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 街が眠りにつく頃。

 その言葉の意味する時刻には、大きな差がある。それは文化であることもしばしばだが、やはり一番の差は明かりに掛かる費用であろう。

 そしてこの街では、常に穴の中で明かりを使うために、他の街よりも多くの明かりが使われる。

 需要があれば供給が増え、量が集まれば製造にしろ輸送にしろ安く済ませる手段はある。それは勿論、機械化による製造ラインや、自動車や鉄道といった輸送網とは比べるべくもないが、それでも確実に効率は上がる。

 上がった効率を儲けにするか値引きに回すかはその商人の考え方次第だが、多くの商人が集まれば、値引いて他よりも多く売ろうとする商人が出るのも必然だ。

 そうしてこの街では明かりの費用が大分安く済むようになっていった。

 他の街であれば物音一つしなくなってから、さらに一刻。油皿の中身がなくなる頃がこの街の眠りにつく頃だ。


 そんな油皿の中身もほとんどなくなる頃。

 この宿では階段などの何箇所かに取り付けた明かりがある。油が切れて、明かりが消えているのを見回ってから寝るのがここの主人の日課だ。今日もそろそろ見回りにいく頃だが、その前に帳簿をつけ終わらないといけない。

 知り合いの商人に言わせれば、帳簿なんて慣れればどうってことないといいうことだが、宿を継いで十年以上経っても慣れたとは思えない。


 正直、計算は苦手だ。

 なんとか帳簿を書き終わり、腰を上げる。

 帳簿を書くのに使っていた明かりを持ち、油皿の中身を確認する。

 この位あれば、見回りをして部屋に戻るまでは持つだろう。


 廊下の曲がり角、階段の一番上と、一番下。

 客が壁に突っ込んだり、階段から落ちないように最低限付けられた明かりはもう消えていた。

 日が落ちて直ぐに付けるのだから、当然だ。

 逆にまだ消えていないのであれば消して歩く。そんなことはあまりないが。


 廊下の奥に目をやる。

 行き止まりの廊下の途中には、住み込みの従業員用の部屋が並ぶ。廊下の突き当たりには、他の場所と同じように、明かりを乗せる台が取り付けられてはいるが、随分と長い間、明かりを置いていない。

 昔は何人かの住み込み従業員が住んでいたこともあったが、最近では通いの従業員だけで手が足りている。例外に近い形で、拾った少年が住み込みで働いているが、男手というには頼りないし、それに元々は誰かが迎えに来るまでの短期間のつもりだ。


 珍しくも、良い生地で作られた服。言葉も通じない遠くから来たのであれば、いくら貴族だとしても迎えに時間が掛かるだろう。だが、少しばかり持て余しているのも確かだ。

 もう少し力仕事が出来るなら、自分が楽が出来るのだが。

 もしくは、人目を引くような容姿であれば、客が増えることも期待できる。

 しかし、今は半人前の仕事をして、食事を食べるだけの居候。

 いつまでもこのまま、というのも具合が悪い。


 寝静まった宿で、その日最後の仕事を終える。


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