いざ入学式!!
「ひったくり!」
高層ビルに囲まれ、車や出勤途中の人々の雑踏の中、女性の叫び声が響く。
ひったくり犯二人はバイクに乗り、走り去る。
ナイフを持っているため、誰も近づこうとしない。が、
「第三感:重量感覚」
と青年がつぶやいた途端、バイクとひったくり犯は一瞬にして地面に叩き付けられる。
「ひゃっ、ひゃれ?」
木っ端微塵になるバイク。
一瞬の出来事に、ひったくり犯も自分の身に起こった事と痛みに気付かない。
被害者の女性は息を切らしながら、青年のもとに駆け寄る。
「すいません、ありがとうございます」
「いえ、全然大丈夫ですよ}
後の事を女性にまかし、立ち去る青年、しかしその表情は暗い。
「はぁー……」
この青年、真崎トウゴは、ため息をつきながら、制服のポケットから感鋭学園生徒証を出す。生徒証には、半目&白目になってしまっているトウゴの顔写真が載っていた。
感鋭学園は感覚養成のエリート校である。
ここでの感覚は刺激を感じ取るなどという簡単なものでは無い。
もっと複雑かつ高次元な能力である。
同じ感覚が優れている人によっても能力は異なる。
視覚が優れている者は見た物を写真として念写する事ができたり、遠近感が優れている者は物と物の間の距離を自由自在に変えたりできる、感覚とはそういう能力。
「……」
顔写真など些細な事かもしれないが、学園デビュー&恋愛を成功させようとしているトウゴにとっては、出鼻をくじかれた感が否めない。
「入学式の朝から何しょげてんの?」
聞き覚えのある声に驚き、トウゴは振り返る。
ラブコメの様な展開を期待してしまうが現実は甘くない、見慣れた幼馴染みが立っていた。
「なんだシアラか驚かすなよ」
「なんだとはなによ、で、何かあったの?」
「いや、えぇっと……」
トウゴからすれば絶対に笑われるので見せたくはないが、上手い嘘も思い浮かばず、渋々生徒証を見せる。
「何これー」
足を止め、生徒証に写る変顔を見ながら、腹を抱えシアラは笑う。
やっぱそうなるわな……と思いながらも、トウゴはすかさず反撃のチャンスを伺う。これ以上、出鼻をくじかれるわけにはいかない。
「シアラの生徒証も見せてくれない?」
「え? いいけど今更トーゴが見てどうするの?」
「いいから、いいから」
涙を拭き、シアラはカバンの中から出した生徒証を何のためらいも無く渡す。
(証明写真なんてどんな人でも多少変に写る、これでシアラに仕返しを…)
にやけながら生徒証を見るトウゴ、どうやって笑ってやろうかと心の中でもにやける。しかしそこに写っていたのは、可愛い金髪の女子であった。
中学時代に女子と縁の無かったトウゴは、最近の女子が、自分の盛れる角度や表情を熟知している事を知らなかった。
驚きを隠しつつ
「写真だけは可愛いんだね」
と言いながらシアラに生徒証を返す、トウゴにとっての精一杯の仕返しである。
「だけ?」
トウゴがシアラの方を向くと、カワイイ声とともに、シアラの手には釘バットが握られていた。釘は長く、両端がとがっていて殺傷能力満タンだ!
