第二十四話 さらばサハリン
こんにちわ。
サハリンでの事件が終わり、隼人くんも日本へ帰ります。
ウインメタル及びアンドレイ率いるユジノサハリンスク警察署の捜査員メンバー達の活躍によって、今回多くの犠牲者を出したバイオビースト事件は遂に解決した。ザガースキーはウインメタルとの戦闘時に死亡。しかし、すでに人間ではなくなっていた上に、野放しに生かしておくのは危険と判断されたので、今回ウインメタルが化物化したザガースキーを殺しても罪に問われることはなかった。そしてこの研究施設は解体、内部にあったデータなどはすべて警察が回収、または抹消されることになった。この事件に関するニュースは連日ロシア国内で放送され、国民の批判や不安、そしてウインメタルに関する様々な意見などが話題となっている。そのウインメタルは今どこで何をしているかというと、サハリンに戻り市内の病院のベッドの上にいた。ベッドに寝転がりながらウインメタル、もとい白金隼人は連絡用端末で田中三郎と話していた。
「まったく…無茶しおって。」
「ごめん。そうでもしないと倒せる相手じゃ無かったから。」
隼人は田中に謝る。先の戦闘でエナジーバスターフルスキンモードを使った結果、アーマーのエネルギーだけでなく、隼人の肉体そのものにまで影響が出た。体力をすべて失い、戦闘終了後に眠るように意識を失った隼人は、一度アンドレイ達とサハリンに戻り、市内の病院へと収容された。そして、この日の明け方にようやく意識を回復したのだった。
「でもまぁ、よくやった。ゆっくり休んで回復したら帰ってこい。」
「うん、わかったよ田中さん。」
隼人はそう言って連絡用端末を切り、再び眠ろうと目を閉じる。
(しかし、今回は中々手強い相手だったな。正直下手をすれば殺されてもおかしくなかった。まだまだ僕も甘いな。)
いつも自信満々なのに、珍しく今回の戦闘に関し反省の意を頭に過らせた隼人。そう思いながら段々と意識が遠のき掛けた時だった…。
「隼人くーん!」
ガチャっとドアが開き、一人の若い女性が入ってきた。その女性とは勿論アーニャである。アーニャが入ってきても、隼人は目を覚まさない。
「もう、意識回復したって連絡受けたから、せっかく人がお見舞いに来たっていうのに寝てるなんて!ねぇ、隼人君。もう体大丈夫なんでしょ!起きてよ!」
しかし隼人はアーニャの声に無反応で、スヤスヤと静かな寝息を立てている。
「起きてー!起きてー!起きてー!」
「うるさい!」
苛ついた隼人はベッドから起き上がり、アーニャを不満げな目で見る。
「まったく。入院患者を叩き起こすなんて随分狼藉者だね。それにここは個室だからいいけど、そうじゃなかったらただの迷惑な人としてつまみ出されてたよ。」
「何よ!傷なんてどこにも無いくせに。あと、ちょっとお知らせがあったから言いに来たのよ、わざわざ。」
アーニャはそう言うと、少し真面目な顔で隼人に話す。
「ユジノサハリンスク警察署の署長さんがね、あなたの事を褒めていたわ。だから今回の活躍に関してウインメタル=白金隼人に100万ルーブルの報酬をあげるって。」
「100万ルーブル…日本円でおよそ200万円弱か…。そんなにもらっちゃって申し訳ないな。」
隼人は平静を装っているか、あまりの金額の多さに内心少し驚いている。そして、アーニャはまだ続ける。
「あの研究施設は解体して、中にいたまだ目覚めていないバイオビースト達もすべて殺処分されたわ。それと、今後ロシア国内ではもうこんなことが起こらないように遺伝子の改良に関する法律が更に厳しくなるわ。交配以外の…今回の高濃度酸素や放射能を使った遺伝子汚染を故意にやった場合、終身刑…最悪死刑になるわ。」
「そうか。わざわざ報告ありがとうね。アーニャ。」
隼人はアーニャに礼を言う。アーニャの方も隼人に笑顔で返した。
「あ、因みに今回の事件に関する情報をメディアに提供したのは私よ!勿論アンドレイさんに許可取ってるし、機密事項を流すような事はしてないから安心して。」
