弓をつがえて
この作品は牧田紗矢乃さん主催、第四回・文章×絵企画の投稿作品です。
この作品は、halさんのイラストを元に執筆しました。この場を借りて、御礼申し上げます。
halさん:https://5892.mitemin.net/
弓兵騎士としてはや幾年。すでに陛下からの信頼も厚く、今は王太子殿下の弓術師範をしている。生まれも育ちも王都、父親が騎士総隊長として国王侍従長をしていた縁もあり、騎士への道を目指す。
「……問題があるとするならば、やはり腰の入れ方でありましょう」
王太子殿下へのつがえ方一つ教えるのも苦労だ。それは身分の差ということもあるが、それ以上に殿下が15歳となられ、他の指導も同時に行われておられるということが問題なのだろう。詰め込み教育とされたらそれまでではあるが、これも次期国王となられる方の務め、本人はとてつもない努力と頑張りを見せているため、私としてもこれ以上のことを言うことはできない。
「こうか」
殿下が弓のつがえ方の指導を受けられている横で、メイドがジッと私たちを見ている。私の幼馴染だ。殿下がご存じなのかは知らないが、きっと存じておられることだろう。私と彼女はすぐ近くで生まれ育ち、このあたりのことも詳しく知っているからだ。殿下のお住まいとなられておられる王太子宮殿も遊び場として開放されているところは知っている。
「……そうでございます、さすがは王太子となられておられるお方。呑み込みが早くて、すぐにでも教えることがなくなりそうです」
「世辞はよせ。僕は強くならなければならない。この国を維持するためには、強い、より強い国王が必要だ。そのためにも僕にさまざまなことを教えてもらわなければ困る」
「ありがたいお言葉、拝聴いたしました」
弓術の授業の終わり、私は殿下に深々と頭を下げながら答えた。それから、と殿下が続けておっしゃられる。
「メイドは少し疲れているようだ。休ませたい、貴様はこのあたりの地理にも明るいだろう。2時間ほどしてから連れてきてほしい」
「承りましてございます」
きっとこのメイドと私のつながりを知っておられると思うようになったのは、この会話がきっかけではある。が、それについて殿下と話す機会は訪れないだろう。別の従者が王太子には専属でついており、彼らが殿下とともに王太子宮殿へと護衛し戻ることとなった。メイドはそのまま私のところへと歩み寄ると、どうしようかという表情を向けてきた。
「まずは喫茶店にでも行くか」
喫茶店は最近できたもので、庶民的な飲み物を安価に飲ませてくれる店だ。通りに面しており、流行に聡い者は、よく行くようになっているという。
「ええ、どこへでも」
メイドは本能か、私の半歩後ろを歩いてくる。立ち止まるとすぐに止まる、歩くとすぐに歩き出す。くるっと私はメイドへと向き直る。
「横、歩くか。昔みたいに」
ためらいが見える、だが考える前に半歩前に来てくれた。行こうと声をかけると、ええと肯定で答えてくれた。