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Angel:Vanish  作者: 桂里 万
第二章 風を斬り走れ
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1.終戦塔 (その1)

 薄暗い路地をジュージューは歩いていた。

 どんよりとした天候にウンザリした目を向けながらも、ジュージューは確かな足取りで歩を進めていた。

 天候局の通知によれば、今日は雨が降らないこととしているようだが、何事にも万が一ということもある。特にジュージューのような稼業を生業としているものにとっては、「万が一」など日常茶飯事だということもよく知っていた。

 通りには人影はない。いや、ボロ着を着込み、道端にうずくまっている者は幾人かいた。だが、みな疲れ切り、魂をすり減らした虚ろな視線を彷徨わせているだけで、生きているのか死んでいるのか、見ただけでは判別できない。彼ら自身にとっても、生きているのか死んでいるのか、どうでもよいことなのかもしれなかった。

 ジュージューは彼らが嫌いだった。憎んでいるとすら言ってもいいのかもしれない。彼らの姿は将来のジュージューを映す鏡なのかもしれないのだから。

 階層政府が声高らかに謳う「永遠の理想郷」であるとされるこの世界は、当然のことながら理想郷などとは程遠い世界だと誰もが知っていた。特に、ここのようなスラム街で住むことを余儀なくされている者にとってはなおさらだった。ここの住人は、一秒生き延びるごとにありがたい「永遠の理想郷」というお題目に唾を吐きかけて敬意を表したくなるのだ。

 薄暗い路地、廃墟と呼んでも差し支えない修復されない建物や地面、乏しいエネルギー、細い配給、乱れきった治安。何もかもがジュージューの神経に障った。「永遠の理想郷」とやらを臆面もなく広言する庶民院や元老院の議員連中は、ここの生活を目に焼き付ければいいんだ、とジュージューは既に枯れつつある怒りと共に苦々しく思った。

 とはいえ、暇をもてあましているわけではないジュージューは、物思いにふけることなく着実に歩を進めていた。代わり映えしない路地をいくつか抜け、また新たな代わり映えしない路地に入る。


 それにしても、とジュージューは改めて思った。ここのようなスラム街でなければ、通りを歩いている人など滅多にいない。普通は道路の脇にいくらでも備え付けられている移動体を使用して移動するものだからだ。

 薄い一枚の板に超小型の反重力ユニットを装備させ、感応力でコントロールできる制御ユニットを組み合わせた移動体は、ごく一般的な移動用の手段である。その板に乗り、感応力でコントロールすれば、最高で時速120km程度は出るはずである。一人用の小型のものから、何十人と乗れる大型のものまで、道路の脇に設置されている。使用する者は、感応力を使って念じれば、いつでもどこでも自由にもちろん無料で使用することができる。

 かつては石油という化石燃料を使用した内燃機関、電気を使用したモーター、水素エンジン、バイオリサイクルエンジン、小型常温核融合炉、ニュートリノリアクター、など様々な動力により自動車のような移動手段を活用していたが、現在では道路から放出された擬似感応力をエネルギー源とする移動体がその地位に取って代わっている。

 しかし、その移動体も、道路から放出される擬似感応波がなければただの板である。そして、ここスラム街にはそのような洒落た設備は当然存在しない。厳密に言えば、外部の動力に頼らなくても、本人の感応力を動力とすることもできる。とはいえ、精密な操作を行なうのは少々厄介であり、また速度を出そうと思えば思うほどそれに比例して疲労するため、ここスラムにおいては、近場への移動であれば結局のところ昔ながらの徒歩が最も便利ということになる。

 だからジュージューは歩き続けている。

 もっとも、ジュージュー自身、外出するなど久しぶりのことだった。こんな状況でなければ外出などするつもりもなかった。しかも、スラム街を出る羽目になるなどとは!


