第二十話 出発前日
こんにちわ!
更新遅くなりました。
ごめんなさい…。
巨大カブトエビ襲撃後、アンドレイや隼人たちは警察署に戻り、ホムルクスへの出発の日程及び、現地での作戦会議をしていた。前の会議と同様に、田中もディスプレイ越しに参加をしている。ただ、一つ違う所があった。
「全く、なんでアーニャまでここにいるの?」
「別にいいでしょ?邪魔はしないわ。」
「ハァ…。まぁいいや。」
ため息をつく隼人の横にいたのはご機嫌な様子のアーニャだった。隼人たちが襲撃現場から警察署に戻る際、彼女はついていきたいと言い出し、隼人とニコライは止めた。しかし、アンドレイは被害者の一人と繋がりがあり、尚且つ参加させても影響は無いだろうという隼人たちが首を傾げるような判断をして会議に参加させた。
「正直、かなり危険だけど覚悟は出来てるんだよね?」
「無ければ最初からついて来ないわよ!」
隼人の質問にアーニャは強い口調で答える。そして隼人の方も覚悟が本物である事を理解したのか、それ以上アーニャに言うことはなくなった。そうこうしているうちに今回の捜査員全員が会議室に出揃い、作戦会議が始まった。
「よし、みんな揃ったようだな。それじゃあ次の作戦会議を始めるぞ!」
アンドレイが前に立ち、集まった捜査員たち全員に大声で言った。続けてディスプレイ越しに映った田中が口を開いた。
『皆さん、今回の作戦は極めて危険な作戦です。しかし、私もこれ以上被害を出さないように少しでも協力できるよう全力を尽くしますので、よろしくお願いします!』
田中の言葉に隼人たちは息を飲む。そして、画面の中の田中も真剣な眼差しで続けた。
『先程、隼人から送られたデータを更に細かく分析した結果、とんでもないことが分かりました。』
その田中の言葉に隼人が真っ先に食いついて質問した。
「ホント?僕もまだ細かくは見てなかったから、早く教えて!」
隼人の言葉に田中は冷静な顔で続けた。
『幸い、今回の下水道ではそのような事は無かったようだが、やつは単為生殖が出来る。だから、これ以上放っておくと非常に危険だ。』
田中の言葉にその場にいた捜査員達は皆動揺を隠せなかった。みんな顔を合わせて、会議室内をざわつかせる。
「嘘だろ…。」
「そんなバカな…。」
「それじゃあ、もしかしたら現地はヤバイことになってるんじゃ…。」
そんな声が飛び交う中、隼人は冷静に…。
「なにかしてくると思ってはいたけど、そんな事ができるようにまで改造していたとはね。これなら潰しがいがあるな。」
そう言い放ったが、その目には闘志が宿ったかのように力がこもっていた。すると、横にいたアーニャが口を挟んだ。
「ちょっと、何であんたはそんなに冷静なのよ!ところで、単為生殖って何?」
アーニャは生物学的な分野は専門外なこともあり、なぜ単為生殖出来るとまずいのか頭が追いついていなかった。すると、画面越しに田中が説明した。
『単為生殖って言うのは、その名の通り、繁殖にオスとメスによる交配を必要とせず、自身のクローンを自分で生み出す生殖方法だ。つまり、1匹いれば勝手にどんどん増えていくんだよ。』
「へぇ、そうなんだ。」
田中の説明に、アーニャはようやく単為生殖を理解できたようだった。その横で隼人がため息をつきながら言う。
「全く、事態はアーニャが思っているよりも深刻なんだよ。こんなのがどんどん増えていったらサハリンが滅びるのも時間の問題だよ。」
「そんな事わかってるわよ!で、これ以上奴らの悪行をさせないためにはどうすればいいの?」
アーニャが言うと、田中が再び話し始めた。
『まず、これを見てください。』
そう言って画面に映し出されたのは何かの地図だった。それにアンドレイが食いつく。
「何ですこれは?」
『これは今回の黒幕と思われるユリー・ザガースキーがアジトにしていると思われる工場跡です。こちらで調査したところ、どうやらこのあたりから巨大生物が出入りしているのがたくさん目撃されているようです。おそらく、ザガースキーも中に潜んでいるでしょう。』
「つまり、ここを叩いてそのザガースキーとかいう科学者を捕まえればいいんだよね?」
そう言ったのは隼人だった。更に隼人は続ける。
「だったら先陣は僕が切るよ。ハイパーサーチなら生体反応をキャッチしてヤツの居所を特定して確保するから。」
隼人の言葉に最初はみんな動揺していたが、アンドレイだけはすぐに頷いた。
「私もそれには賛成だ。正直ウインメタル以外、奴らに対抗できるような武装を我々は持っていない。だから、我々はウインメタルのバックアップ及び、近隣住民の安全確保に専念したい。みんなはどうだ?」
アンドレイがみんなに聞くと、ニコライがまず始めに頷いた。
「分かりました。私もそれに賛成です。これ以上、関係のない市民を巻き込むのはもう嫌ですしね。隼人くん、当日は任せて大丈夫かな?」
「もちろんだよニコライさん。そのために僕はいるんだから。僕もみんなの力になれるようにすぐにやっつけてくるから安心して。」
ニコライに隼人がそう言った。そして、アンドレイの方も心が決まったのか、会議室内の全員に大声で言った。
「よし、大丈夫そうだな!それじゃあ、作戦は決まりだ!残りの細かい部分に関しては現地についてから再確認する。各人、出発の準備をしておくように!」
「「はい!」」
捜査員達の気合の入った返事が、会議室内に木霊した。そして、アンドレイは田中に声をかける。
「田中さん、ありがとうございました!」
『いえいえ、こちらこそ。それと隼人くん!』
「はい。」
『くれぐれも油断するな。お前を失ったら、私達の敗北と更に極端に言えば、サハリンの消滅になりかねないからな。』
「分かってるよ。化物のデータはもう頭に入ってるし。それに、自分が作ったウインメタルがそんな奴らに負けると思う?」
『思わないさ。とにかく生きて帰ってこい!』
田中はそれだけ言ってディスプレイを切った。そして捜査員たちはぞろぞろと会議室を出て、ホムルクスへ出発する準備を始める。
「じゃあ、僕も準備するから一旦ホテル戻るね。」
「分かった。明日はよろしくな。」
アンドレイはそれだけ言い、隼人はホテルへと戻っていった。そして、なぜかアーニャも付いていき、隼人に話しかける。
「ねえ、隼人。」
「どうしたの?」
「隼人は怖くないの?」
「別に。」
相変わらず無愛想に返事をする隼人。しかし、今日のアーニャはそれに突っ込まず、少し暗い表情で続けた。
「そう。あなたって強いのね。私は正直言うと怖いわ。自分でついてきておいて勝手かもしれないけど怖い。でも、だからこそ自分もその恐怖と戦って、そして平和に貢献したいの。ジャーナリストをも目指すものとして。」
アーニャの瞳には何か強い思いが宿っているような感じだった。そして隼人もアーニャの気持ちを理解したのか。少し穏やかな表情で言った。
「そう。でも大丈夫。俺が戦ってすぐにやっつけてくるから。じゃあ、また明日ね。」
ホテルに到着した隼人はそれだけ言うと、部屋に戻り、準備を始めたのだった。




