08 茜視点 過去
※暴力的表現があり、一部の方に不快な思いをさせてしまう恐れがあります。読まなくても本編には差し支えないので飛ばして頂いても大丈夫です。
17歳の時に家出をした。
家は円満だったはずだった。お父さんの借金が見つかるまでは。
順調だと偽っていたお父さんの会社は、その実多額の負債を抱え込んでいたのだ。
家にまで借金の督促が来るようになる段階で初めて露見した。
そこからはトントン拍子で落ちていく。
お父さんはヤケ酒、暴力やりたい放題。お母さんはパートに出るようになった。
そして母は次第に夜遅くまで帰ってこなくなった。
私?私はうまーくのらりくらりと躱していたよ?
友達は多かったから色んな家をフラフラとしてうまく家に帰らないようにしてたし。
だけど所詮17歳だ。限界はある。
着替えやお金、相手方の心配などもあって一旦家に帰ったんだ。その頃には離婚でも何でもして落ち着いてるかなーって。荒れ始めて1か月くらい時間を空けてたし。
甘かった。
帰った瞬間に怒鳴られる。いきなり髪をつかまれ投げられる。目の前に拳が迫ってきてそこからよく覚えていない。
気づいたらリビングの床に倒れていた。身体中が痛いしダルい。
お母さんは帰らない。暗いリビングの中ソファーでお酒臭いお父さんが寝ていた。
無意識だったと思う...気づいたら手に包丁を持っていた。ハッと我に返ると身体が震えてきた。
今私は何をしようとした...?
自分が怖くなって家を出た。痛む身体でフラフラと彷徨い歩いた。もう家でも何でもないあの場所から離れたい一心で。
どこをどう歩いたのかわからない。けれど、気が付いたら山道の入りぐちだった。
気が付いたのは最期だったからかもしれない。現代っ子の私には激しい暴力と何も食べずに夜通し歩き続けるということはかなりキツいことだったみたいだ。
全身から力が抜ける。踏ん張りが効かない...。
やけにゆっくりと倒れるということを感じながら視界が明るいことに気づいた。
何故か太陽が憎くなって最後に睨んでやろうと訳のわからないことを考えた。
そして、力を振り絞って太陽を見ようとしたとき、私は天使を見た。
ちょっとツリ目でクリアブルーの瞳、サラサラの金髪が髪に揺れる。細身だが柔らかそうな身体。あぁ...最後にあの大きな胸で包まれて逝きたい...
そんなおっさんみたいなことを思って私は意識を失った。
目が覚めると知らない天井が目に入った。
「起きたのね」
声がする方を向くと天使がいた。ここが天国か。幸せだなぁ!
っていやいやいや、おかしいでしょう。
「あなたが...助けてくれたんですか?」
「礼は要らないわ」
そして、天使はゆっくりとこちらへ近づいてきて...なんと寝ている私の枕元へ。
そしてそのまま布団に入ってきた...
!?
「えっえっちょっ...むぐっ」
驚き抗議をしようとしたが優しく、でもしっかりと抱きしめられた。包まれた。柔らかい。
「辛いことがあったのね...今はゆっくり休みなさい」
別に家に思い入れがあったわけでもない、両親を慕っていたわけでもないどちらかというと不良娘だった私だが、何故か涙が出た。
「高木 茜って言います。助けてくれてありがとうございました」
助けてくれた恩人の名は九流 魅音というらしい。もう私の好みにドンピシャリ。169kmストライクど真ん中だった。別に女の子が好きな趣向ってわけじゃないけど、自分の好みの人が優しく、優しく、甘く接してくれたら誰だって骨抜きになるはずだ。それぐらい私に優しくしてくれた不思議な人。
最初は見返りを求められるんじゃないかとビクついていた部分もあった。だけど、他でもない魅音がそれを切り捨てた。家もすごい大きいし、多分名家とかそんな部類の家のお嬢様なんじゃないかな?
優しく甘く、でも、どこかここじゃない場所からここを見ている、そんな感じの人。
そんな骨抜きになっていた私にも決意が固まった瞬間があった。このままじゃいけない!って思う時があったのだ。所謂自立心。今まで親に寄り付かなかった自分の習性が顔を見せた時だ。
「行くの?」
大きな門の前でそう問いかけてきたほんの一瞬、一瞬だけだが私はハッキリと彼女の顔が哀しげに歪んだのを捉えた。
私はこの時ほど自分の動体視力と観察眼に感謝したことはないだろう。
骨抜きの自分が無意識に口を開いた。
「居てもいいの?」
「...勿論」
いつも微笑んでいる彼女だが、この時の微笑みは少し違うように見えた。
それから2か月経ち...メイドである夜霧さんに衝撃的なことを言われた。
「高木 茜は死にました」
「へ?」
なんと「高木 茜」は死んだらしい。じゃぁ、ここにいる私はだぁれ?
「昨日からあなたは九流 茜になっています」
事後報告か~い!せめて事前に何か一言欲しかったなぁ!
「あなたが多額の借金から逃れるにはこれしかなかったのですよ」
不思議なことに嫌悪感などは無い。私ってこんなに淡泊な人間だったかなぁ?
でも、勝手に九流の家に入って文句言われないのかな...?普通は言われるよねってか認められないよね!?
魅音に相談してみると、こう言われた。
「大丈夫よ。色々あって九流はもう私しかいないから」
...ちょーっち怖いよね。特に微笑んでるところ。
それから約3年後...VRMMOの記事を見つけた茜はティンと来た。
これならば、基本興味を抱かない魅音に新鮮な思いをさせてあげれるかもしれない。
茜はスキップしそうな心で帰路に着く。天高く聳えるパフェに噛り付く黒人男性の写真と共に...
ちょっとドロっとした部分をね
明るくてちょっと闇がある危ない女の子って魅力的なのよね...イメージ崩れちゃった方は申し訳ない。
同じ時の魅音編もいつか書きます。戸籍をどうのこうのっていう制度はよく知らないのでご都合主義ってことで。