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 屋台の朝は早い。

 日も昇る前、まだ人が少ない時間に井戸に行き、水を汲む。

 同じ時間に水を汲むのは、やはり同じ屋台の料理人。他には宿や大店で働いている下男の類か。


 空が白み始める頃には、竈に火を入れる。

 屋台の半分以上を占める、移動可能な竈は煉瓦に石に土と、熱によって屋台が傷まないように厚く作られている。そのせいで屋台を引くのは重労働にあたるだろう。

 しかし下拵えを済ませた材料を載せた屋台は、鎖で地面に固定しており、もう何か月も移動してはいない。


 屋台というには語弊がある固定店舗。街の中心、ダンジョンへと続く道に設置された貸出し屋台。

 この料理人は、それを朝から昼過ぎまでの契約で借りているに過ぎないのだから。


 盗難防止のために地面に埋め込まれた鎖で固定された、鎖さえなければ移動することも可能な竈。

 それがこの屋台である。


 日が完全に上る頃には、竈の火は十分な熱を放出し、乗せられた鉄板の上では切り分けられた肉が音を立てる。

 十分に熱の通った肉を素早く葉野菜で包み、串に刺す。

 大振りな肉はダンジョンで取れるこの街では安い食材だが、それだけでは味気ない。生ならではの辛味のある葉野菜で巻くことで、香辛料を使わずにピリリとした味わいを与える。そして葉野菜の食感による少しのアクセント。

 出来上がった串の数が5本を数えたところで、今日最初の客が訪れる。


「4本くれ!」

「あいよ」


 メニューもなにもない一品だけの売り物は、渡した傍から男の腹に消える。

 ダンジョンに続く道の途中。ここは朝、ダンジョンに潜る者たちの通りが激しい。

 荷物を担いだ者たちは、途中の屋台で朝食を食べ、そして潜る。

 朝一番の屋台通り。

 客が全員通り過ぎるまでの時間はそう長くない。

 料理人はたっぷり稼ぐべく、ひたすらに焼き、串に刺す。


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