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この街は汚いと、少年は思う。
大きな道には馬の糞が落ちていて、馬車に轢かれないか気にする前に足元が気になる。
大きな通りだけは石畳ではあるものの、他はすべて土がむき出しで、結局は石畳の上も土埃で覆われてしまっている。
新しいのも古いのも満遍なく落ちていることを考えれば、掃除する人なんていないのだろう。果たして、どこまでが土埃でどこからが風化したものであるかは考えたくもない。
じゃあ小さな、馬車が入れないような道のほうが清潔なのかと言うと、そちらも油断出来ない。
野良犬も野良猫も、この街では見たこともないのに、馬車が入れない道であってもものは落ちているし。雨でも降ろうものなら道のいたる所が泥沼のようになって、とてもじゃないが歩けたものではない。
道ですらそんな状態だから、街の中はどことなく臭い。
そもそもが、ここに来るまでは動物の臭いなど気にしたこともなかった。
これが馬の臭いなのか、出したものの臭いなのか、それともよく飼い主らしき人に連れられて歩いている豚の臭いなのかも分からない。
そんな道の状態と臭い、だからこの街は汚いと、少年は思う。
「なにをボーっとしているんだい!掃除は終わったのかい!」
背後から掛けられた声にビクっとして我に返る。
「急ぎな!仕事が終わるまでメシなんか食わせないからね!」
言うだけ言って宿の女将は立ち去る。
別にサボるつもりはなかったんだけど……。
窓から外を見てぼーっとしていたのは事実だが、サボるつもりはなかった。そんな他人から見たら言い訳以外の何物でもないことを考えながら、足元のちりとりを手にとる。金属の板を折り曲げただけのそれはいつから使っているものなのか、床に置いても取り口が床にぴったりとは付かないので、埃を集めるのが面倒だ。藁を束ねて木に括り付けただけの箒も、藁の長さが不揃いで掃き難い。
とは言っても、ここに来てからは毎日使っている道具だ。床に付くちりとりの一部分を使ってほこりを入れると、窓についている木の扉を閉めて部屋を出る。
天気がいいのに、窓を閉めて暗くなった部屋はなんとなくもったいない気がしてしまうけど、窓を開いたままだと、外から埃が入ってしまうのでしょうがない。
窓ガラスって、なんでないんだろう。
値段の問題なのか、そもそも作られていないのかは分からないが、この宿もその周りの建物も、ガラス窓を使ってはいないようだ。
窓ガラスがあれば、埃が入って来ないのに。
窓の木の扉を閉めても、それでも隙間から入ってくる風に恨めしい思いを抱いてしまう。
問題は木の扉の隙間であって、ガラスだからとか木だからという問題でもないのだが。
晴れているのに薄暗い室内を抜けて扉を閉める。風が小さな音を立てた。