どこから釘バットを出したのか気になるがトウゴだが、今はそれどころではない。
「シアラ、ソレをしまってくれないか?」
「遺言はそれだけ♡?」
シアラは笑顔で釘バットを振り被る。
十年来の幼馴染に対しても慈悲はない。
「チョット待って! 打撃武器で刺し殺そうとしてるよね!」
「そんなつもりは無いわよ」
「じゃあ許して……」
「殴り殺しながら、刺し殺すの♡」
「幼馴染みに対してなんて事を言うんだ! ていうかそれ二回死ぬ事になるよね!?」
朝から都会のど真ん中で恐ろしい会話が繰り広げられる。
怒ったシアラの恐ろしさはひったくり犯の比ではない。
トウゴの頭によぎる、昨晩やっていたドラグエの《いのちをだいじに》という言葉。今残された選択肢は、逃げ一択のみ。
「じゃあまた入学式で会おうか」
16歳、全力ダッシュで学園へと向かう。
「あっ、待ちなさい!今なら一回殴るだけで許してあげるから!」
「それでも一回は確定してるの!?」
清々しい朝の出来事である。
***
感鋭学園に到着する息を切らしたボロボロのトウゴ。
対照的にスッキリした様子のシアラ、一発では済まなかったようだ。
トウゴは出鼻以上の何かをくじかれた気がした。
二人は先に来ていた多くの新入生の中、困惑した様子で周りを見渡す。
「ハァ…ハァ…、確か講堂に集合だよね?」
「そのはずなんだけど、何処かしら?」
二人が迷うのも無理はない、学園という名目ではあるが、そこには一流大学のキャンパスの様な景色が広がっていた。
「ま、人の流れついていけば大丈夫でしょ」
「あいかわらず適当ね…、まぁキライじゃないけど」
「えへへ」
直感に身をまかせ、二人は先に来ていた人の流れについていく。
「で、どうやってか隠していくつもりなの?」
急に真剣な表情で、周りに聞こえない様にシアラが耳打ちをする。
「何を?」
「何って感覚よ!感覚!」
「あぁ、いやそれがさぁ」
「まだ決めてないの!?」
「いや、いい案が浮かばなくて」
トウゴのもつ感覚は
【第六感:超感覚】(存在する感覚をほぼ全て使いこなす事が出来る)
であり、
さらに
【感覚痲痺】(他者の感覚能力による影響を全て無効化する)
という超人的な特異体質を持つ。
しかしトウゴには、そのありえない能力と強さのせいで恐れられ、小、中学校では友達がほとんどできなかったという思い出したくもない過去があった。
なので今回は、この感覚と体質の事を隠して学園生活を送ると決めていた。
どうやって感覚と体質を隠すかを話し合ううちに、講堂に着いた二人は適当な席に座る。
先に来ていた新入生はパンフレットを読む、寝る、早速友達をつくり雑談するなど、各々入学式が始まるまでの時間を潰していた。
すると
「おい、あれ見ろよ」
「モデルさんかな?」
男子、女子共にざわつき始める、皆の視線の先には容姿端麗を具現化した様な、すらっと長い銀髪の女子生徒が歩いている。
シアラとトウゴもざわつきに気付き、視線を送るが、軽いジェラシーを感じる。
着ているのは制服なのにとてもオシャレに見えてしまう、スタイルの重要性を見せつけられた気分。
「ティアラっていう綺麗な子がいる噂は聞いてたけど、あの子だったのね」
「名前は似てるのにシアラは180度違うね」
入学式の和やかなムードにつられトウゴの口が緩む。
(!!!)
