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城塞都市。
そう呼ぶに相応しい、壁に囲まれた街は、魔物達との戦いの最前線であった。
しかし、それは街と外とを隔てる壁が象徴するものかというと、少し違う。壁の外にテントやあばら家を建てて住んでいるものもいるし、少し歩けば畑もある。
無論、壁の外で魔物に襲われたという話など掃いて捨てるほどあるし、旅の商人が魔物に襲われたと言ったところで、それは災難だったなと言われるのが精々だ。
そして最前線とは壁の外を指すのではない。
壁の内側、町のほぼ中央部。
そこには大きな穴が開いていた。
穴、というには語弊があるだろうか。すり鉢状になったその穴は、見る人によっては火山の火口に見えるかもしれない。しかし、その中心にはマグマ溜りなどなく、煙もなく、ただ暗い闇が口を空けている。
すり鉢状の部分には、誰が作ったのか不恰好な階段が周囲をぐるりと回るようにして下まで続いている。それは街と穴とを行き来する者がいることの証明。
この穴の奥こそが魔物達との戦い最前線。
穴の奥には、魔物達の王が居るとも、穴を作り上げた魔法使いがいるとも噂されていたが、その姿を見た者はいない。
ただはっきりしていることは、倒しても倒しても穴の奥から湧き出る魔物達の存在。
街を守るために戦う兵士、一攫千金を狙う無頼漢、食い詰めて流れついた者達も含め、穴の中では常に戦いが起こっていた。
それは穴の奥から迷い出てくるの魔物を倒すことで街を安全にしようとする者から、肉や皮などを目当てとしたもの。それは時折攻守を入れ替えながらも続いてきた。
命のやり取りで保たれる秩序。
魔物達を閉じ込める監獄。
ゆえにそこは、ダンジョン、と呼ばれた。
そのダンジョンから一人の少年が助け出されたのは数ヶ月前。年若い無謀な少年がベテラン達に運よく連れ出された。その程度のことだと、幸運ではあるが珍しくもないと、ただ、稀に噂話として語られる時には少年の服装が一緒に語られる。黒い滑らかな生地だった。あんな高級な服を着てダンジョンに入るなんて気が触れてる。そして、高く売れただろう、と。