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お待たせしました。本編再開です。
いつも評価やブクマ等ありがとうございます。
次の日の朝。7時に起きて朝食を食べ、9時にログインする。
ツイードの北門広場に出た。ツイードでは広場ごとにリスポーン判定があるのかしら。
ゲーム内はAM4時。薄っすらと空が明るくなろうかといったあたりだ。
お店をやっている人や一部の冒険者達は活動し始めている。ある程度プレイヤーの姿も見られるようになった。
「ミオンー!ゲームのアップデート情報が来てるよ!」
合流したアカネにそう言われ、2人でお知らせ欄を確認する。
「ふむふむ...なんか、全体的に優しくなる感じ?」
「そうね。特に生産関係の人は楽になるんじゃないかしら?」
レシピ機能、簡易生産、過程短縮。私が使うのはレシピ機能だけかもしれないけれど、どれも便利ね。
その他にも、魔法やアーツ...アーツって何かしら?その2つが簡単に発動出来るようになったりするらしい。
だけど、1番嬉しいのは生産用の部屋が出来ることじゃないかしら?設備がある程度整っていて時間加速度が5倍。利用料金にもよるけれど、かなりの好条件ね。
「次のイベントの情報も来てるね。何々...ミオン!闘技大会だって!」
お知らせの欄に書いてあったのは次のイベントは闘技大会です、といった旨の文章。内容は、第1陣、第2陣に分けた上で個人戦と団体戦に分かれており、ルールは制限無しのPvPのようだ。詳細は追って知らせるとのこと。...第2陣が来るのね。街の容量的に大丈夫なのかしら。
コミエンゾもツイードもかなり大きい街だけど、2万人の第2陣を加えては正直入りきらない気もするわね。
「団体戦は私たち2人しか居ないしパスで、私はミオンの応援だね!」
「アカネはそれでいいのかしら?」
「うん。正直ミオンのレベルに追いついてないし、新しい戦い方を身に付けるのに集中したいからね!」
...開催はゲーム内で1ヶ月後だから間に合わないことは無いと思うのだけど、本人に出場の意思がないのに無理に出させる必要も無いわね。
「わかったわ」
「ミオンは勿論出るよね?」
「えぇ」
「うんうん、ミオンなら絶対優勝できるよ!私も一生懸命応援するからね!」
「解禁するのは魔法だけにする予定だから、もしかしたらどうしようもない場面があるかもしれないわ」
「もー!こういう時は素直にありがとう、よろしくって言えばいいの!」
アカネは少し不満そうだ。...何か間違えたかしら?
取り敢えず耳を撫でておく。すると、途端にふにゃっとなるアカネ。このチョロさが少し心配ね。
何はともあれ機嫌を取り戻したアカネと共に情報を読みこんでいく。アップデートは現実での明日、つまりゲーム内で2日と14時間後。第2陣が来るのはその5日後、ゲーム内では結構先の話ね。
情報の確認を終えてウィンドウを閉じようとすると、メール欄が光っているのが目に入った。
受信一覧の中にはメールが一通。差出人はUFO運営となっている。ざっと内容を読むと、そこに書いてあったのは私のマッドグリズリー戦の様子を編集してゲームのPVとして使いたいというものだった。
ささっと拒否の返事を打ち込んで返信する。只でさえ面倒くさい状況なのに、アバターを公開するも同然なことをする理由が無いわ。
「ミオン、何してるの?」
「運営からマッドグリズリー戦の私をゲームのPVに使いたいって話が来たのよ」
「えっ!凄いじゃん!...お返事は?」
「勿論拒否よ」
「ですよねー...私たち言い方はアレだけど、所謂追われてる身ってやつだもんね」
アカネもよく分かってるようで何よりね。
その後、取り留めもないことを話しながら冒険者ギルドへ向かう。新しい事を始める時は、取り敢えず冒険者ギルドで聞いてみるのが良いという私とアカネの見解の一致だ。
私が教えてもいいのだけど、ミオンは大会に向けてレベルアップとか訓練とかしなきゃいけないでしょ!とアカネに言われた。
フードで顔を隠しつつ中央広場の冒険者ギルドへ。中に入り、アカネと別れて適当な受付嬢にシーフ系で腕の立つ冒険者の話を聞いてみる。
「それでしたら、丁度良い方が後ろにいらっしゃいますよ!」
そう言われて振り返ると、黒いインナーに黒い布を身体に巻いてアラビアンな格好をした女の人が立っていた。背丈は私と同じか少し低いくらい。全体的に鋭い顔立ちで、藍色の髪を腰より少し上まで垂らしている。
「...何か用?」
「貴女にシーフ的な事について教えてもらいたいのだけど」
すると、その女の人は不審そうに私をジッと見る。
「アンタには必要なさそうだけど?」
「私じゃなくてあっちよ」
アカネを示す。アカネも同じ人を推薦されたらしく、こっちに寄って来た。
「私、アカネって言います!良かったらお話だけでも聞いていただけませんか?」
「常識があるお嬢さんだね。少しはこっちにそれを教えてあげなよ」
