を受けたのが妹だから、加害者は姉のほうで疑うべくもない。それで納得してしまったのは良くなかったかも……。


「嘘ばっかり」

「リアは、リアはって赤ちゃんみたい」

「ああやって泣きマネすれば許されると思ってるのかしら」

「だよねー」


 女の子たちのコソコソ話で『あ、これ私は間違ってないヤツ』と確信した。

 廊下の反対側には子どもたち数人が輪になって、私が恥ずべき行いをしていたのと同じことをしていた。

 そういえば盗み聞き仲間がいたんだったわ。案内をしていた子もちゃっかりその仲間に入っているじゃないか。それに獣族の子がいるのか、ずいぶんと良い耳をお持ちでいらっしゃる。

 たしかに一人称が名前の子は身近にはいないかな。いや、黒にゃんこのルファさんがいたか。それにたまにガウターが自分のことをガウたんとか言ってるけど、あれはちょっと甘えたいときにわざと言ってるっぽいんだよね。

 それにしても五、六歳くらいの子どもに赤ちゃんと言われてしまう、リアという子はいったいどんな人なんだろうね。


「白猫だからって甘やかされすぎなのよ!」


 ふぅん? ()()()()ではなく()()()()()()()ねぇ。

 この子はまえにも見たことがあるし、服装からして孤児院の子っぽい。教室として使っている部屋には、そろそろ家に帰ろうかという大人たちが残っているようだから、輪の中には一緒に帰る街の子も混ざっていそうだけど。


「朝の水汲みだってセリアと一度も会ったことないし」

「お手伝いなんてなんにもしないんだよ」

「パウラにやらせてたのなんか、みーんな知ってるんだからね!」

「白の猫人だからってお姫様になるなんて、バカなことばっかり言ってるし」

「セリアなんて勉強しないでおしゃべりしにきてるじゃない。おバカなお姫様なんてサイアク! 獣相が強いなんて関係ないのよ」

「それ以前に、貴族でも高位じゃないと王子様とは結婚できないでしょ! そんなの常識なのにね」

「それなら強力な魔術が使えて、アルメンダリス家の養子に選ばれるって方が現実的でしょ」

セレーナ様(魔術師長)の後継者かぁ。カッコイイよなぁ。術力が高いヤツがうらやましいよ」


 周りにいる子どもが同意するように頷いている。

 日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らすためなのか、子どもたちは言いたい放題だな。それにしても水汲みの仕事は単なるお手伝いではなく、お子さまネットワークが形成されているようだ。そして情報収集は学校でも盛んなわけね。この社交場に顔をださない子は陰口を叩かれちゃうのか。

 魔術師長の家は貴族で間違いないんだけど、魔術力が低ければたとえ長男であってもアルメンダリス家を継ぐことはないんだとか。魔術が使えるようになる十歳をこえると、平民でも孤児でも関係なく一度は夢に見るのが、魔術師長に見いだされることのようだ。

 領都といっても王都から離れた街の、ましてや孤児院の子たちでも理解しているくらい有名な話らしい。

 王都の学園で魔術の才能があれば魔術師長へのアピール合戦が始まり、興味をひくことができれば学園へ面会に来てくれるんだとか。ずいぶんフットワークが軽いなと思うけど、アルメンダリスの名を残すためには大事なことなんだろう。貴族の家っていろいろと大変なんだな。


 相続争いとかが酷そうだからあまり関わりたくないけど、森の中では得ることができない知識なので子どもたちとの交流も悪くない。背丈的には完全に埋没していて違和感がないので、また仲間に入れてほしいな。

