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日が昇ってしばらくすると、穴に下りる人間が現れ始める。
彼らは一様に大きな荷物を背負い、武器を携えているが、身につけているのは金属の鎧だったり、皮の鎧や服、中には服の至る所に何かをぶら下げたりと、様々な格好をしている。
穴の縁に立つ兵達は、下りて行く彼らを止めることはない。兵たちの仕事は穴から出てきた魔物を狩ることであって、穴を守っているわけではないからだ。
そうして彼ら、彼女らは、一人で、集団で、幾人かで穴に下りる。
騒々しく、静かに、陽気に穴に下りる。
その背にある大きな荷物には食料や横になるための毛布、衣料品。
彼らが何日と穴の中で過ごし、何を得てくるのか。
多くの場合は魔物の肉、皮、骨。
得られる物で言えば、それは山と森に生きる狩人と大差ない。
ダンジョンの通路は意外に凹凸が多い、それは通路の途中に開いた穴であったり、瓦礫であったり、坂も多く、整備された人工物というよりは遥か昔に崩壊した遺跡と言ったほうが近い。そのため、隠れて弓矢で狙う狩人の技が生きるか、というとそうでもない。ダンジョンの暗さから遠くの魔物を見つけるのが著しく困難なのだ。
そして獲物の密度はどちらが獲物か分からない程に多い。
かくして穴に下りる人間に弓を持つものは少なく、大半は剣や槍を持つ。
剣が届く距離での戦い。
それだけに穴の中で怪我をし、命を落とす者も多い。
それでもなぜ、穴に潜るのか。
生きる糧を得るだけならば山や森に生きないのか。
それは何年もの穴の中の探索の中で発見された財宝にある。
あるときは金貨の山、あるときは眩く光る宝石、あるとき見つかった剣は、平民が一生掛かっても稼げないほどの莫大な金額で売れたという。
そうして彼ら、彼女らは、一人で、集団で、幾人かで穴に下りる。
日々の糧に、夢のような財宝に、代わりに命を置き去りに。