第九十九話 悲劇は突然に
こんにちわ!
レイダー星の事情についてもう少し掘り下げていきましょう。
「ゲラ…ウス?」
「それは一体どういった物なのでしょうか?」
レイダー星人の中で数少ない女性であるルーンからその単語を聞いた隼人とエリカは首を傾げながら再び尋ねた。ルーンの方は深刻な声で続ける。
「レイダー星時間で言う今から10年くらい前になるわ。見ての通りレイダー星は遥か昔から高度な文明社会と優れた科学力によって宇宙の中でも屈指のハイテク惑星になったわ。技術、生活水準、資源とこれ以上に無い位恵まれた。だけどその一方で代償も大きかった。」
隼人達からは表情が分からないが、ルーンは丸でこの世の終わりではないかと思う位絶望的な感情を抱いているのが分かった。
「レイダー星は発達し過ぎた。空気や土壌は汚染され、町を大量に建設したことによって植物も大半が死滅。そして、そんな環境破壊が積み重なって生まれた禁断の存在。それがゲラウスよ。」
「そのゲラウスって言うのは取り除くことはできないの?」
隼人はそう聞いたがルーンは首を横に振る。
「無理よ。取り除くことは勿論近づくこともできないわ。もしそんなことしたら体中が崩れて死んでしまう。だからゲラウスが現れた付近の町はあっという間に全滅。ここは離れているから死ぬ事は無いけど、それでも影響は出てるわ。」
「ゲラウスの危険性について教えて下さい。」
今度はエリカが聞いた。
「ゲラウスは巨大な敵だけど動くことはできない。だけど、細胞や染色体を狂わせて破壊する粒子の様な物を常に撒き続けてるわ。特に放出されたばかりの粒子は強力で吸い込んだ瞬間に体が崩れて死ぬわ。一応離れてたり時間が経つと効力が弱くなるから死ぬことは無いけど、それでも影響が出ている状況よ。」
「その影響って…。」
「まさか…。」
隼人とエリカは何かに気がついたようだった。
「そのまさかよ。毒が弱まっているとはいえ、細胞と染色体を狂わせる効果は残っている。結果、生殖細胞や性染色体が狂わされてレイダー星人は男性ばかり生まれるようになってしまったってわけ。」
その説明を聞いて、二人はようやく今までの事件が起きた経緯や原因が分かったのだった。
「つまり、環境汚染で生まれた化け物みたいなのが毒を巻き続けた結果、女性が生まれなくなって滅亡の危機になる。そして、それを恐れた政府が根絶やしにならないように地球の女性を実験台にしたり、揚句のはてに子孫を産ませようとしたってことか。」
隼人は険しい表情でそう言った。ルーンの方は申し訳なさそうに続ける。
「ごめんなさい。うちの星の自業自得なのに何も解決できなかった揚句、地球の女性を何人も犠牲にして、そしてあなた達も連れてきてしまった。政府のやった事だけどレイダー星人としてもう一度謝らせて。」
「いえいえ、ルーンが謝る事ではありませんよ。」
エリカはルーンを慰めた。一方の隼人は一つ疑問に思っていた。
「聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいわ。」
「君達は政府に関してどう思っているの?」
隼人のその質問にレイダー星人達は俯いてしまった。一瞬何かまずい事を言ってしまったかと焦った隼人だったが、ルーンは答えてくれた。
「正直言って、よくは思ってないわ。ゲラウスの問題も解決できないし、レイダー星の状況は悪くなる一方。挙句の果てに地球の女性を実験台にしてを殺したり、無理やり子供を産ませようとするなんて狂っているとしか言えないわ。」
ルーンの怒りが籠った言葉に仲間のレイダー星人達も「そうだ、そうだー!」と賛同の声を上げた。そして、隼人はこれまでに知った事をまとめる。
「えーっと…要はゲラウスが現れたせいでこの星の女性は一気にいなくなって、そして政府がそれを食い止める手段として地球の女性に手を出した。揚句、今レイダー星の女性は政府の監視下に置かれて窮屈な生活を強いられている。結局そのゲラウスは両方の星の女性にとってデメリットしかないってことか。」
隼人のその言葉に反論できる者は誰もいなかった。
「じゃあ、やることはもう決まってるよね!」
「どうするのです、隼人?」
隼人の言葉にエリカが質問する。
「ゲラウスを消す!もうそれしかないでしょ!」
隼人がそう言うとルーンを含むレイダー星人達はざわついた。
「何言ってんだ!」
「やめておけ!」
「近づいただけで死ぬぞ!」
レイダー星人達は必死で食い止めたが、隼人はいたって冷静だった。
「まあまあ落ち着いて。僕はこの星の空気を吸って妙に臭いなって思ったけどこれがゲラウスの毒粒子なんだよね。それは細胞や染色体を破壊するって言ってたけど、エリカどう?僕の体に異常はある?」
隼人はエリカの方を向いてそう質問した。
「いえ、細胞及び染色体に異常は見られません。どうやら地球の人間には効かないようですね。」
エリカの言葉にレイダー星人達はさらに驚いたように顔を見合わせていた。
「じゃあ、僕が倒しにいくしかないよね。毒粒子が聞かなきゃこっちのもんでしょ!」
「そうだけど、いいの?」
ルーンがそう聞いた。隼人は自信気に応える。
「うん。こんなところまで連れて来られた以上、諸悪の根源は消さないと気が済まないや。とにかく僕達に任せてほしい。後でゲラウスの場所を教えて。」
「私からもお願いします。このままでは地球、レイダー星共々崩壊してしまいます。私達にやらせて下さい。」
二人の言葉にルーンは少し考えた。そして、考え抜いた末に出した結論は…。
「分かったわ。あなた達に任せてみる。ゲラウスの場所まで案内するわ。」
協力に同意した。そして、隼人はもう一つ聞いた。
「最後に一ついい?」
「何?」
「どうして君達は僕の言葉が分かるの?星も種族も全然違うのに。」
隼人の質問にルーンは明るいトーンで答えた。
「私達もかつて、出身地による言語の違いでコミュニケーションが上手くいかない事があったわ。だけどそれを解決するために自分の脳内言語を相手の脳神経に直接伝達するパルスシステムが解決された。自分の言語を相手に伝えるだけでなく、相手の言語も自分に理解できる形に変換されて伝わるの。あなた達の脳の仕組みは私達に似ているから上手くいったのかもしれないわ。」
「そう言うことか。どこまでも進んだ星だな。」
隼人は感心した様子でそう言った。こうして一同は諸悪の根源であるゲラウスを消す為に動き出したのだった。
こんにちわ。
ついに動き出したウインメタル達。
そしてゲラウスの実態とは?
次回もお楽しみに!