 ついでに姉の名前はリアじゃなくてセリアで、さらには獣頭で白毛の猫人らしい。

 偽名がダメで愛称は大丈夫って、線引きのルールがわからなくて震えるわ。


「あいつかぁ。僕たちだって仕事があるのに、いつまでもついてくるんだよ」

「それはお前らにだけだって。孤児院の子には目もくれないぜ」

「建築ギルドがダンジョンに入る日は、オレたちも稼ぎ時なのによぉ」

「薬草をとりに行ったとき空色の石を拾ったんだよ。それをパウラにやったらズルいって怒ったんだ。キレイだったけどただの石ころだぜ」

「えー。おまえパウラのこと好きなのかよ」

「じーさんやばーさんたちがかわいがってっから、ちょーしにのってんだぜ」

「えっ! オレにはたまに菓子とかくれるけど?」


 年長の子どもたちが口々に不満をもらすと、十にも満たない男の子が歳上の口まねをして唇を尖らせている。なんとなく悪ぶりたいお年頃なんだろうか。

 そして背の高い男の子は唯一貢がれていたのか、ビックリしつつもセリアの悪評に(おのの)いている。

 子どもたちには告げ口の意識がないみたいだけど、バッチリここで聞いてますよ。話の内容はほとんどがセリアの批判だな。『そういえばこんなことがあったんだよね』みたいな軽いノリの子もいるから、すべてを鵜呑みにするつもりはないけれど、子どもという生き物は案外周りを見ているのである。

 そしてダンジョンの話は私も興味があるよ。建築ギルドでは月に二度、団体でダンジョンに潜るらしい。引退したハンターや若手を引き連れて、材木を集めている間の護衛依頼があるのだという。

 目当ての丸太を荷馬車三台に積み上げて戻ってくるのは昼過ぎになるらしく、それに便乗して孤児院のハンターたちが狩りをするんだって。


「大物が寄ってきたりはしないんだぜ」

「蔦を剥がしたり下刈りなんかをちょっと手伝えば、近くで採取するのを許してくれるからな」

「落ちた果物が拾えるから街の奴らもけっこう集まるけど」

「俺たちはあと三年で孤児院から出てかなきゃなんないんだよ」

「宿暮らしは金がかるからな。いまのうち貯めとかないと」


 ハンター登録している子にとっては月に二度ある稼ぎ時らしい。ダンジョン内の魔植物や魔生物はそれ以上のサイクルで回復するんだけど、採りすぎないようにしているんだとか。

 そしてリアリストになるのも当然という厳しい現実を目の当たりにして、なんだか苦い気持ちになった。この子たちは中学(十五歳)を卒業したら、完全に大人として扱われるんだね。


「きっとあの騎士様をたぶらかしたんだよ」


 しょっぱい気持ちに目が潤みそうになっていたら、なにやら物騒な発言が耳に入ってきたよ。

 この孤児院の子たちは、歳のわりになかなか難しいことばを知っているね。意味がわかって言っているのかは不明だけど、まわりの大人たちは話の内容に注意しないとな。子どもがマネしたら困ることばを不用意に話さないでほしいよ。さすがによくないと、年嵩(としかさ)の女の子からたしなめられている。

 それにしても一緒にいるのが騎士様とはね。神官長ではない男の声がその人らしい。話している感じから、(たぶら)かされているというより仲裁しようとしているっぽいけどなぁ。それか真偽を確かめたいとか? さすがにロリコンではなさそうだが。

 セリアって子が残念な性格だったとして、謹慎中になんの目的があって神殿まで足を運んだんだろう。しかも街を警らしている騎士と一緒だなんて、自分が謹慎中だとバレない自信があったんだろうか。

 見舞いたいって話していたけどどういうことだ? 熱湯をかけたのは自分なのに。継母から虐められたと訴えてまで何がしたいのかわからないな。いずれにせよ神官長が面会謝絶と決めたのならば、それを覆すことは難しいだろう。


 わずかでも可能性があるかと、獣頭の人は差別されているのかを確認してみたが、獣頭の子は赤ちゃんから幼児までの可愛らしさが尋常ではないため、一族郎党、ご近所さんたちに至るまで、たいそう可愛がられて育つらしい。そのせいか天真爛漫とは聞こえはいいが、甘えっこで子どもっぽい性格になりやすいみたいだ。つまりはワガママで協調性がないのか。

 そういえばアリリオも可愛がられている感じではあったね。あそこはわんにゃん村で人族を見なかったから、差別のありなしは判断しづらいけれど、獣頭ではない村人たちからハブられている感じはまったくなかったな。