そう言って受付嬢の所へ向かう女の人。
「あ、あの!」
「テーブルで待ってな。話位なら聞いてあげるよ」
アカネを座らせて私は後ろに立つ。今回弟子入りするのはアカネなので、私は見守る事にした。
少し時間が経ってアラビアンな女の人がやってきてアカネの対面に座る。
「お待たせ。それで、何の話?私に教えて貰いたいことがあるみたいだけど」
「はい!ロゼさんに暗殺術を教えて欲しいんです!」
アラビアンな女の人の頭の上に青い文字で名前が表示される。何となくわかってたけど、NPC冒険者だったのね。
そして、アカネはここに至るまでの経緯を話し始めた。暗殺術って...随分直球だけど大丈夫なのかしら。
話を聞き終えたロゼが口を開く。
「経緯はわかった。で、私のメリットは?」
「え?えっと...」
これはある程度予測出来たことだ。自分が磨き上げて来た技術を教えろって言うのだから見返りがあって当然だと思うわよね。
ロゼからしてみればこれは一種の依頼。だから報酬を求めているだけなのだけど、アカネにはそれを出すことが出来ない。
「じゃあ、私のナイフを直す手伝いをしてくれない?」
あら?手助けしようと思ったのだけど、相手が勝手に譲歩したわ。
ロゼが取り出したのは一見普通に見えるナイフ。だけど、よく見ると相当使い込んだのか芯が歪んでおり、刃も絶妙にガタガタになっている。総合的に見てもう持たないわね。
「鑑定させて貰ってもいいかしら?」
「...名前も聞いてないんだけど?」
「悪かったわ。私はミオンよ。それで、させてもらっても?」
「...まぁいいよ」
許可も貰ったので遠慮なく鑑定する。
【羽鉄のナイフ(品質:?)】:羽鉄で出来たダンジョン産の軽量ナイフ。
ATK:18
耐久:8/30
思った通り相当耐久が減っているようね。見た目には分からないから、大事に使ってたんでしょうけど修理できる人が居なかったってところかしら。
アカネも鑑定したようで少し驚いたような顔をしている。
「見て分かったと思うけど、このナイフはそろそろ限界なんだよね。それで、これを修理できる人を見つけて欲しい。それがアカネの弟子入りの条件」
アカネがチラッと私を見る。...可愛いアカネのために一肌脱ぎましょうか。
「私がやるわ」
「...随分と自信があるみたいだけど、根拠は?」
アイテム欄からブロードソードを出して机の上に置く。
「これが根拠よ」
目で鑑定してもいいかと聞いてきたので頷く。そして、鑑定をしたロゼが驚きに目を見開く。
「アンタは何で冒険者やってんの...鍛治だけで十分やっていけるでしょ」
「そんなの面白くないわ」
「...わかった。このナイフは預ける。壊したら承知しないから」
「アカネにしっかり教えてくれたら属性まで付けてあげるわよ?」
「...それは本気で言ってるの?」
「勿論本気よ」
私を見つめて考え込むロゼ。私は余裕を崩さない。
「...私の負け。アカネにしっかり教えるから出来たら闇属性を付けてもらえる?」
「承ったわ」
アカネが抱きついてくる。そして、ウィンクを飛ばしてきた後ワザと大きめの声で聞いてきた。
「ありがとうミオン!でも、あんな約束して大丈夫?」
「アカネも私がステラにあげたブレスレットを見たでしょう?あれは氷と聖の2属性が付いているのよ」
これはロゼに対して私の実力を聞かせる茶番。
「じゃあ大丈夫だね!でも、絶対に壊さないでよ?」
「はいはい、わかってるわよ」
最後は少し真剣に聞いて来たので安心させるように耳を撫でる。そしてアカネは椅子に座りなおして口を開く。
「ロゼ先生、これからよろしくお願いします!」
「全く...あんな茶番をしなくてもあの剣で実力はわかってるよ。アカネ、ミオンと約束したからにはしっかり教えるから覚悟してね」
「えっ」
その後、メッセージのやり取りのためにロゼとフレンド登録を交わし、軽く握手をする。友好の証という意味が3割、ナイフの為に手の形を見るというのが7割だ。
外に出てアカネと別れの挨拶をする。
「ちょっとだけお別れだね」
「えぇ、しっかり学んで来なさい」
「うん!絶対ミオンを驚かしてあげるからね!」
「楽しみにしてるわ」
最後に耳を撫でる。
そして、アカネはロゼと共に去っていった。修行期間はゲーム内で1週間前後の予定らしい。短い間だけど、アカネのセンスなら十分修得できると思うわ。
さて、久し振りの単独行動だけど、どう動こうかしら。
レベルアップ、防具を揃える、魔法を鍛える、ファンタジーな要素を組み合わせた戦法の開発、もっと良い武器を探すもしくは作る等々課題は沢山ある。
闘技大会では第1陣が主な相手になると予測される。私よりもレベルが上のプレイヤーは沢山いるだろうし、戦い方も自由を謳っているこのゲームでは思いもよらない戦法を取る相手もいると思う。それらを全て叩き潰していかなければならないのだ。
今後の予定を考えながら、私はゆっくりと歩き出した。
ミオンは誰であろうが基本的に丁寧なタメ語です。