「くそっ」


 小さく毒づきながら、道に散乱する瓦礫を避け、スラム街から少し離れた、遠目に見える目的地「終戦塔」を目指す。


「終戦塔」とは、かつての現人類が旧人類から独立を果たした際に、それを記念して建てられた建造物とされている。噂によれば、このスラム街は旧人類との戦争で激烈な攻撃を受け廃墟となり、最終的には修復するよりも上層階の建設に重点を置いたため、そのまま放置廃棄された地区ということらしい。


「ま、ただの伝説さ」


 その話を聞くたびに、ジュージューは内心馬鹿にしながらこう答えてきた。旧人類からの独立という輝かしくも怪しい歴史も、今となってはジュージューにパンの一切れを与えてくれるわけでもない。そんな無駄な自尊心よりも目先の生活の糧のほうがはるかに大事だった。

 しかし、今はその歴史の象徴である終戦塔を目指している。

 塔と名付けられるだけあって、この区域では最も高い建造物であり、内部は人の出入りも自由で、一種の観光地となっている。もちろん、スラム街の人間にとって観光地など関係ない話ではあるが、この第一階層世界では割と人気があるスポットのようだ。


 これから多くの人込みに踏み入れることを思い憂鬱な気分になり始めるジュージューに、背後から声をかける者があった。


「よう、ジュージューじゃねえの? 何してんだ?」


 その声を発した人物の無駄に高い背、丸太のような腕、ゴツゴツした拳、そして茶色い歯を見せて浮かべている下品なニヤニヤ笑いを見て、ジュージューはさらに憂鬱な気分になった。マズイ奴に会ったと胸中で自分の不運を呪いながらも、外見上は冷静に対応しようと努力する。


「やあ、トロル。今日はちょっと外に野暮用があってね」

「野暮用だと? お前みたいなクズが?」


 トロルはニヤニヤ笑いを浮かべたまま、ジュージューに無遠慮に近付いてくる。この地区で最も嫌われている男の一人であるトロルは、その外見に違わず何事も腕力で解決しようとする、ある意味化石のような人種である。その粗暴な容姿、性格を揶揄して古代の悪鬼をもじった「トロル」と陰で呼ばれていた男は、その陰口をなぜかいたく気に入り、わざわざ本名に変えて自分で名乗るようになっていた。

 この時代において力を持つのは腕力などではなく感応力、そして情報能力だということは子供ですら知っている常識である。しかし、悲しいかな、このスラムは感応力と情報能力だけでは生きていけない場所なのだ。

 他の場所であれば、様々な設備に備えられたユニットを感応力や制御ユニットにより使用することができる。例えば、こんな阿呆に絡まれた場合でも、移動体を使用すればいくらでも逃げることはできるだろう。

 また、通報用ユニットを使用すれば、治安警察や自警団、治安維持ロボットに即座に連絡を取ることもできよう。

 さらに、ジュージューほどの情報処理能力があれば、暴徒鎮圧用のパラライザーにアクセスして思うがままに発射することすら可能かもしれない。

 しかし、半ば廃墟であるスラム街に、そんな気の利いたユニットはほとんど存在しない。それに、そんなユニットがあったとしても、今日のジュージューはなるべく目立たず行動する必要があるため、おいそれと使うわけにもいかない。

 したがって、ジュージューは自力でトロルに対処しなければならないのだ。


「・・・何か用か?」


 ジュージューはやや後ずさりながら、トロルに問いかける。隙を見て脱兎のごとく逃げ出すことも考えてはみたが、いかんせん体力に差が有りすぎる。ジュージューは徒歩自体久しぶりのことなのに、全力で走るなど考えたくもなかった。


「んー? 俺への今月の挨拶がまだ終わってないんじゃないの~?」


 先程までよりさらに下卑た笑みを浮かべて、さらにジュージューに近付いてくる。下品な表情世界選手権があれば、少なくとも第一階層の代表選手にはなれるな、とジュージューは吐きそうなほどの嫌悪感を催した。

 トロルの目的はいつも通りのアレだろうと、すでに察しはついていた。


「・・・金か?」

「おいおい、下品なことを言うなよ。俺たちは友達じゃないか。そうとも、友達だ」


 自分が知るうちで最も下品な男から、お前は下品だ、と評されて、ジュージューは心底面食らった。トロルにこんな冗談を言える才能が有ったとは驚きだ、と皮肉が思わず口から出掛かってしまう。