トウゴは一瞬で横からの殺気を感じとる。あぁやっちまった。
後悔をしてももう遅いとわかりながらも、逃げを試みる。
「180度違うってもうそれ男になってるじゃない!」
シアラは逃げようとするトウゴの腕を掴み、180度曲げる。
「腕が今までに見た事ない曲がり方してるんだけど!」
「痛みで償いなさい!」
シアラは更に力をいれる、最近の女子は関節技も熟知しているのだろうか。
「冗談だって!シアラも同じぐらいキレイだよ!」
「本当!?」
「ホント!ホント!」
トウゴの発言をうけ、シアラは頬を赤らめ、関節技をとく。
「は、始めから正直に言いなさいよ!」
「イテテ……」
実際トウゴは嘘を言っている訳ではない、シアラがキレイなのは本当だしスタイルも悪くない。
このドS成分と趣味がテレビショッピングを見る事というオバちゃん成分が無ければモテるはずなのだが、本人は気づいていない。
「叫んで喉渇いちゃったから飲み物買ってくるけど、何か飲みたいものある?」
「私の分も良いの?」
「シアラも叫んで喉渇いたでしょ?」
「私はトーゴの1口もらえれば良いよ」
「いや、さっきの分の埋め合わせもしたいしさ」
「そう……」
少し残念そうにするシアラと、残念そうにしている理由が分からず、首をかしげるトウゴ。
「じゃあお茶お願い」
「はいよ」
トウゴは自販機で飲み物を買いながら、ぼんやりとネットで調べた事を思い出す。
(確か学園デビューは、クラスの中心人物になりそうな人と仲良くなっておくのが大事だったはず)
行動力だけは定評のあるトウゴ。
心の中でやってやるぞ! と決心して、買った水とお茶を両手に持ち、講堂の外を歩くティアラを追いかける。
トウゴの作戦は
1. 買った水をバランスを崩したフリをして、ティアラの服にこぼす。
2. 謝り、「乾くまで一緒に待ちます」と言いながらハンカチを渡し、
一緒に待っている間に仲良くなる!
という浅い作戦であった。いや、トウゴが即興で考えた割には上出来なのかも。
おそるおそる近づくトウゴ、しかし同じ事を企む男がもう一人ティアラの前方から近づく。
(あの子が前から来たところでタイミングよく……)
(後ろからティアラに追いついたところでタイミングよく……)
両者ともティアラに姿が重なってしまいお互いの存在に気づかない。
遂行の時間が近づくにつれ緊張でペットボトルを握る手にも力が入る。
《今だっ!!》
と二人ともバランスを崩したフリをして水をこぼす。
周りの人からすれば、同時に二人の男が美女に水をかけるという奇妙な光景。
が、
「あっ、やっと見つけた〜」
二人が水をこぼした瞬間、ティアラは探していた友達を見つけたのか、水の軌道とは別方向へ走り出してしまう。
バシャッ!!
お互いのこぼした水がお互いにかかる。
緊張で力んだのか、共に、500mlペットボトルは空だ。
「冷てぇぇぇぇー!」
キンキンに冷えた水を浴びた二人の絶叫が、和やかムードの学園に響き渡った。
二人は自分たちの運の無さに卑下する事もなく、見ず知らずの水かけ野郎に怒りの矛先を向ける。
「いきなりなにすんだよ!」
「こっちのセリフだよ!」
「そっちが先に水ぶっかけてきたんだろ!」
「いいや、そっちが先だね!」
「なんだと!」
「チビ!」
「チビじゃないし!172あるし!」
「本当は169ぐらいないのに見栄はってんじゃねえの?」
「じゃあシアラに聞いてみてよ!」
「シアラって誰だよ!」
「………っ! うるさい赤髪!」
「赤髪は関係ないだろ!」
互いに一歩も引かず、ティアラの事など忘れて目から火花を散らす。
そんな二人に
「朝からうるせぇな」
と制服を着崩し、ピアスをした新入生が軽くキレる。
二人は邪魔すんな! と言おうと振り返った途端、相手が自分の一番苦手な人種だと察した。
ピアス男に怒りをぶつける事なく言われた通り静かにする二人、冷静になり後悔と悔しさが押し寄せる。
共に青空の下、ガックリと膝をつく。
「どうせ、ああいう少しヤンチャでクールな男がモテるんだ…」
「俺みたいなのは努力したって無駄なんだよ…」
「いや、十分かっこいいよ…」
「そっちこそかっこいいって…」
ビショビショのまま互いに傷を舐め合う。
「……」
「……」
「入学式を始めるのでまだ席についてない生徒は席についてください」
先生からのアナウンスが学園全体に鳴り響く。
まだ入学式は始まったばかり。
ミスなどありましたら教えていただけると助かります!