「アーニャも相変わらず無茶ばかりするよね。」
「でもこれで一流ジャーナリストへの道を一歩前進できたわ!」
「そうか。いいんじゃない。」
エッヘンと胸を張るアーニャに隼人は相変わらず無愛想な態度を取る。しかしアーニャはそれに突っ込むことはなく相変わらず笑顔で隼人に話しかける。
「所で、もうすぐ日本に帰るんでしょ?」
「うん。帰国当日はアンドレイさんに空港まで送ってもらうことになっている。」
「そっかぁ。色々あったけど、君がいないと少し寂しくなるわね。」
「そいつはどーも。」
隼人はアーニャに生返事を返したが、内心嬉しさも感じていた。元々友達も少ない上に、女友達は人生で皆無に等しい隼人にとって、ここまで話してくれる女性は初めてだったからだ。アーニャは荷物をまとめて変える準備を始める。
「じゃあ、私はそろそろ帰るね。あんたも気をつけて日本に帰るのよ。」
「うん、分かってる。」
「それと…帰ったあともたまには私達の事を思い出して!ユジノサハリンスクにもまた来なさい!そのときはもっとゆっくり案内するから。」
「ありがとね。」
「じゃあ!」
礼を述べた隼人に笑顔で手を振りながら、アーニャは病室から出ていった。
「帰国か。やっと元の生活に戻れるかな…。」
隼人はそう思いながら再び目を閉じ、眠りについたのだった。
帰国当日。
「アンドレイさん。本当に良かったの?僕なら飛べるから自分で空港に行くことも出来たのに。」
「いやいや。君には本当に助けられた。だからこれ位の世話を焼かせてくれ。」
アンドレイは空港へ向けて車を運転しながら助手席に座る隼人と話していた。
「しかし、嫌な事件だったよね。」
「全くだ。犠牲者もたくさん出たし、街が受けた爪痕も深い。」
隼人とアンドレイは今までの被害の状況を思い出し、何とも言えない気持ちが胸の中に満ちていた。
「破壊された家屋や建物、道路の工事は進んでるみたいだけど。」
「そうだな。でもな隼人くん。建物なんかは直せても、今回の事件で命を失った人、そしてそれによって残された人の心の傷。それらを我々人間が元に戻す事は出来ないんだ。」
アンドレイは険しい表情でそう話す。そして、隼人の方を向き、尋ねた。
「隼人くん。君はウインメタルになって何を目標に戦っているんだい?」
「そんなの決まってるよ。平穏な日常を乱されないためだよ。」
「そうか。君は強い力を手に入れた。でも、今回みたいに悪事に使うやつもいる事をよく覚えておけ。そして、君は絶対に悪いことに力を使ってはいけないということもな。」
「勿論だよアンドレイさん。僕は平和のためのき救世主なんだから。」
アンドレイの忠告にきっぱりとそう答える隼人。そうしているうちにアンドレイが運転する車は空港へと到着した。
「じゃあね隼人くん。気をつけて帰ってね。」
「わかったよ。わざわざ送ってくれてありがとうございました。」
「それと、帰ったら田中さんにもありがとうと伝えてくれ。」
「了解。」
隼人はそう言うと、荷物を持って空港のターミナルビルへと入って行く。搭乗手続きを終え、荷物検査を済ませた隼人は、すでに搭乗案内が始まっていた出発ゲートに向かい、成田行きの飛行機へと乗り込んだ。
「これでここともお別れか。」
そう思いながら、隼人はここでの様々なことを思い出す。化物、そしてここで出会った人。全てが隼人にとって良くも悪くも思い出になった。そう考えていると、出発時間になり、飛行機は定刻通りに離陸した。
「ありがとう、そしてさようなら。ユジノサハリンスク。これから平和が長く続くように。」
隼人は窓の外に見える段々と小さくなっていくユジノサハリンスクの土地に向かってそう言った。そして、すべてを終えた隼人を乗せた飛行機は成田へ向けて大空を飛んで行ったのだった。
こんにちわ!
これでサハリン編完結です!
長かったけど、詠んでくれた方、ありがとうございます!