 そんなジュージューの心境などお構い無しに、トロルは話を続けている。


「だがな、お前はクズだ。そんなクズと友達付き合いしている俺に、感謝を態度で表してもいいんじゃないか、ってことだ」


 ジュージューにしてみればいつものことだった。スラムに住む貧しい住人から老若男女を問わず、腕力で金を巻き上げるクズたちの中でも最もクズな男。それがトロルである。そして、運悪く出会ってしまった時は、おとなしく金を差し出すのが最も被害が少なくなることを、ジュージューは忌まわしい経験の中から学んでいた。

 しかし、今日はそうはいかない。

 なるべく目立たず目的地に向かう必要がある以上、こんな所でトラブルに巻き込まれるわけにはいかなかった。はした金を渡して済む話であれば、まだ考えてみたのかもしれないが、こういう口調のトロルは、最悪なことに有り金全てを巻き上げるつもりの時である。

 それでも、無駄とは知りつつも、念のため交渉を試みてみる。


「トロル、今日はあいにく持ち合わせがほとんど無いんだ。50階層ドルでほとんどなんだ。これで勘弁してくれないか?」

「さーて、どうしようかねえ」


 トロルは下卑たニヤニヤ笑いのまま、腕を組んで立っている。ジュージューは不意にトロルの特技を思い出し、さらに憂鬱な気分に拍車をかけることになった。


「おいおい、嘘はよくないな、ジュージューちゃん。お前の財布の中にはその倍のお札があるじゃないの」


 トロルの忌まわしい特技は、感応力を使用して他人の財布の中身をかなりの精度で推測することができるという、まさに下品な男に相応しいものだった。他人から効率よく金を巻き上げることに特化した感応力の使用方法。紙幣(もちろん本物の紙などではなく、耐久性を大きく高めた合成繊維である)・貨幣に含まれる感応物質のわずかな違いにより、その種類、数を計ることができるとは、感応力の無駄遣いの最高の例と言ってもいいのかもしれない。


 この時代、本来であれば紙幣や貨幣などが使用されることはほとんど無く、通常は電子マネーや階層政府発行の電子チケット、個々人の感応波の違いを利用した階層政府直轄の銀行による感応波決済などが主流である。

 しかし、ここスラムではそうはいかない。まさしく生き馬の目を抜く土地柄であり、強力な感応力を応用したハッキング技術が進歩している現状を考えれば、電子マネーなど怖くて使用できない。他のまともな地域であれば、そういったハッキングを遮断できる安全装置を比較的安価に購入することもできるが、スラムの住人にそんなモノを買う余裕などあるはずもない。必然、この地では旧来どおりの貨幣もしくは物々交換が主流となっている。

 もちろん、ジュージューもご多分に漏れず紙幣を持ち歩いているのだが、今日に限っては有り金全てを巻き上げられるわけにはいかなかった。第一階層有数の観光地である終戦塔への入場には、それなりのお金が必要になるからだ。


 ジュージューは自分の力だけでは切り抜けられないと悟り、小さく嘆息を漏らした。意を決し、電子の味方の力を借りることに決めた。おそらく、その力を持ってすれば最も簡単にこの場を切り抜けられるはずだとジュージューは踏んでいたが、想定以上に目立つ結果になる可能性もあり、その点だけは気に掛かってもいた。

 間近に迫ったトロルに声が届かないよう、ほとんど口を開くことなく、ごく小さな声でジュージューはそいつに呼びかけた。


「ジム・・・」

「はい、御用でしょうか? ジュージュー?」


 肉声に近い合成音声がハッキリと返答した。

 ジュージューは安堵の吐息をこらえ、急いでジムに指示を出した。


「何とかトロルを追い払ってもらえないか?なるべく目立たない形で」

「トロル? トロルとは、先日話を伺った、ジュージューによく絡んでくるという悪漢のことでしょうか?」

「そうだよ! そいつだよ! いいから、早く!」

「了解しました」


 ジムの行動は迅速だった。命令を了承した言葉を告げると同時に、遠くから耳障りな大声が轟いてきた。


「こちらは第一階層治安警察・ネオトーキョー支部第一分隊である! 近隣住民の平穏と安寧のため、ネオ・トーキョー旧街区、通称ネオ・トーキョー・スラムの不穏分子を摘発する!」


