会議
「絶対におかしい!!」
授業が終わりトウゴの部屋に集められたローリエとガレン、そしてなぜか興奮しているトウゴは腕を組みあぐらをかく。
「どうしたいきなり」
ベットの上に座りながらプリンを食べるガレン。
何を興奮してるんだ? と冷めた表情でトウゴを見る。
「いやそれが……って二人ともそれ僕のプリンじゃないか!」
トウゴはガレンのプリンを奪取しようと勢いよく立ちあがり、腕を伸ばすが、ガレンもすかさず立ち上がり腕を高く上げる。
スカッっと音を立ててトウゴの手は空を切り、そのまま倒れこむ。高身長ってのはズルい。
「あ、そうだったのかスマン」
「レンレンがくれたから食べちゃった」
トウゴが飲み物の準備をしている間に、冷蔵庫から勝手にプリンを出していたガレン。
期間限定のカラメル三倍プリンだ。
「すまんって、もう売ってないんだぞ! 6個も買い溜めしたのに!」
トウゴのプリンメーター 残り4個
「怒んなって、で、相談ってなんだよ」
「うん、そのことなんだど」
ガレンは謝りながらもプリンを食べる手を休ませない。
トウゴは話がすり替えられた事に気づかないまま本題に入る。
トウゴにとってはプリンより大事な本題。
「絶対ティアラに嫌われてると思う」
床に敷かれたカーペットの上にあぐらをかきトウゴは断言した。
「そんなことないよ、ねぇレンレン」
「俺も、むしろ仲良いと思うが」
パクパクとガレンとティアラはプリンを食べ続ける。横にはカラメル一滴残っていないカップが。
「ちょっと待った! 二人とも2個目いってるよね!?」
「よく気付いたな」
「ザッキーのプリンおいしいんだもん」
トウゴのプリンメーター 残り2個
「で、何で嫌われてると思うんだよ」
「……」
声を荒げたいところだが、プリン2個が相談料と考えれば安いじゃないか、とトウゴは自分に言い聞かせこみあがる感情を抑え込む。
「ここ何日か一緒に帰ろうって誘ってるんだけど、一回もokしてくれないんだよ」
確かに始業式が始まって以来、行きも帰りもトウゴたちは基本四人で寮まで帰っていた。
帰りにファミレスに立ち寄ったり、カラオケに行ったりはせず、ただ雑談をしながら帰るそれだけ。
トウゴを含めた四人は、学校帰りに寄り道をしたかった。ただ、したくてもできなかったのだ。
カズユキ別名カズコー(ローリエ命名)の授業は想像以上にハードで暑苦しいものだった。
HRで10キロ走らされたり、数学や物理全ての科目で、学園の授業カリキュラムを超えた範囲の勉強もさせられたり。そのため四組の帰りのHRが終わる時間は、他のクラスより二時間も遅かった。
カズコー曰く全て必要な事らしいが……。
そんなこんなでまだ授業に慣れきれていないトウゴたちに、学校帰り寄り道をする体力は残っていなかった。
「だからといって別に嫌われてるとはならないんじゃない?」
「いや、嫌われてるよ」
トウゴにはそう断定できる理由があった。
「授業初日の時は習い事があるからって断られて。二日目はパーティーがあるからって断られて。三日目には『一緒にかえ……』って言った時点で断られて。今日なんか授業終わってから近づいただけで『ごめんなさい』って言われたんだよ!』
「……」
「……」
ティアラとガレンは食べかけのプリンを置き、下を向く。まるでトウゴと視線を合わせないかのように。
「なんで二人とも黙るの!? やっぱり嫌われてるんじゃないの!?」
「……」
「……」
トウゴは二人を交互に見るが、二人は依然目を合わせようとしない。
とっさにお茶を飲みながらこの嫌な間を埋めようと試みる。
「その沈黙が僕を傷つけるんだけど!」
「流石にそれはザッキー嫌われてるかも……」
「あぁ、まさかそこまでだとはな」
ローリエが重たい口を開き沈黙は消え失せたが、二人の発言にトウゴの疑惑が確信に変わった。
「やっぱり……」
早速女子に嫌われたという現実がのしかかり、トウゴは文字通りがっくりと肩を落とす。
あれだけ楽しみにしていたプリンを食べる気も失せてしまう。
「そ、それで二人に相談しようと思って」
「何か嫌がる事したんじゃないか」
「ザッキー覚えてないの?」
「そんなはずないんだけどなぁ」
腕を組み考えるトウゴ、しかし女子と話すときは人一倍気を付けている為、思い当たる節はない。多分。
「あっ」
「思い出した?」
「授業初日のお昼休みにティアラのお弁当食べちゃったことかな」
「なにやってんだ」
トウゴの発言に、ため息をつきながらガレンは頭を抱えた。
「でもちゃんと許可取ったし、向こうから食べない?って……」
「今思えば、あの時ザッキーお弁当無いアピール凄いしてたから。ティアラ、嫌々お弁当あげてた気もする」
ローリエはいつものクリーンな笑顔とは真逆に苦笑いを浮かべる。
