第五十四話 未知なる者
こんばんわ!
ここから新章です!
ここはマレーシア北西部にあるペラ州イポー特別市郊外。現在現地時間で午後5時過ぎ。夕方でも熱いこの地の道路を3人の女性が歩いていた。
「じゃあ、また明日。」
「またねー。」
「バイバーイ!」
学生服を着た少女達は帰宅のために家を目指していた。道が分かれているが3人とも帰る方向が異なるため、ここでばらばらになる。そのうちの一人の少女が人気が少ない左側の道へと進んで行った。彼女の家はこの先にあるゴム農園である。周りに人家などほとんどなく、ほとんど雑木林ばかりだ。
「早く変えて宿題やらなくちゃ。もう、何で今日はこんなに多いのよ?!」
文句を言いながら早歩きで家を目指す少女。すると、前の草むらから何やらガサガサと音がした。
「犬かしら?でもそれにしては大きいわね。」
少女は犬だと思ったがその予想は最悪の形で外れることになった。音はどんどん大きくなり、最終的に彼女の目の前に現れたのは全く予想外の物だった。
「!!!」
少女は目の前の光景が信じられなかった。現れたのは犬でも猫でもオオトカゲでもワニでもなく、ヒト…に似てはいるがその姿は驚かざるを得なかった。腰まである長い髪に千人を彷彿とさせる長い口髭。身長も180㎝前後あり異常に白い肌を持ち、木の葉っぱと枝で作った腰巻の様なものを巻いているその者は、明らかに現地の人間とは思えなかった。更に、少女を特に驚かせたもの。それは口に生えている2本の牙だった。人間の犬歯とは明らかに異なり、サーベルタイガーを彷彿とさせる長い牙は口の中に収まり切れず、ピンク色の唇から突き出している。その者は少女と目が合うなり、鋭い牙を生やした口元を上げにやりと笑ったのだった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
少女は思わず悲鳴を上げて鞄を投げつけた。すると、その者は「グワッ!」と悲鳴のようなものを上げ、再び茂みに逃げ込んでしまったのだ。
「昨日、現地時間の午後5時頃。マレーシア北西部のイポー市にて少女が謎の人らしき者に遭遇するという事件がありました。少女に怪我はなく、その者は茂みの中に逃亡したものと思われます。」
ここは隼人が通う大学。午前中の授業を終えて学食に来た隼人は食堂内に備え付けられたテレビを見ながら並んでいた。すると、そこで少女のインタビューが入る。
「本当に怖かったんです!色が白くて髪のけと髭が長くって、こーんなに長い牙が上顎から2本生えていました!なにもなかったんですけどこれじゃあ怖くて夕方に道を歩けません!何とかしてもらいたいです!」
「尚、マレーシア北西部では同じような目撃例が今年に入って既に10件発生しており、現地の警察では正体を特定するために本格的な調査が始まる模様です。」
そのニュースを聞いて気にならない隼人ではなかった。
「単なる悪戯か?それにしても手が込んでいるな。一体誰なんだろう?」
そう呟きながら食券を渡し、カレーうどんを受け取った隼人は空いている席に座った。
「よう、隼人!」
「広人か。」
丁度いいタイミングで友人の黒木広人が現れ、隣に座った。
「ねえ、広人。」
「どうした?」
「さっきのニュース見た?」
「え、何だっけ?」
「ロン毛で髭モジャで牙が生えた色白のやつがマレーシアで目撃されているニュース。」
「ん?ああ、最近ニュースになっているよね。一体何なんだろうな?」
「単なる悪戯ならいいけど、だとしたら一体誰が何のために?」
「さあな。まさかお前、調べに行くんじゃ…?」
「僕も正体を知りたい。今日帰ったら田中さんに相談してみる。」
「ふう、この前の件があったばかりだって言うのにヒーローも大変だな。」
広人はそう言いながら隼人を労い、食事と談笑を二人で楽しんだ。
放課後。
「田中さーん。来たよー。」
「おお、隼人か。よく来たな。」
隼人は研究所を訪れていた。そして、ニュースで見た牙が生えた謎の人らしきものの話をした。
「どう思う、田中さん?」
「うーん、単なる悪戯か…幻覚か、夢があることを言うなら未確認の新種かもしれんな。」
「現地の人々は結構怖がっているみたいだし、いずれにしろ早めに何とかしないとね。」
「そうだな。」
「そうだ。今日の番組でそいつにまつわる特集が組まれたのがある。見てみよう。」
隼人は研究所内のテレビをつけると、その番組が丁度始まっていた。
「これはきっと牙が生えた人型宇宙人です。間違いありません。」
「お前もいい加減にしろ!証拠はあんのか証拠は?!」
映し出されたスタジオでは研究員の男性の説明に対し、眼鏡をかけた大学教授がものすごい剣幕で噛みついていた。
「はぁ、またこの人か。好きだよね、宇宙人。」
その研究員はかつてウインメタルを番組内で宇宙人呼ばわりしていた者だった。隼人は呆れ顔でテレビの視聴を続ける。
「映像があります。これを見ればあなたも宇宙人だって分かりますよ。」
研究員の男性がそう言うと映像が映し出された。同時に観客の「おお…。」といった驚きの声があふれる。携帯電話のカメラがとらえたというその映像にはやはり色白でひげと髪の毛が長く、上あごに長い犬歯を生やしている人間そっくりの物が草むらの中を歩いている所が映し出されていた。
「誰かのいたずらだろう?」
「いや、いたずらにしても出来過ぎです。作り物感がありません!」
「そんなこと分かるか!とにかくこれは宇宙人じゃない!これだけは言える!」
二人は全く自分の主張を曲げず、その後もしばらく論争は続いた。
「僕も何だか…これが作りものじゃないような気がする。」
「私もだ。いたずらにしても何でこんな誰が通るか分からない所に現れるんだ?」
「とにかく僕としては正体をはっきりさせたいかな?ウインメタル的に!」
「いいだろう。マレーシアまで行って来い!」
田中はあっさり隼人のマレーシア行きを承認した。すると隼人は気になっていたことを聞いた。
「所で、エリカの追加機能の件はどうなったの?」
「問題ない。実験は成功したから次の実戦でも使えるだろう。」
「ありがとう。良かった。」
隼人は微笑みながらそう言った。そして今度の目的地、マレーシアへ向けて心の準備をするのであった。
こんばんわ!
不気味な生物の正体は何なんでしょうね?
徐々に明らかにしていきます!
それではまた次回!




