第六十六話 有牙人の暮らし
こんにちわ!
今回は有牙人の知られざる生態について触れていきます。
有牙人が街で暴動を引き起こしたことによって、マレーシア国内では彼らに対する排斥運動も一部で起きている。しかし、ウインメタル達はそんななかでも有牙人の研究と保護をする意思を変えなかった。エリカを乗せてイポー上空を飛行中のウインメタルは、郊外の森の奥へ向かっている。
「エリカ、反応は?」
「この先北西、距離約3キロです。」
ウインメタルはエリカの指示に合わせて飛行している。このあたり一帯はヤシ農園を抜けるとほとんどが密林のジャングルになっており、まさに人を寄せ付けない未開の地となっている。なので、エリカは事前にイブにつけていた発信機を辿りながら追跡しているのだった。反応がある方向に向かって高速飛行をしていると…。
「いた!」
「間違いありませんね。」
木々の隙間から他の有牙人達と行動を共にしているイブを発見したのだった。
「もしもし、研究室?聞こえますか?」
「こちら研究室。どうしたウインメタル?」
「タン教授!イブを発見しました!モニターに出します!」
「おお、こっちも確認出来たぞ!降りて引き続き調査を頼む!」
「「了解!」」
ウインメタル達が見ている光景は研究室にモニターされているので、タン教授達も見ることが出来る。ウインメタルとエリカはゆっくりと降下してイブと少し距離がある茂みへと降り立った。
「エリカ、彼らの日常を邪魔しないようにステルスモードを展開しよう。」
「了解です。ステルスモード起動!」
二人はステルスモードで周りに同化すると、茂みからゆっくり出てイブに近づいた。イブは7人ほどの有牙人達と一緒に大きな葉や果物を運んでいる。
「ウインメタル、あそこにいる有牙人達は全員女性です。」
「そうだね。じゃあ、男性達はどこにいるんだろう?」
そう話していると、イブたちは小さな集落のような場所に到着し、大きな葉と果物を貯蔵庫のような場所に置いた。住居と思われる建物は木造で、猛獣を避けるためなのか高床式になっており、屋根はヤシの葉を器用につなぎ合わせている。森林にすむ少数民族と特に変わらない生活をしていることから、言葉は違えど現生人類と知能にほとんど差はないように思える。
「ここが彼らの拠点か。」
「間違いありません。他にも有牙人の生体反応が多数確認できます。」
良く見ると、有牙人の子供達も集落内を元気に走り回ったり、じゃれ合っている姿も見受けられる。ただ、集落内は女性と子供ばかりで男性の姿が見当たらない。
「男性陣は狩猟でもしているのかな?」
「捜索してみましょう。」
ウインメタルとエリカは一度集落を離れ、男性を探すべくジャングルの中に戻って行った。うっそうと茂ったジャングルはまるで人の行く手を阻むかのように植物で覆い尽くされており、虫や鳥など様々な生き物が歩くたびに飛び出していく。本来人が入ったら有毒の植物や虫に刺されて大変なことになってしまうが、エリカはアンドロイド、ウインメタルもアーマーに守られているので何ともなかった。探し始めて10分後、エリカのレーダーに反応があった。
「近くの沼に複数の生命反応!」
「僕もキャッチしたよ!行こう!」
二人は反応があった沼へと急行した。するとそこには複数の有牙人男性達が沼の中に入り、ワニと格闘していた。
「やっぱり狩猟だったか。」
「ええ、どうやら肉も食べるようですね。」
有牙人達はワニを取り囲むように円状に配列している。ワニはバシャッと水しぶきを上げて一人に飛びかかった。しかし、それをすばやく避けると今度は別の有牙人が背後からワニに飛びかかり、その鋭い牙でk首に噛みついた。ワニも必死で振り払おうとするが長い牙が食い込んで離れない。そして暴れれば暴れるほど弱っていき、そのまま動かなくなった。有牙人達はそのままワニを陸に引き揚げると、そのまま数人で担いで集落の方へと向かった。また、ワニと格闘する前に捕まえたと思われる魚も持っている。
「恐るべき狩猟能力だ。あの長い牙はそのために使われていたんだね。それにしてもすごい腕力だな。戦ったから知ってたけど。」
「他には外敵から身を守ることも予想されるでしょう。腕力に関しては恐らくゴリラやオランウータンと同じかそれ以上でしょうね。噛む力も現生人類の4倍はあります。」
感心するウインメタルに対し、エリカは端々と分析結果を伝えていた。そして有牙人男性達はワニと大量の魚を集落へ運び込み、女性や子供たちと合流した。
「男性陣は大物が取れて達成感を味わっているね。女性や子どもたちはその男性達の狩りの成果を喜んでいる。彼らの見た目はあれだけど、雰囲気は明るいよ。」
常時スピリットセンサーを起動させているウインメタルはエリカやモニターを見ているタンたちにそう伝えた。
「どうやら有牙人は男性が動物の狩り、女性は果物や昆虫などの採集や子どもの世話をするという原始人に近い生活をしているみたいですね。」
「素手でやるあたりは原始人とだいぶ違うと思うけど。」
エリカにそう突っ込んだウインメタル。そう言っている間に有牙人達の食事タイムが始まった。
「魚はそのまま食べるんだね。」
「火を使う習慣は彼らにないみたいです。」
そして、ワニはどのように食べるのかと思っていたウインメタルだったが、石か動物の骨で作ったであろう刃物のようにとがったものを使って美味いこと切り分けて食べていた。
「確かに石器時代の生活を見ているみたいだ。」
「知能的には人間とあまり変わりませんから、道具を作ることは可能なのでしょう。」
その後もウインメタル達は有牙人達の観察を続けたが、彼らは狩り、家の修理、子守など特に目立った行動はなかった。そして、日が沈むころにはほとんどが集落に集まり、遠くへ出かけようとする者はいなくなっている。
「有牙人は完全昼行性だね。だから夜に目撃されなかったんだ。それにしても何で最近になって目撃されるようになったんだろう?」
「この密林地帯は最近開発されて農園になっており、面積も10年前に比べて減少しております。故に気付かない間に見つからない筈の有牙人のテリトリーに足を踏み入れてしまい、人間との距離が近づいて目に触れる機会が増えたのでしょう。」
疑問に思ったウインメタルにエリカはそう答える。すると、ウインメタルは少し複雑そうに言った。
「人間のせい…か。有牙人が人類に発見されたのは幸なのか不幸なのか…。」
森林の面積減少は世界各国で問題視されているが、いざ現実を間近で見せつけられるとより心に響くものがある。タン達と同じで有牙人と人類の共存による平和を望んでいるウインメタルは、有牙人達の幸せとは何なのか考えていた。こうしてその日の調査を無事に終えた二人は、引き続き調査を続けるべく彼らの生活を邪魔しないよう気を付けて野宿することにしたのだった。
こんにちわ。
有牙人の生活をどう書こうかは少し悩みました。
ウインメタルの言う有牙人の幸せとは何なのか?
次回もお楽しみに!




