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大きな街だ。
街を囲む壁を見上げては、壁の上を巡回する兵士に眼を丸くし。
この家は木じゃないのかと同行する人に尋ね。
ふらふらと辺りを見回しながらも、なんとか逸れずについて歩く若者。
青年よりは少年に近い、成長途中の若者は初めての街に興奮を隠さない。
夕暮れの街は幻想的で、長く伸びる影は建物をより大きく見せる。
荷車と共に一行は商館に立ち寄る。
荷車に乗せた作物を売るのがこの旅の目的の一つ。
そしてもう一つは冬の間の出稼ぎ。
一行のうち、数人の若者はこのまま春までこの街で過ごす。
この街にはダンジョンがある。
地下に巡らされたそれは、ある意味、季節とは無関係だが、それ故に地上の、季節の思惑を受ける地となる。
冬の間、野を駆ける動物が減り、畑の実りを刈り入れた後の村では仕事が少ない。
むしろ暖を取る為に消費だけが増える季節であり、不作の時などは春を迎えられるかどうか、自身の命で試すことになる厳しい季節。
冬の間の出稼ぎは前々から行われていたらしい。
ただ、その行き先がダンジョンになったのは最近、そして領主様に雇われる形でダンジョンに入るようになったのは、ほんの数年前だと言う。
その冬にあって、夏と同じようにただ存在するダンジョンは、出稼ぎの場としては有望な場所だった。冬には外で行える仕事はめっきり減る。それまでは細い伝手を辿り、家の中で行える仕事を回してもらったり、冬の間でも休むことが出来ないわずかな外仕事を紹介してもらったりしていたが、割りのいい仕事が出稼ぎの村人に回ってくることは少ない。そんな中で冬になっても仕事の減らないダンジョンという場は有望だった。
もちろん、なんの準備もなくダンジョンに入れば命はない。
それを領主様の兵から戦い方を学び、武器を貸し出されてダンジョンに入るのは安全という面では比較にならない。
実際、領主様に雇われるようになってから数年、怪我をした者はいれど、死んだ者はいない。
街に来るのは初めてだが、そう聞いている。
特に去年行った者達からは、詳しく話しを聞きこの街行きに備えたものだ。
数日は訓練。その後は兵の指揮の下、ダンジョンに入る。
回るのは浅い階で、そこで金にならないと放置されがちな骸骨の魔物を狩る。あとはもしダンジョンで死んだ者の死体や装備があれば街まで持ち帰る。本当かどうか分からないが、骸骨の魔物は死体から生まれると言うし、魔物が残された武器や防具を使いだすとやっかいだからだ。例え、折れた剣や槍と言った、鋳つぶすような道具であっても骨の手で殴られるよりはダメージが大きい。
訓練とダンジョンに入ることを何度か繰り返し行い、そのうち、優秀な者達は少し下の階にも行くらしい。
下の階に行く者や、武器や防具を持ち帰った者には多少なりとも恩賞が出るらしい。
予め決められた給金は、春になってからの一括払いで、使い道も村で決められているが、恩賞の使い方までは決められていない。がんばれば街で遊ぶ金を手にすることが出来るのだ。
新しい荷車を買って、一杯に土産を積んで帰るのだと若者は息巻いた。