「恐らく、それが原因だろうな」
「でも一緒に帰るとき以外は話もしてくれるし」
実際ティアラはトウゴとお昼も一緒に食べているし、休み時間も一緒に話す。
「帰り道でおやつとか夕飯とかせがまれるとでも思ったんじゃないのか。ティアラの中でトウゴは『いやらしい奴』ってイメージついてるだろうし」
「そんなー、どうしよう」
「どうしようって言われてもなぁ、ティアラのトウゴに対する印象を変えるしかないだろ」
「ザッキーイメージアップ大作戦だね」
目をキラキラと光らせながらローリエは話を進める。
***
3人が話し合った結果、ティアラに謝って、お弁当を食べてしまった分のお返しをするという結論に至った。
お金はかかるけど楽しい学園生活の為だ! とトウゴは決心する。
「じゃあ決まりだね。宿題残ってるから私先に帰るね」
「うん、わざわざありがと」
トウゴはドアを開けたまま廊下に出て、手を振りながらローリエを見送る。
すると突然遠くから、聞き覚えがない愛嬌のある声が近づいてくる。
「ガレ…」
「ガレンさ…」
徐々に近づいてくる声にガレンが気付く。
飲もうと口に近づけていたコップを焦るように机に置いて、トウゴに向かって叫ぶ。
「トウゴ! ドアを閉めろ!」
「え?」
急な事に、状況を理解できないトウゴ。
少し時間を空けようやく理解し始める。
(ん? すごい勢いで誰か近づいていて来てる? 一人? いや二人いる!?)
(しかも両方女子? というよりこのままだとぶつかr……)
トウゴが自分の身に迫る危険に気づいた時には、時すでに遅し。
「「「ガレン様~~~」」」
廊下中に響き渡る大声でガレンの名前を呼びながら、トウゴに飛びつく何故か制服姿のポニーテールと、ツインテールの二人の女子。
ドスンッ!という音と共に、トウゴは見事に下敷きにされた。
「ぐはっ」
「あれ、こいつガレン様じゃない!」
伸びたトウゴの顔を見た二人はすぐに起き上がる。
そして、痛がるトウゴに脇目も振らず、部屋で二人に背を向け逃げようとするガレンの両腕に飛びつく。
ガレンは両腕を扇風機のように勢いよく回し、ぶらさがるの二人を振り落とそうとする。
「ミユキ! リョウ! 離れろって!」
「ガレン様~、捜したんですから~」
「リョウじゃなくてレナですって☆」
「わかった、わかったから、とりあえず腕から離れてくれ!」
トウゴは意識を取り戻し視界がぐらつく中、ミユキとレナにしがみつかれているガレンに視線が向く。
「いてて、って何女子とイチャイチャしてるんだ!」
「この状況のどこがイチャイチャなんだ!」
「見損なったぞ裏切者め!」
「だから違うって!」
唾を飛ばす勢いでガレンは弁解をする。
同時にさっきまで授業で筋トレくしていたとは思えないほどの強い力で、ミユキとレナを振り落とそうとするが、むしろ二人は遊園地のアトラクションで遊ぶ子どものように楽しんでいた。
「裏切者には罰を与えないと」
モテない男同士の同盟を裏切った罪は法で裁けないほど重い。
トウゴは鈍器と成りうる消火器がある台所まで一直線に進む。
「裏切者でも何でもいいから助けてくれ!」
しかしトウゴは消火器を取りに行くのを止めない。
「待て、学食五日分でどうだ!」
しかしトウゴは消火器を取りに行くのを止めない。
「一週間分でどうだ!」
「交渉成立」
トウゴはコアラのようにガレンの両腕に抱き着くミユキとレナに近づき、救出を試みる。
「離れてあげてほしいんだけど」
「イヤです」
レナとミユキは寸分の狂いもなく同時に、トウゴの提案を撥ね付けた。
ミユキに至ってはトウゴをゴミくずを見るかのように、光彩の無い目で睨み付ける。
「ガレンごめん」
「諦めるの早すぎだろ! 学食一週間分を返せ!」
これ以上女子に嫌われたらメンタルが持たない、そう察したトウゴは戦略的撤退を余儀なくされる。
無念を胸に、背を向けガレンから離れていく。
女子にあんな睨み付けられたのは初めてだ、人としての尊厳を踏みつぶされた気分。
数十分の格闘の末、ようやくガレンから離れる二人。
トウゴは未だに状況を理解できていない。
「で、結局その二人は誰なの?」
「いや、こいつらは……」
「私はガレン様と結婚予定のミユキですわ」
「ガレン様と結婚予定のレナで~す☆」
ミユキは頬を赤らめながら手を口に優しく添えて、レナは大きな胸を揺らしながら腰に手を当てて横ピースを顔の前で作り、そう宣言した。
早くも10話まで来ました!
トウゴの超感覚発動はもう少し先になりそうです。グタグタストーリー進行で申し訳ありません。シアラに怒られちゃいますね(汗)
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