 応接室は膠着状態だから、さきにパウラちゃんの治療を始めようかな。あの人たちがいつまでも居座る気なら、マノリト様が開放されるのを待っていたら森に帰れなくなっちゃうよ。

 盗み聞きは子どもたちに任せて、私はパウラちゃんが待っている治療室へと歩きだした。




「こんにちは。アリですが傷の調子はいかがですか。痛みがあったりしないかな?」


 ドアを開けながら話しかけたあとにノックをし忘れたことに気がついたけれど、いまさら取り繕ってももう遅いな。驚いた顔のパウラちゃんと、そのそばにいるのはお友だちだろう。チュイとチャロ兄妹も、落ち着かない様子でイスに腰掛けているね。メルの姿が見えないのは、またベッドの掛布に立て籠もっているんだろうか。

 パウラちゃんのベッド脇には、キッチリした服装のおばさんがニコニコしながら立っている。あんまり似ていないんだけど母親だろうか?


「あなたがあたらしい管理者のアリ様ですのね。わたくし、騎士団で医術師をしております、ダニエラと申します」


「は、はい! はじめまして。青の森の管理者をしております。アリと申します」


 焦ったせいで口調がうつってしまった。無礼なまねをされたと、怒った気配がしなくてホッとしたよ。

 目の前の女性は母親じゃなくて医術師だった。医師は会ったことがあるけど、医術師ははじめましてだな。医師との違いもサッパリわからないんだが、常識だとしたらプリ先生が私に教え忘れたんだろうなぁ。

 先生が森の外のことに疎いのは仕方がないよね、遡れば管理者が話してないってことだもの。これはウィル様にも飛び火する話だわ〜。


 自己紹介やらパウラちゃんの治療経過やら、ダニエラさんがなぜここにいるのかを、やや興奮気味に矢継ぎ早で話しているが、要するに治療の補助をしてくれるらしい。

 医術師はざっくり説明すると内科医みたいなものだな。しかも医療器具は自前の魔術を使うようだ。例えばエコー検査やレントゲンみたいに、患者の体に魔素を流して患部の状態を診るサーチ系の魔術が使えるのだとか。

 マノリト様にはきょうの治療は痛みを伴うと話していたので、熱湯被害の診断をした騎士団所属の医術師を呼んでくれたのだそうだ。治療の様子と経過を調書に加筆し、相応な償いをさせるためには大事なことらしい。

 それに痛みの緩和に鎮痛剤が使えなかったのだが、医術師には患者を全身麻酔に近い睡眠状態にできるのだという。


「よかった。暴れないように縛りつけるのはかわいそうだし、心の傷(トラウマ)になるんじゃないかと心配だったんですよ」


 治療中に暴れたり痛みで患部に触れたりしたら、手のひらや指にケガをしてしまうからね。


「医術師は患者の体内にある魔素も使えるのです」


 この大陸に住んでいる人びとは、自分の中にある魔素しか使えない。魔素は呼吸や食事などで体内に取り入れることができるらしい。私は自分の中にどれだけの魔素があるのかはっきりしないし、なんなら大気中の魔素をそのまま使っているような気がするんだよなぁ。自分の内と外って感覚が希薄な気がするよ。それが他人の魔素を感じ取れない原因なのかもしれないなぁ。

 言われてみれば、ウィル様も管理者を引退して()()になったから、ものすごい食事量だったなぁ。王都ではひたすらモグモグしてたし。


「ダニエラさんは異常に魔素を取り込んでしまっている妊婦の症例をきいていませんか? そのせいで出産後も体調を崩している女性の話をきいた覚えがあったりは?」


「そうですねぇ」


 魔石泥棒の母子の情報をもっていたりはしないかと、ダメ元で聞いてみると、ダニエラさんは血色の良い頬を右の手のひらで支えるように首を傾げ、数秒のあいだ深く考え込んでから説明してくれた。


「わたくしたち医術師は医師や技師も含めてですが、医療ギルドという組合に所属することを義務付けられております」


 フムフム、なるほどね。説明の邪魔にならないように頷くことで相槌をうって、話の続きを促した。


「ギルドに紐付くということはいろいろな義務や(しがらみ)、厄介事に関わることも増えますが、新たに見つかった病気やその治療法、そして季節や年ごとに流行する病の予防法などの情報も、共有することができるのです」


 いや、この国で講習会や研修会を開くとしても、移動に時間がかかるよね。前世のようにはいかないから、対応が遅れるのはどうしようもないんじゃないのかな。

 王都集合を呼びかけたら、全員集まるのは数週間後なんでしょう?


