11
相変わらず話が進まない...
「ステータスとか確認したいし一旦戻りましょうか」
山はまた今度ね
森から出て、街道を戻る。その道中に新しいモンスターと出会った。
【ステップラビット】:草原に生息するウサギ。草原ならば大抵どこにでもいる。
「次は私に任せてちょーだいっ」
アカネが背負っていた弓に矢をつがえ、構える。
距離は15mほど。当たるのかしら?経験が無いと厳しそうだけど。
今まさに撃たんとした時、偶然か、はたまた何かを感じ取ったのかステップラビットが横に跳ねた。
...アンラッキーね。
「キュッ!?」
ステップラビットの頭に矢が突き刺さる。驚いてアカネに振り返った。
「跳ぶのを見てから撃ったの?」
「弓術スキルをつけてると撃つ瞬間はちょっとスローに見えるんだよね。おかげで何とか当てれたよ~」
止めていた息を整え、汗をぬぐう動作をするアカネ。
相変わらず動体視力と反応速度は凄いのね。普通なら目に捉えられない三段突きも、剣が当たるところまでは見えていたみたいだし。
そんなことを思っていると、ステップラビットが光りとなって消えていった。
帰りの道中、ちらほらと現れるステップラビットを倒していると、
「あ、レベル上がった!ぶいっ!」
どうやらアカネのレベルも上がったらしい。私に向かってブイサインを送ってきた。
そんなこんなでもうすぐで街の門が見える、という所で遠くから走ってくる4人PTを見つけた。何かから逃げてるみたいね。
あ、全身鎧の人がコケたわ。その後ろから突っ込んできてるのは...ウサギ?やけに大きいわね。
ステップラビットは高さ30cmほど。これでも大きいけれど...あれは2mはあるんじゃないかしら。可愛らしいウサギもあそこまで大きいと立派なモンスターね。
2mウサギがヨロヨロと立ち上がったプレイヤーに向かって蹴りを繰り出した。片足で飛び上がって見事なライダーキック。
必死に大盾を構える男性プレイヤー。しかし、盾なんて無いとばかりに蹴りは彼にクリーンヒット。逃走中の3人を追い越し、凄い勢いでこちらに飛んできた。
あらら...大盾は真ん中から拉げてくの字に折れてるし、腕も変な方向に曲がっている。それでも抑えきれなかったのか胴鎧まで大きく凹んでるわね。そのまま見ていると、彼は光となった。死に戻りってやつね。
先頭を走る剣士の恰好の男が叫びながら走ってくる。
「おーい!そこの二人、逃げろ!こいつはやべぇ!」
逃げろって言うならこっちへ来ないでもらえるかしら?
私たちが立ち止まっている少し前で、もう一人小柄な魔法使いの子がコケる。
それにも関わらず、残った2人は凄い勢いで駆け抜けていった。薄情ね。
「ミオン!」
「アカネ、避けるのよ?」
「へ?」
2mウサギが低い軌道で跳ねてくる、もののついでに魔法使いの子を踏みつぶそうとする軌道だ。
アカネが私を呼ぶ。やれやれ、見捨てても寝覚めが悪いし、アカネの期待に応えるとしましょう。
私はウサギの軌道上に滑り込み、飛び込んでくるウサギの踵とももの部分に手を当て、力を入れてベクトルをずらす。受け流され、態勢が崩れたウサギはそのままの勢いで私たちがいた方へ転がっていった。流石にSTRが足りないわね。横にはずらせなかったわ。
「うっひょあ!?」
アカネが転がるように避ける。そのままこちらへ走ってきて魔法使いの子の元へ。
「派手に転んでたけど、大丈夫!?」
「...大丈夫じゃない...魔力切れ...しんどい」
「ええっと...ミオン!どうしよう!」
「安全な場所まで運んで休ませてあげなさい」
「わかった!!」
アカネが魔法使いの子の肩の下腕を入れ、そのまま引き摺っていく。
さて、このウサギは何者なのかしら?
【ドンラビット(怒り)Lv.7】:ステップラビットの群れの長であり、この草原の覇者。仲間を多数失った怒りに震えている。
ドンラビットっていうのね。中々の風格じゃない、面白いわ。
しばらく見つめあっていると、HPゲージが現れ、ドンラビットが仕掛けてきた。身を縮め、爆発的な速度で蹴りを繰り出して来る。それはもう見たわ。
私は蹴りをよけながら剣を下から上へ振りぬく。脚の要、健を狙う。
完璧に捉えたはずだったが、毛皮の下の肉を浅く切り裂くだけでそれ以上通らない。それどころか食い込んだまま、巻き込まれるように衝撃が来る。何とかクルリと回って受け流し、剣を離さずに済んだ。
...こっちは完璧に捉えていたのにダメージを貰うなんて...モンスターの膂力は凄いわね。
浅くとはいえ、切り付けたもののドンラビットのHPはほとんど減っていない。逆に攻撃が当たっていないにも関わらず、余波だけでこちらは2割も持っていかれた。
今ならわかる、指南所の人たちのあの大振りで力一辺倒な感じの剣術は、対人剣術ではなく対モンスター剣術だったのね。
急所をつけば簡単に倒せる私たちと違って、モンスターには固い皮膚や毛皮、強靭な筋肉がある。そのための力押し...道理ね。
STRも武器の性能もあの毛皮と筋肉を貫くには足りてない...だったら筋肉が少ない急所を狙うしかないわ。
次々と反転し蹴りを飛ばしてくるドンラビットを躱しながら考える。一撃確殺の急所は頭か心臓か喉。頭はこの武器で頭蓋骨を抜けるとは思えないし、心臓は筋肉が邪魔をする。だったら喉しかないわね。
狙いを定め、ひらりひらりと躱してチャンスを伺っていると、ドンラビットの行動に変化が現れた。中々当たらない私に対して、なんと、フェイントを混ぜてくるようになった。短く跳んで違う位置に着地、そこから蹴りを繰り出してくる。AIって凄いのね。
普通に避けていたら、リズムを乱されるでしょう。でも、私にはありがたいわ。
フェイントを入れるために着地する、その時がチャンス。
蹴り、蹴り、フェイント、蹴り、フェイント、蹴り、蹴り、蹴り...ッ!
