恨み
「え?」
堂々と結婚宣言をするミユキとレナに、疲れ果てて突っ込みも入れられないガレン。
「彼女を通り越して結婚だと!?」
トウゴの手にはいつの間にか消火器が握られおり、ガレンに振り落とそうとしていた。
「ちょっと待て! 説明させてくれ!」
「言い訳は死んでから言ってもらおう」
「死んだら何も言えねぇって! 学食もおごれなくなるぞ!}
「聞くだけ聞こう」
トウゴは振り上げた消火器を下すが、いつでも使えるように手からは離さない。
「こいつらは中学の同級生なんだよ」
「三年間ず~っと一緒のクラスでしたの」
「私は二年生の時からずっと一緒☆」
レナとミユキはわざと胸を当てながらガレンと腕を組み、自慢げに答える。
三人のやり取りを見ている限り、同級生というのは本当なのであろう。
「ガレンとは付き合ってるの?」
トウゴはベットに腰かけ、何気なく質問する。
結婚するという事は、今どちらかと付き合っていないとおかしい。
「んなわけあるかー!」
「付き合ってますわ」
「もちろん☆」
三人ともトウゴに向かって、互いを押し分け、間髪入れずに答える。
「レナ、何回も言いますけどガレンの彼女はわたくしですから」
「いーや私だね☆」
「あなたみたいなギャルを、ガレン様が好くとは思えません」
「ギャルじゃないし、白ギャルだし☆」
「どっちも変わりませんわ」
慣れた様子でガレンを挟んで喧嘩を始める二人。
完全に置いてきぼりにされるトウゴ。
二人がケンカをしている間に、ガレンはこっそり訂正をしようと試みる。
「彼女ってのは、こいつらが勝手にでっち上げて……」
「そんな! でっち上げだなんて、ひどいですわ!」
「傷ついちゃいます☆」
ガレンの囁き声すら、ガレン専用の地獄耳を持つ二人は聞き逃さない。
二人はこれでもかとガレンに近寄り、訴える。
「あはは……」
はじめは面白がっていたトウゴも、徐々に面倒くささを感じ始めていた。
「これやるからとりあえず帰ってくれ」
ガレンはレナとミユキに何かを渡す。
そしてそのまま二人の背中を力強く押して玄関まで連れていき、無理やり外に押し出す。
遅れて疲労がやってきたのか汗もかき、相当疲れている様子。
「ガレンも色々と大変なんだね」
「分かってくれればいいんだ……」
ガレンは部屋着の汚れを払いながら、再び説明を始める。
「ポニーテールのほうがレナで、ツインテールのほうがミユキ、何故か中学で会った日からあんな感じなんだよ」
「まぁ、でも二人ともカワイイから良かったじゃん」
多少クセのある二人だが、女子とベタベタできているガレンが羨ましいトウゴ。
同じベタベタでもシアラはいつも関節技しかかけてこない。
「いいわけあるか、ミユキはまだしも、ああ見えてレナは男だからな」
何の躊躇いもなくガレンが放った衝撃の事実に、トウゴの中の何かがバキバキと音を立て崩れる。
「嘘だ! あんなに可愛い子が男なわけない!」
トウゴは見事に騙されていたが、レナの巨乳はパッドによるものだ。
対照的にミユキは、自身の貧しい胸にコンプレックスを感じていたりする。
「俺も知ったときはビックリしたよ、あとレナはあいつが勝手につけてる名前で本名はリョウだから」
「そんな……」
「クソッ、レナとミユキが帰ってきてたのを忘れてた」
お茶を一気飲みして、唇をかみながらガレンは悔やむ。
今日は授業初日から新入生合宿に向かっていた普通科の生徒が、紅段に戻ってくる日だったのだ。
普通科とは感鋭学園に設けられている非感覚者が進学する学科だ。
授業では感覚について一切学ばず、ひたすらより良い大学へ行くために勉強をする。
ちなみに感覚者が進学する学科は感覚科と呼ばれている。
学科によって校舎は違うが、寮は同じだ。
「プリンでも食べて元気出してよ」
トウゴは冷蔵庫を開けてプリンが入っている箱を出す。しかし箱の中は空っぽだった。
計算では2個残っているはずなのだが……。
「プリンだったらレナとミユキにあげちまったわ、また今度買ってくるから許してくれ」
トウゴのプリンメーター 残り0個
トウゴは怒ることなく無言のまま玄関へ向かい、ドアを開ける。
トウゴは怒らない。だが代わりにガレンには、精神的にも体力的にもキツイ罰を受けてもらう。
「おい、トウゴお前何を……」
「ミユキー、レナー、ガレンに新しく好きな人ができたらしいよ」
大きな声で呼ぶ必要はない、なぜならミユキとレナはガレン専用の地獄耳なのだから。
「なんて事しやがるんだ!」
「あのプリンはもう売ってないんだよ! プリンの恨み償ってもらうぞ!」
遠くからドタバタと足音が近づいてくる、もちろんレナとミユキのものだ。シマウマを狩るライオンのような目つきをした二人の両手には、消火器が握られている。
ガレンは急いで自分の部屋に逃げ込もうとするが、トウゴが許さない。
ガレンのTシャツを後ろから掴み、ガレンは前に進めずじたばたとその場で足を動かす。
「ガレン様どういうことですかーッ!」
全力疾走で来たレナとミユキは、その勢いを落とすことなくガレンに襲いかかる。
「ぎゃぁーーーーッ!」