「この広いパパガヨ国の辺境にいたとしても、王都カメリアで受けられる治療と同等になるように、というのが現在の医術師長であるクラリーサ様のお考えです」


 おや? 王城で紹介を受けた各師長のなかにはいなかったよね。そりゃあこちらは新米の管理者だから、管理職全員と挨拶する必要はないんだろうけど、薬剤と医術は切っても切れない間柄じゃないんですかね。


「それはわかりますが、実現するのはむずかしいのではないですか」


 なんだかイヤな言い方だったとちょっとだけ反省した。薬師がかかわるなら、騎士団長より医術師長だよねって気持ちのせいだろう。


「そこでクラリーサ様は遠話魔術を魔道具化する陣を開発したのです。もちろんセレーナ様の協力もありましたが、いまでは各ギルドのみならず、王城と領主たちもさほど間をおかずに連絡を取り合えるようになっているのです」


 ダニエラさんは誇らしげに胸を膨らませているが、たしかに交通機関がイマイチなこの国で、すばらしい功績をたてたと思うよ。

 こんな世間話の最中でも、私の両手は高速で動いている。それというのも、子ども四人が退屈しのぎに手遊びを始めだしたのが視界にはいったからだ。

 アルプス一万尺は私も遊んだことがあるけど、あれはふたりだったし、格闘技みたいな音もしなかった。四人は組手のように技を繰り出している。こちらの子供はずいぶんとアグレッシブな遊びをするんだな。


「よし、ツボクサも滑らかなペースト状になったね」


 パウラちゃんはまだ若いからまったく気にしないだろうけど、こちらはシミやシワにも驚くほどの効果がある。魔素をたっぷりと練り込んで作ったこの薬は、貴族女性が求めて止まない魅惑の美容軟膏なのだ。

 扱える魔素が規格外な管理者が練った軟膏は、深刻な皮膚病や、目立つ箇所に傷を負い公の場に出られないひとを優先して使われると聞いている。

 中巻に記載されているだけあって、魔素を練り込む作業や素材を生のまま使用する、すり潰すときに温度を上げないなど注意点が多いのだ。


「さすがは管理者であらせられる。魔素のうねりが小さな嵐のようですわ。生きているあいだに四色の森の御技を拝見できるとは」


 ダニエラさんはちょっと泣きそうだ。管理者とのエンカウント率はよっぽど低いんだろうね。


「そしてここに蛇蔦(へびづた)の消化液を分離しないように加えていきます。私は魔素の遮断がよくわからないから、ガラス瓶の中で取り出します」


 素手で触ったら大変なことになるからね。ここからの魔力操作は早さと繊細さが重要になってくるんだ。


 蛇蔦(へびづた)はわりとどこの森、いや林レベルの規模でも見つかる植物だが、やはり四色の森産は薬効が高い。蔦と呼ばれているが正しくは半寄生植物で、半分は光合成で養分を取り入れている。

 蛇蔦(へびづた)には通年蓋つきのウツボカズラのような実が成る。それが寄生部分から伸びていて、一見すると枝から下がる蛇に見えるし、たちの悪いことに生き物に反応して弾けるのだ。

 植物学者が解明した特性には、生き物がその木の下を通るときに魔素に反応して消化液を撒き散らすことで、寄生先の樹木の養分にしているとあった。小動物は命を落とし、大型の生き物でも大怪我を負うことがあるらしい。

 青の森でも見つけられるけれど、あまり樹高があるものには寄生せず、日当たりがよく葉が密集していない種類の木を好んでいるようだ。だからハンターに限らず森に入る者は、頭上にかなり注意を払っている。誰だって酸を頭から被るのは嫌だろう。