 効果はてきめんだった。

 先程までのトロルのニヤけた笑顔が瞬時に凍り付き、その巨躯に似合わぬ俊敏さで、一目散に声の反対側に駆け出した。

 しかも、それだけではない。

 道路にまばらに散らばっていた住民たち、屋内に居た住民たち、皆が一斉にトロルと同じく表情を凍らせて、トロルと同じ方向に駆け出してしまった。気付くと、このスラムにこれだけの人数がいたのかと驚くほどの人の波となっていた。

 無理もあるまい。スラムの不穏分子の摘発と言えば聞こえはいいが、実態は治安維持という名目に全く関係が無い、治安警察によるスラムの住人に対する私刑リンチが横行しているのである。必死で逃げだした住人全員、治安警察が主導した惨劇を過去に見てきていたのだから、この決死の逃走も自然な反応と言えた。


 これがジムの仕業であると知っているジュージューだけは、人の流れに逆らい道路の真ん中に留まっていたが、さすがにこれだけの人数に抗し切ることが難しくなったため、全身の力を振り絞って道路の端に身体を引っ張っていき、壊れかけた建物同士の隙間に辛うじて身を隠し、人の波をやり過ごすことにした。

 久しぶりに全身を使った、想定していなかった運動のせいでジュージューの息は大きく上がり、しばらくはまともに言葉を発することもできないでいた。

 やがて人の流れはまばらになり、少しずつ静けさが戻ってくる。

 ようやく息が整い、まともに話せるまで回復したことを確認したジュージューは、当然のようにジムに苦情を申し立てた。ジムはとても優秀な制御ユニットだと聞いていたジュージューには、この暴挙が信じられなかった。


「おい!もっと目立たない方法は無かったのかよ!? ボクが思い付く中で、一番目立つやり方だったぞ!」

「申し訳ありません。この地域では建物や道路に設置された各種ユニットがほとんど壊れているため、2ブロック先で辛うじて稼働可能であった音声ユニットを利用するしかありませんでした。その音声ユニット一つで悪漢を退けるには、このような方法しかありませんでした」


 ジュージューの苦情を聞いて、やや神妙な口調になったジムは状況を説明した。

 一時は頭に血が上っていたジュージューではあったが、ジムの言葉を聞き、多少冷静になった頭で考えてみれば、他に採るべき方法は無かったかもしれないと、考えを改め始めた。

 いくら優秀な制御ユニットとは言え、直接的な物理行使力があるわけではない。

 考えてみれば、ほとんどのユニットが壊滅しているはずのこのスラム地域で、あの短時間に生きているユニットを発見した上で、即座に活用してみせるなど、名うての情報屋であるジュージューにも中々難しい芸当であったと言わざるを得ない。

 ジムが優秀な制御ユニットであるという評価は確かなものかもしれない。そうジュージューは思い直した。


「・・・まあ、いいや。トロルを撃退したのは確かだからな。ジム、ありがとうな」

「どういたしまして。さあ、それでは、目的地の終戦塔に向かいましょうか」


 そういえば、終戦塔に向かうのが目的だったな、とジュージューは顔をしかめながら思い出した。


「・・・やっぱり、終戦塔に行かないとダメか?」

「もちろんです。それが契約の一部だったと記憶しています」


 さすが、優秀な制御ユニットだ、とジュージューは嘆息した。ジムの言葉には一切の反論や抗弁を受け付けない圧力があった。早く家に帰りたいと願うジュージューは、渋々ながらも建物の隙間から道路に戻り、終戦塔の方角に足を向けざるを得なかった。