フェイントのために着地をして脚に力を溜めるドンラビット。その真下に私はいた。その瞳は驚愕に彩られている。まぁ、そうなるわよね。ドンラビットにしてみれば瞬間移動のように見えるでしょうし。
驚きに動きが止まったドンラビットの喉に渾身の力で剣を振り上げる。
ザクッという音と共に剣が食い込んでいく。が、振りぬけない。くっ...絶対的な力が足りてないわ...。
その時、頭をよぎったのはボンボンが使っていた技。予備動作に対してありえない重さと速さを与えた剣技。名前は...何だったかしら。
「パワー...スラッシュ?」
当たっているかどうか半信半疑で口に出す。その瞬間、止まりかけていた刃が何かに押されるような勢いで進み...振りぬいた!
...よかった。当たってたみたいね。
「ギュイイイイィ!!」
断末魔と共に倒れこむドンラビット。夥しい出血と共にHPゲージがどんどんと減っていく。直接的なダメージでは無くともHPは減るようね。
...それにしてもさっきの普通ではあり得ない力。あれがスキルの力なのだとしたら、凄いものね。軽視してたのがバカみたいじゃない。アカネに言われるわけだわ。
HPが尽き、光となって消えるドンラビット。
-【首領兎の骨】×4を手に入れました-
-【首領兎の毛皮(品質:C+)】×2を手に入れました-
-【ラビットの魔石・中】を手に入れました-
-【兎肉】×10を手に入れました-
ラビットの魔石?見たことないアイテムね、気になるわ。
【ラビットの魔石】:魔物の力の源。ラビットの魔力が詰まっている。
ドンラビットは魔物だったのね。まぁ明らかに大きさとか強さがラビットの枠を超えていたし、そう言われれば納得できるわ。さしずめ普通のラビットは野生動物、その中で力をつけ、進化なり何なりしたのが魔物といったところかしら。
...魔法は使ってこなかったけれど、魔力はあるのね。
-レベルが上がりました-
-レベルが上がりました-
-レベルが上がりました-
-スキル:【剣術】のレベルが上がりました-
明らかに最初の草原の敵とは思えない強さだったもの。当然よね。
1人納得すると、離れたところで休ませているアカネと魔法使いの子の所へ向かう。
「終わったわよ」
「...幽霊?」
いきなり死後扱いをされた。
「...どうしてそう思うのかしら?」
「...あのウサギ...あり得ない強さだった...生き残れるとは思えない」
「間違いなく倒したわ。それに死んだとしても街に戻るわよ、幽霊にはならないわ」
「...本当に倒したの?」
そんなに信じられないのかしら。さっき手に入れた魔石を見せる。
「これが証拠よ」
「...凄い。尊敬」
となりでアカネがフフンと胸を張っている。なんであなたが誇らし気なのかしら。
「...フレンド登録したい...いい?」
声に邪気は感じられない。
「なら名前と顔を見せてもらえるかしら?」
そう。この魔法使いの少女はかなり深くフードを被っており、垂れている髪と声で女の子だとはわかるのだが、顔が伺えない。
すると、少し戸惑っていたが、意を決したのか恐る恐るフードを上げた。
「っ!かーわいいぃぃ!!!」
途端に響くアカネの嬌声。薄く水色の掛かった白い髪の毛を背中まで垂らした少し幼い顔立ちの少女。
細い身体と相まってかなり庇護欲を刺激されるわね。早速アカネがやられているわ。
「名前は?」
「...ステラ...見習い魔法使い...登録いい?」
ステラ という表示が頭の上に出てくる。
その顔立ちで下から覗きまれるように見られるとイケナイ感じがするわね。天然なのかしら?
「はいっ!賛成!賛成です!んーっ!!」
アカネが辛抱たまらんとばかりに抱き着く。
アカネ...自重しなさい。ステラの顔があなたの胸に埋まっているわ。
「アカネが良いなら構わないわ」
「むぎゅ...ありがとう」
あれでアカネは人を良く見ている。そのアカネが良しと言うなら問題ないでしょう...多分。
「...ところであなた達は?」
「私はアカネ!職業は見習い弓使いだよ!よろしくねっ!!」
「私はミオン。見習い剣士よ」
「...この恩はいつか必ず返す」
別に本当に死ぬわけではないのだけれど...真面目なのね。
「期待して待ってるわ」
-ステラがフレンド登録されました-
こうして、初めての散策で新しいフレンドを増やし、私たちは街へ戻った。
実はゲーム内にスタミナがあって、無くなっても無理やり走ろうとするとコケます。
アカネ「ところで、よくあの蹴りを避けれるね。私は目で追うのが精一杯だったよ」
ミオン「そう?見た目より速くないわよ?」
ステラ「...目で追えなかった...」




