2月 普遍
2月1日
英雄症候群が何なのか、ようやくわかった気がする。今日、英雄症候群のソシャゲ版が配信された。スマホで英雄症候群ができるようになってしまった。
朝起きたら、親父と母さんが目覚めていた。嬉しかったのは一瞬。二人は狂ったように、スマホを見つめていた。
画面に映っているのは、気色悪いくらいきれいなグラフィックの英雄症候群。親父も母さんも、俺がどれだけ呼んでも答えてくれない。ずっとゲームをしている。画面を見た瞬間、俺はまた呼ばれた気がした。俺は一日、部屋にふさぎ込んで過ごしていた。頭が砕けそうなくらいに呼ばれた。
明日、もう一度学校へ行こうと思う。
2月2日
学校には鍵すらかかっていなかった。道路には車一台走っていない。もちろん駐車場にも。
教室に行く。中には大屋はいなかった。当たり前だけど、ほっとした。ほっとした自分が嫌いになりそうだった。
職員室の中を探すと、クラスメイトたちの住所があった。佐藤の家が意外と近かった。明日、向かってみる。
二人は、一日中ゲームをしていた。
2月3日
佐藤も二人と同じだった。虚ろな目をしてスマホをいじっている。
佐藤の両親も同じだ。みんなスマホをしている。やっているのは当然英雄症候群。多分、スマホに充電用のケーブルが刺さっていないことすらささいなことだろう。だって、二人は英雄症候群を始めてから水すら飲んでいないんだから。
2月4日
夜になって、電気が止まった。水道、ガスも同じ。今はろうそくに火をつけて書いている。
スマホの充電が切れる様子はない。俺のスマホは今日投げ捨てた。
2月7日
二日、日記を書かなかった。書く気が起きなかった。今日くらいは書こうと思う。書くことなんてないけど。
2月10日
誰もいないショッピングモールで、生きるためのものを取る。誰もかれもがゲームに夢中なもんだから、店のものをいくらとっても何にも言われない。まず言う人間すらいないんだからな。
ブランドもののかっこいいコート。おしゃれなだけで機能性なんてまるでない靴。誰が使うんだよってくらい高い調理器具を使って、ショッピングモールの服を燃やしながら料理をした。
終末世界のような、ゾンビ映画みたいな状況に興奮した……興奮?
ふざけ るな!!
俺が どうい して おれが お れだけが 正常 なんだ
な なんで おれ、お れ だけ
もういやだ。一人ぼっちはさみしい。
だれか。だれか■■■
にがつじゅうよっか
きづいてしまった
おれだけはせいじょうなんだとおもっていた。だけど、おれだってせいじょうじゃなかった。どうしてきづかなかったんだろう。おれ、しばらくなにもたべていない。
にがつじゅうごにち
わりきれればかんたんなんだとおもう。でもさ、わりきるのもたいへんなんだよ。いっそ、おれもおなじになればらくなのかな。すまほをもってあぷりをだうんろーどして、そうすればかんたんに
あぁでもだめだ。おれのすまほはすてちゃった。がめんをみても、なんでかよばれなくなった
にがつじゅうろくにち
俺は、一人だ。
2月26日
音が聞こえる。みんながゲームに夢中なこの世界で、音が聞こえたんだ。ジジジ、ジジジって、
空の色が緑色。俺はついに狂ってしまったのか。そもそも狂っていたのか。
わからない。だけど、何かが変わる気がする。
2月27日
世界のどこかで音がして、俺の頭の中に何かが入ってきた。
2月28日
予感がする。とっても素敵で、残酷な予感だ。
2月29日
英雄症候群は豚から始まった。明日から3月。