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知られざる学園の異才  作者: 杉崎ユウ
6/11

四組メンバー

途中で出てくる「メッシーバーン」は、クシュッとしたルーズなお団子ヘアのことです。


ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 四月五日、午前七時。


 都心ゆえ桜が満開の中、とはいかないが、晴天にも恵まれ、心地いい(さわ)やかな風が吹き抜ける中。多くの新入生が授業初日を迎えるための準備を整えていた。


 感鋭学園では一度決まったクラスは、一部の例外を除き卒業するまで固定というシステムだ。

 なので生徒は、クラス内での第一印象を良くする為に様々な策を()る。


「なんか違うなぁ……」


 そんな中、風呂上がりパンツ一丁の真崎トウゴも、洗面台の鏡前で悪戦苦闘(あくせんくとう)していた。


 清潔感を出すために慣れない髪のセットをして、失敗しては髪を洗い直し、失敗しては洗い直し、を繰り返す。初めは沢山あったワックスも、みるみる減っていく。


 やっと納得がいったのか、急いで前日にアイロンをしたシワ一つない制服に身を包み、朝ご飯を作る。

 ついこの前まで料理などした事がなかったトウゴに、上手くいくはずもないのだが……。


 フライパンに卵を高くから落としすぎて、目玉焼きの潰れた黄身部分は琵琶湖(びわこ)のような形になっていた。


 えーいっ! 大事なのは見た目より味だ! と思いながらベーコンと一緒にパンに挟み食べる。


「う、うまい」


 初めての自作料理に、トウゴから思わず言葉が()れた。

 卵焼いただけじゃん、とツッコミを入れられそうだが、今まで調理器具にもほとんど触れてこなかったトウゴからすれば、それだけで十分料理なのだ。


 ベーコンの強い塩気を卵が包み込みパンとよく合う、などと、トウゴが心の中で一人グルメリポートをしていると、インターホンが鳴る。


 出ると既に準備が終わった様子の、ガレンとシアが立っていた。


「はやく行こうぜ」

「七時五十分に集合って約束したでしょ」

「ごめん、準備に時間かかっちゃって、先に行ってて」

「言ってくれれば手伝ったのに」

「遅刻すんなよ」


 笑顔で謝り、先に学園へ向かう2人を見届け、トウゴは急いで朝ご飯を食べる。『先に行ってて』という友達同士ならではの会話ができて、少し満足感を感じる。


 ちなみに感鋭学園には感覚についての機密情報(きみつじょうほう)や、様々な重要人物が出入りするため、セキュリティは極めて厳しい。


 学園の外では、おびただしい数の監視カメラが設置され、死角はなく、常に何十人もの感覚者(センス)の警備員たちが巡回している。


 生徒は駅の改札のように、自身の生徒証を機械にかざし感鋭学園に自由に出入りが可能だ。


 トウゴは廊下を歩きながら、窓から他クラスの教室内の様子を(うかが)う。

 かなり生徒は集まっているようだが、みんは表情が硬い、お互い(さぐ)(さぐ)りの状態だ。


「四組の教室見た?」

「見た見た、希望書あそこに出さなくてよかったわ」


 トウゴは連れション帰りの生徒の会話がうっすらと聞こえた、恐らく花美先生の事を言っているのだろう、と単純に解釈(かいしゃく)する。


 四組の教室につき、トウゴは教室のドアに手をかけるが、一瞬開けるのをためらう。


 よしっ! と気合を入れ精一杯の笑顔を作り、ドアを開ける。

 どんなクラスメートと学園生活を送る事になるんだろう。


 最新設備の学校だけあり、ガラッと音もたたず、スーッとドアが開く。

 そしてドアの向こうには、別の意味で見た事が無い光景が広がっていた。


 広い教室にある30〜40個の席のうち、埋まっているのは真ん中の4つだけだった。もうすぐHRが始まるというのに。


 落ち着け、落ち着け、他のクラスを見た感じ遅刻とは考えられないし、初日からこんなに欠席するはずもない、とドアの前で立ったまま腕を組み、トウゴは考える。


「あっ、やっときたー」


 トウゴに気付いたシアラは、トウゴに駆け寄って腕を(つか)み、教室の真ん中に先導した。


 真ん中にはガレンが2人の女子と、仲良よさげに話しており、トウゴだけ置いてかれている気分を味わう。


「これが、さっき話したトウゴ」


 トウゴは2人の女子を近くで見たとたんに、笑顔がひきつる。

 1人はカチューシャをつけたメッシーバーンの可愛い子だが、もう1人は、見覚えのあるスラッと長い銀髮の女子、ティアラだった。


 ガレンが普通に話しているということは、入学式に水をぶっかけようとした事はバレていないのだろう。


早乙女(さおとめ)ローリエ! よろしく!」

「……っ!」


 机に腰掛けていたローリエは、グイッと顔をトウゴに近づけて挨拶をする。

 二人の顔の距離は10cmもなく、戸惑うトウゴ。女子をこんなに近くで見るのは初めてだ。近くで見ても、白く透き通った美しい肌、シャンプーの甘い香りが(ただよ)ってくる。