 この厄介な特性のせいで恋人やパートナーに依存した生活をし破滅させる者に対して、蛇蔦(へびづた)野郎(やろう)蛇蔦(へびづた)(おんな)などと罵る言葉として定着しているらしい。

 前世では恋人どころか親子間でもあったけど、この世界でも寄生するヤツはいるらしい。


 ガラス瓶の中で分離せずに混ざった薬は、撹拌に使ったガラス棒をゆっくりと伝ってポタリと落ちた。


「もう少しだけ緩い方が調整しやすいな」


 消化液を三滴追加してすばやく混ぜると、ようやく納得のいく仕上がりになった。


「ねえ、いちおう聞くけれど自称妹思いのお姉さんに会いたい?」


 ここから患者様には眠ってもらうので、その前に本人の気持ちを聞いておく。


「絶対にイヤ。こんどは何をされるかわからないもん。かぁさんが困るから仲良くしようと思ったけど、命令ばっかりだしもうお姉ちゃんだなんて思いたくないの!」


 最初はお姉さんができて嬉しかった。父親が亡くなって寂しかったから、新しい父親と打ち解けるのは難しかったけど、姉がいたら母親が仕事でいない日中も安心できると思っていたのに。パウラちゃんは心底嫌そうにそう即答した。

 だよね、知ってた。会ってみるって返事だったとしても、阻止する方向で説得するよね。

 普段なら両方の意見を聞くまでは一方が悪だと決めつけたりはあんまりしないんだけど、なんかもう生理的にムリなんだよ。白猫ちゃんな見た目はめっちゃ可愛いんだろうけど、嘘泣きに虚言癖があるってことは、この数十分でよくわかったからね。

 この国では、あと一年で魔術を授かる儀式を行ってもらえるのに、誰も矯正してくれなかったんだろうか。




 治療室を出て相談室の前まで行くと、廊下にいた子どもたちはひとりもいなくなっていた。ダニエラさんはパウラちゃんとチュイ君が目覚めるまで付き添っていてくれるらしい。

 続けてふたりの治療は負担にならないのか聞いたら、儀式前の子どもはまだ自分の中に魔素が定着していないから、それほど反発が起こらないんだとか。まぁ、そのせいで影響も受けやすいんだけどね。なので問題なくふたりの治療を済ませたのだ。

 嬉しいことに、ダニエラさんの医療関係者ネットワークで魔石泥棒の情報が得られたら、領主様かハンターギルドを通して連絡がもらえることになった。これで少しは進展したらいいな。あんな神様からでも文句を言われたらイヤだし。


「マノリト様、やけどを負った少女の件でお話ししたいのですが、いまお時間をいただけないでしょうか?」


 もう決着つけちゃっていいんじゃないかな。子どもだから更生させたいのはわかるけど、しっかりと叱らないと反省しない子はまた繰り返しそうだよね。

 そう思ったので、対応中と知りつつノック後に声をかけさせてもらった。


「にゃんで家族が会えにゃいのに、知らにゃい人が妹の話をするにゃ」


 セリアが興奮気味に騒いでいるな。それにしても()()()ねぇ? それは本気で言ってんのかな。


「やけどの跡が残るのは確実だったのですが、運よく青の森の管理者様がこの街を訪れておりまして」


 ドアを開けながら縁あって傷を治してもらえることになったと神官長が説明したとたん、奥のソファから無表情でこちらに顔を向けてきた白猫がいた。

 なにあのブスくれた顔、めっちゃかわいいんですけど!

 ウソ泣きの演技をすっかり忘れてるじゃないか。まだ小学生だもんな、パウラちゃんに対する悪感情のほうが勝っていて誤魔化しきれてないんだよ。

 となりにはガタイのいい青年が座っている。私がさきほど職務質問された騎士たちと同じ制服を着ているから、勤務中で間違いないね。


「はじめましてアリといいます」


 私もお話し合いに混ぜてもらうよ。この騎士の出方しだいでは、上司であろう魔術師のエルバさんに言いつけてやるんだからね!


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