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Angel:Vanish  作者: 桂里 万
第三章 絆を抱いて
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1.天の営み (その1)

 一体どこから話せばいいのかな・・・。

 話さなければいけないことが、たくさんありすぎて・・・ね。

 ちょっと長い話になるけど、あなたにも関係する私の罪と罰の話だから、最後まで聞いてほしい。



 まず、あいつが言っていたとおり、私の本当の名前は「ヴァニッシュ」じゃなく、「神流かんな 美桜みお」なんだ・・・。

 えーっと。

 ・・・。

 私が産まれたのは、第455階層。

 ・・・驚いた?

 そこは、かつて旧人類が築いていた「日本」という国の末裔が集う階層なんだ。

 だから、私の本名も日本式。ここでは珍しい名前でしょう?


 ・・・そういえば、ここら辺は「ネオ・トーキョー」って言うんだよね。

 偶然だね。

 トーキョーっていうのは、「日本」で最大の都市の名前だったんだよ。

 そう考えたら、最初から私たちは何かの縁があったのかもしれないね。


 まあ、それはいいとして。

 私が産まれたのは第455階層だったけど、実はそんなに記憶がないんだ。

 だって、私が五歳の時に、家族から引き離されたんだから。

 記憶はほんのうっすらとしか残ってないけど、突然家に誰かが押しかけてきて、そいつの大きな手に私の右手が掴まれて、強引に外に引きずり出されたのは覚えてる。

 そして、誰かの大きな泣き声も聞こえてきていたな・・・。


 私はたぶん暴れたんだと思う。ひどく興奮していたから、記憶が曖昧なんだけどね。

 そのうち、私はなぜだか急に眠くなって、目を閉じたんだ。

 今から考えると、意識を失うよう誰かに『暗示』か『強制』をかけられたんだろうね。

 で、気付くと知らない場所で、知らない大人たちに囲まれていた。

 その大人たちは口々に何か言っていたけど、幼すぎた私には、ほとんど理解できなかった。

 理解できたのは二つだけ。

 もう二度と家には帰れないこと。

 そして、「フレア」と名乗る女性が、今後は親代わりで面倒を見てくれると。

 もちろん、もうひと暴れしてやったよ。でも、また強制的に眠らされちゃったみたい。


 次に目を覚ました時は、そのフレアという女性の家だった。

 何も分からず混乱して泣き叫ぶ私を、フレアは彼女なりに一生懸命慰めてくれた。

 最後には一緒に泣いてくれたっけな・・・。

 彼女の泣き顔を見て、わたしもようやく落ち着いて、彼女と話をすることができたんだ。

 きちんと話してみて分かったけど、彼女はいい人だった。とてもいい人。

 血も繋がっていない私に対して、とても親身になって育ててくれた。

 本当は仕事の一環で私を育てていたんだろうけど、元々面倒見のいい人だったのかもしれないな。

 強引に連れ去られた私の唯一の幸運は、彼女との出会いにあったと言ってもいいと思う。

 でも、私にすべてを明かしてくれたわけじゃない。謎の多い人でもあった。


 最初は家に帰りたくて帰りたくてどうしようもなかったけど、そのうち家に帰ることは諦めざるを得なくなった。泣いても叫んでも、何も変わらなかったから。

 それに、私が勤めを果たせば、家に帰れるチャンスもあるとフレアは約束してくれたから。

 その勤めというのが、まず学校に通うことだった。

 確かに、そろそろ学校に通ってもいい年頃だったし、それ自体は嬉しかった。

 新しい場所で、友達もほしかったしね。

 ただ、一つだけ想像していなかったことがあった。

 それは・・・。

 その「学校」は、戦闘に特化した勉強をさせてくれる、忌まわしい「学校」だったってこと。


 ちょっと話はそれるけど、この「階層社会」を支配している人たちは知ってるよね?

 うん、表向きは議会制民主主義を標榜してる社会だけど、庶民院には実質的な権力など何もなくて、大統領も、その諮問機関である枢密院ですら有名無実化してる。

 権力は全て世襲制の元老院が握ってるのよ。って、こんなのは常識レベルの話だよね。

 でも、知ってた?

 その元老院ですら内部には大きな権力の差があって、元老院を動かしているのも、ごく一握りの人たちなの。

 元老院内部には、さまざまな派閥、委員会、有象無象の団体があるけど、最終的には「十二人委員会」の承認なしでは何もできない。

 そう。

 その「十二人委員会」こそが、元老院すら支配している、この世界の実質的な支配者層なの。

 ・・・なぜ、そんなことまで知っているのかって?

 それはね、私の通っていた「学校」は十二人委員会が直接運営している、血生臭いものだったから。


 私がなぜそんな学校に放り込まれたのか? わざわざ人攫いのような真似をしてまで?