神城(かみしろ)ティアラです、よろしくお願いします」


 対照的に綺麗な姿勢で座りながら、挨拶をするティアラ。


「よ、よろしく」


 とりあえず挨拶を返すトウゴだが、頭の中では? だらけだ。何故ティアラがこのクラスにいるのか、なぜ5人しかいないのか。


「これで全員ね」


 シアラの一言でトウゴのパンク寸前だった頭はパンクした。


「全員ってまだ5人しかいないんじゃ…」

「アレ見ろよ」


 ガレンが指を()す先には、黒板に貼られた席順表があり、横一列に



 《ティアラ、シアラ、トウゴ、ガレン、ローリエ》



 の順で5つ名前が書いてあるだけだった。

 席順表を確認し、トウゴはひとまず自分の席にバックを置き(たず)ねる。


「じゃあ本当に5人だけなの?」


 トウゴの問いに、残りの4人が同時に首を縦に振る。


「な、なんで?」

「やっぱりザッキーも知らなかったのかぁ」

「ザッキー?」

「真崎トウゴでしょ、だからザッキー」


 机に腰かけながら初対面のトウゴにも、クリーンな笑顔で気軽にあだ名をつけるローリエ。


「トーゴに合ってて良いんじゃない」

「ザッキー……ザッキー……、うん、なんか良いかも!」

「でしょでしょ」


 トウゴは、初めてあだ名をつけてもらえた事に喜びを感じる。


「で、なんで5人だけ……」

「席につけー!」


 トウゴの声をかき消す程、テンションの高い大声が遠くの廊下の方から近づいてくる。

 勢い良くドアが開き、白Tにジャージ姿の、いかにも体育会系の男が走りながら入ってきた。


「席につけー!」

「もうついてます…」


 ティアラが丁寧にツッコミを入れる

 5人とも、ジャージ男のテンションの高さに圧倒されてしまう。


 花美という苗字からてっきり女の先生を想像していたが、違っていたようだ。それにしてもジャージに白Tは、『花美』という感じではない。


「HRはじっめぞー!」


 教壇(きょうだん)についたジャージ先生は黒板に自分の名前を書こうとした。


「なんでこのクラスは5人しかいないんだ」


 ガレンから、今みんなが一番聞きたい質問(ナゾ)が飛ぶ、いきなりの質問にジャージ先生は少しためらう。


「……」

「もしかして何か事情が……」


 シアラは心配そうに声を漏らす。

 教壇にバンッと手をつき、少しの沈黙の後、笑いながら話し始めた。


「いや、実はうちのクラスだけ希望書が全然来なくてな、アハハハハ」

「……」

「花美先生にパンフレットのメッセージ頼んだら、あんなこと書くんだもん。そりゃ誰も四組希望しないわな、アハハハハ」

「……」

「いやー、流石に少なすぎませんか?って言ったんだけど、お前なら大丈夫だろって学園長に言われちゃって、アハハハハ」

「……」

「ハハハ……って、あれ?」


 ()めることのない高いテンションに、軽く()いてしまう5人と、それに全く感づかないジャージ先生。

 笑い方からして学園長と同じ匂いがする。


 5人しかいない理由は解決したが、

 メッセージを頼んだという事は、ジャージ先生が花美先生ではないのか? という疑問がみんなに浮かぶ。


「あの、先生が花見先生じゃないんですか?」


 まっすぐ手をあげ、ティアラが質問をする。


「いや俺じゃないよ、俺は稲田(いなだ)カズユキ、この4組の担任だ!」

「じゃあ花見先生は……」

「まぁ色々あってな、今はいないんだ」


 カズユキは、ティアラの質問を途中で(さえぎ)り、教壇に両手をつきながら答える。答えるというより誤魔化したという表現が近いかもしれない。


「そんなわけで5人とも、卒業までよろしくな!」



 感鋭学園一年四組の学園生活が始まった。

何かありましたら教えていただけると助かります!

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