第三十六話 潜入
こんばんわ。
美男子狩り編も佳境に近づいてます!
葛西臨海公園にてデート中に拉致され、小佐谷のアジトに連れてこられた隼也は荷物を置くと部屋を見回した。
「どうやら小佐谷は拉致した男達を奴隷のように扱っているようではなさそうだな。むしろ恵まれ過ぎているくらいだ。」
そう言った隼也。ここに連れてこられた若い男性は皆小佐谷のナノマシンによって精神干渉され、洗脳状態になっているはずだが、何故か彼にはその影響が出ていないようだった。そして彼はこう続けた。
「まずは怪しまれないように内部を散策だ。ついでに誘拐された人も元に戻さないと。」
なぜ隼也がこんなことを言うかというと、隼也というのは実は偽名であり、彼の正体は白金隼人だったのである。彼はウインメタルの正体が小佐谷に知られていないことを利用し、アジトに潜入するために一芝居打っていたのだった。因みにナノマシンに洗脳されていない理由は、ナノマシンが注入されてから洗脳が完了するまで多少の時間がかかることを田中の実験によって証明されたので、捕まってナノマシンを打ち込まれた際に、そのわずかな時間でメタリックアーマーのワクチンプログラムを起動させ、ナノマシンを機能停止に追い込んでいたからだ。このワクチンプログラムは田中が開発したものであり、本来は大型メカの暴走やハッキングなどを食い止めるために害があると認識したデータや機能等を割り出して破壊するものだ。まさか洗脳用のナノマシンに使われようとはだれも思っていなかったが結果は見事成功だったので隼人は嬉しかった。とりあえず隼人は個室を出てアジトを探ろうとした。
「鍵は掛かってない。出入りは自由みたいだな。」
同じような個室がずらりと並んでいる長い廊下を歩き、月当たりの階段を上って上の階に行くと食堂のような場所に出た。内装はまるで高級レストランのようで、中では数人の若い男性が豪華な食事をしていた。
「お食事ですか?」
「あ、いえ。見てただけでお腹はすいてないです。」
突然話しかけられてびっくりした隼人。その後ろには見覚えのある顔があった。
(この人は新潟の上田さんだ。一体拉致された人はどういう生活をしてるんだ?)
そう心でつぶやいていると、上田は続けた。
「小佐谷様が用意してくれた最高のメニューがございますんで、いつでもご利用ください。」
「はい。」
そう言って上田は中に入り、隼人は食堂の前から立ち去った。
「正気に戻そうにもここじゃ目立ちすぎる。もう少し様子を見よう。」
彼は引き続き中を物色した。中にはほかにもスポーツジムやバー、入浴場やプールなど、本当に悪徳組織のアジトなのか疑いたくなるようなものが沢山あり、拉致された男性達はそれらを利用していた。一見恵まれた生活をしているようにも見えたが、隼人は不自然な点に気づいていた。
「やはり洗脳の影響か…男性達の会話には必ず小佐谷の名が出てくる。」
こっそり会話を盗み聞きした結果、男性達は決まって「小佐谷様の寵愛」「小佐谷様と一夜を過ごす」「小佐谷様と入浴」等、普通の男性に対しては使うことはまずないであろう表現、しかも小佐谷に対して異常なまでの愛が籠っている発言ばかりしていた。
「小佐谷は若い男性を洗脳して、自分だけのホモハーレムを作るつもりなのか。」
というのが隼人の見解だった。小佐谷が同性愛者であることはすでに周知の事実であるし、同性結婚認可のために国会議事堂前でデモを起こしたことも割れている。だが、なぜ女性関係で揉めた者と、女性と交際中の者ばかり狙ったのかは見当がつかなかった。
「とにかく、気付かれないように隙を見てちょっとずつ助けていくしかないか。」
隼人はそう言いながら、引き続き探索を続けた。すると、ガラス張りの広い展望デッキのような場所に出た。
「何だ…?ここは。」
奥多摩の山景色を一望できる異様に広い空間の中心を見てみる。そこにいたのはベッドにうつ伏せになり、3人の若い男性からマッサージや爪切り、酒の用意をしてもらっている小佐谷がいた。
「あら、新入りちゃん。いらっしゃい。」
「どうも。」
隼人=もとい隼也に気づいた小佐谷は声をかける。
「そんなに畏まらないで。ここにいる限り私はあなたを悪いようにはしないわ。どう、あなたも一杯。」
「未成年なのでごめんなさい。」
「あら、そうなの?悪かったわ。」
「疲れてるんでこれで失礼します。」
そう言って隼人はその場から立ち去った。
「ふう、ちょっと暗い感じの子だったけど私の好みかもしれないわ。みんなと同じように大切にしなくっちゃ。」
小佐谷はそう言うと、全ての奉仕を終わらせた若い男性達に声をかける。
「私は明日の作戦を考えるからあんた達上がっていいわよ。もうウインメタルなんて怖くないんだし、きっと今後は安泰間違いなしね。」
「「「はい!小佐谷様の言う通りです!」」」
三人はそう言とぞろぞろと部屋を出ていき、それぞれの自由時間になったのだが…。
「むぐっ!」
三人のうちの一人が途中で別れた所で何者かに捕まり、物陰に引きずり込まれた。
「手荒な事をしてしまってごめん。でも君を助けないと僕はクラスメートに文句を言われちゃうからね。中村翔太君。」
先ほど小佐谷の所にいた男性の一人を確保したのは紛れもなく隼人であり、確保した男性はクラスメートの鈴木英恵の彼氏である中村翔太だった。
「さあ、目を覚まして。こんなバカげたことは終わらせるよ。ダミーキャンセラー!」
彼はメタリックアーマーを両腕だけの部分展開にし、ダミーキャンセラーを起動。数秒後、一見気を失ったようだった中村はすぐに意識を取り戻した。
「ん…?ここどこだ?俺は何をしていたんだ?」
「正気に戻ったみたいだね。」
「ん?誰だ君は?」
「説明は後だよ。今はとにかく急ごう。じゃないと手遅れになる。」
隼人は中村の手を引き、残りの男性の救助へと向かったのだった。
こんばんわ!
隼也は隼人君でした。
この小佐谷という男、やっぱり謎めいた部分が多いですね。
次回以降もちょっとずつ明らかにしていきますんでお楽しみに!
それではみなさん、寒さに気を付けてください!