「幸いなことに道路に人は全くいません。これ以上悪漢が襲ってくる危険性は皆無に近いと思われますので、足の運びがさらに滑らかになることは間違いないでしょう!」


 ジムの能天気な言葉を聞いて、ジュージューは喉の奥で唸り声を上げた。



 ーー


 終戦塔に近付くにつれ、ジュージューの憂鬱な気分はさらに深まっていった。まるで、終戦塔自体が負の感情をばら撒いているかのように、近づけば近づくほどジュージューの気分を最悪なものにしていった。

 もちろん、これはジュージューの勝手な言い分であって、終戦塔にそのような機能は存在しない。

 ジュージューの気分を落ち込ませているのは、周囲の人間の無言の視線であった。

 スラム街を抜け、各種ユニットが正常に機能しているまともな街区に足を踏み入れた途端、多くの人の好奇の目がジュージューの全身に突き刺さることになった。すれ違う人全員が、ジュージューを無遠慮に眺め、ジュージューがいかに場違いな人間であるかを本人に自覚させる。

 ジュージューも情報屋を生業としている以上、外で他人と会う必要が多少なりともあるため、スラム街にお似合いのボロ服以外に、一張羅と言ってもいい衣装も用意していた。客によっては、データを直接手渡しすることを望む酔狂な輩もいるからである。今回はスラム街の外に出るということで、もちろんその一張羅を羽織っているわけだが、外の人間にはボロ服と大差ないものと映るらしい。

 さらに、終戦塔は第一階層では有数の観光地でもある。

 第一階層の人間だけでなく、正式に階層政府の許可を得た、第二階層、第三階層の人間も見物に訪れるらしい。もっとも、その許可とやらは、つまるところ賄賂の金額に比例するものであることは周知の事実だった。

 そうなれば、終戦塔に近付くにつれ、ジュージューが嫌悪する金持ちなる種族が増えることになり、ジュージューへの視線がますます不愉快なものになっていく。とある派手な化粧をした妙齢のご婦人などは、ジュージューを見るなり隣の旦那に大声で抗議をし、第一階層がいかに危険な土地であるのか改めて声高に叫び始めた。どうやら、終戦塔への観光は旦那の一存で決めたようだ。ジュージューはとばっちりが飛んでこないよう、足早にそのご婦人の元を離れ、機械的に足を動かし終戦塔を目指した。


 ジュージューは、数多くの無遠慮な視線と、わずかながらの無関心な視線を潜り抜け、ようやく終戦塔の下に辿り着いた。さすがに、ここまで嫌な思いをさせられるとは想像していなかった。もし事前にそうと知っていれば、契約金額を倍にしてやったのにと、今更ながらに後悔する。

 とは言え、ようやく目的地にたどり着いたことで、ジュージューの気も少しは晴れてきたようだった。

 ジュージューはほとんど真上を見上げるようにして、終戦塔の全景を目に収めようと試みたが、終戦塔は予想以上に巨大な建築物で、とても全景を把握することができなかった。半ば呆れながらも、このレトロな巨大建築物に感心せざるを得ない。

 入り口付近では、観光地に相応しく観光案内用のガイドロボットが、人受けのしそうな合成音声で終戦塔についての解説を行っていた。ガイドロボットの見た目はアニメ調の少々派手な美少女として設定されており、また人の肌と見分けが付かない人工皮膚に覆われていること、高機能な人工知能も搭載されていることもあり、特に男性からの人気が高いが、当然その中身は全て機械部品で構成されている。自己修復機能も持っているため、ほとんどメンテナンスも要らず、こういった現場ではガイドロボットが導入されていることが多い。

 終戦塔に多少なりとも興味が出てきたジュージューは、人目に付かないよう物陰に隠れつつ、ガイドロボットの解説を軽く聞いてみようと考え始めていた。近場の物陰を探してみると、おあつらえ向きなことに入り口近くに大きな看板が設置されていて、その陰には充分隠れることができそうだと当たりを付ける。

 看板の陰に隠れる前に、その看板に書かれた内容がジュージューの目に入ってきた。


【歴史を知ろう! 歴史の証人『終戦塔』!】

【旧人類からの独立を記念して:独立戦争最後の激戦区の象徴『東京タワー』のレプリカ】


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