 その本当の意味は、今の私も分かっていない・・・。

 でも、一つだけ分かっていることがある。

 この階層世界を成立せしめているのは、一体何だと思う?

 うん。もちろん、感応力が全ての基盤になってる。

 じゃあ、感応力さえあれば問題なく安定した社会が築けるかといえば、そういう訳にもいかない。

 あなたたちも、身をもって体験したはずよ。

 ・・・あなたたちは、ハ・ラダーのことをどう思った?

 彼は120階層程度の力だったけど、それでもこの階層ではほとんど無敵の力を見せていた。

 おそらく、その気になったらジェイを殺すだけじゃなく、第一階層の人間を大半を殺戮することすら不可能じゃなかったと思う。

 まあ、そんな事態になる前に、階層政府からさらに上階層の人間が派遣されて鎮圧されるはずだけどね。

 でも、一人の大きな感応力で、世界は大混乱に陥るという、歪な社会だってことは分かるよね?

 だから、階層政府も階層間の人の移動は固く禁じて、神経を尖らせているの。


 確かに、階層政府が本気で階層間の移動を防ぐ努力をすれば、99.9%防ぐことは可能だと思うし、実際にそういう運用ができている。

 そういう意味じゃ、さすが階層政府と言うべきか、さすが元老院と言うべきか、鮮やかなお手並みだと思うわ。

 ただ、人の移動だけが問題じゃないの。

 もう一つの大きな問題は、人間の才能の問題なんだ。


 例えば、この第一階層の人間の感応力平均値というものは測られて公表されている。

 ジュージューの感応力は、第一階層平均値から考えたら結構強いほうじゃないかな?

 ジェイはかなり強いね。精密な使い方は、まるでダメみたいだけど。ふふっ。

 そんな感じで、同じ階層の人間でも、持って生まれた感応力の強さにはバラつきがあるの。

 さらに突き詰めると、ごく稀に突然変異とも言えるほど、その階層の平均をはるかに超えた強い力の子供が生まれてくる時がある。

 当然だよね。

 人間だって、地面を這い回るネズミのようなご先祖様からずっと、突然変異を繰り返してここまで上り詰めてきたんだから。

 旧人類から突然変異を起こして感応力を身に付けて、そして、そこで突然変異が終わるわけじゃない。

 だから、平凡な両親から、異常なまでの感応力の強さを持った子供が生まれることがある。


 ただ、それを放っておくと、とても危険だということは分かるよね?

 その階層をはるかに超える強い力の持ち主が、真っ直ぐ育ってくれるなら、まだいい。

 でも、そんな並外れた力の持ち主が、悪事に手を染めたらどうなる?

 もし、破壊や混乱を、混沌を楽しむ人間が育ったとしたら?

 ちょっと想像したくないよね。

 ハ・ラダーですら、あいつは職業として破壊屋をしているだけで、必要以上にこの階層の人間を害そうとはしていなかった。

 だから、そんな悪意の子が育ったら、その階層にとってハ・ラダーすら問題にならないほどの脅威になる。


 もちろん、階層政府はそんな可能性はとっくの昔に気付いていて、それを防ぐ手段も講じているんだ。

 世界に張り巡らした監視用のユニットから逐一情報を集めて、その階層に見合わない強さの感応力を持った子供を発見したら、直ちに回収して、その子の感応力と同レベルの階層に無理やり放り込んで移住させるの。

 そうすれば、それぞれの階層は、似通った力の強さの人間しかいなくなって、そういった危険の芽をあらかじめ摘むことができる。


 ・・・ピンと来たって顔をしてるね?

 そう、想像しているとおりだよ。

 まさに、私がそういう子供だったんだ。

 今なら、彼らがあんな人攫いみたいな真似をした理由も分かるよ。

 ムカつくことに変わりは無いけどね・・・。


 そういう理由で、私は第455階層から引き剥がされて、新しい階層に放り込まれた。

 まあ、放り込まれるだけなら、まだマシだったんだけど、問題が二つあって・・・。

 一つはさっき話したとおり、「学校」に問題があったこと。

 もう一つは、放り込まれた階層自体のこと。

 そこは、第2894階層。

 この階層社会全体の最上階層よ・・・。


 ・・・うん、私も最初は驚いた。

 第455階層程度の出身者が、最上階層レベルの力を持って生まれるのは、前代未聞だって何度も何度も、ウンザリするほど言われた。

 最上階層は、庶民院のお歴々ですら立ち入りできない階層で、実質的に元老院関係者と、世界の富を握る大富豪しかいない、本当に選ばれた者だけの世界だった。



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