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Angel:Vanish  作者: 桂里 万
第二章 風を斬り走れ
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4.果ての紫嵐 (その3)

 素早く立ち上がったジェイに、ゆっくりと近付いて来るハ・ラダー。その手には禍々しい軍用銃が握られていた。

 ジェイは最後の抵抗とばかりに、手にしていたブラスターを向けようとする。

 だが、ハ・ラダーがひと睨みしただけで、敵の感応力によりはるか彼方へと弾き飛ばされてしまった。周囲から驚きの声が聞こえてきたことから、他の三人の武器も同様に弾き飛ばされてしまったのだろうと、ジェイは推測した。

 ここに至って、ジェイはほとんど諦めかけていた。何度か罠を仕掛け、精一杯の抵抗を見せたつもりだったが、結局はその罠を全て噛み破られ、圧倒的な感応力の差を埋めることができなかった。エミリア先生の「生き延びろ」という信念も、今となっては空々しい絵空事に聞こえてくる。

 ハ・ラダーは手に持った銃をゆっくり上げ、ジェイに狙いを定めた。

 これで奴に銃口を向けられるのは何度目だろう、とボンヤリ考えていたジェイの視界が、またもや紫色に包まれ、先ほどのジェイ救出劇の再現とばかりに、次の瞬間にはヴァニッシュの隣に立っている自分を発見した。


「ヴァニッシュ!?」


 ジェイとジュージューが同時に声を上げた。ヴァニッシュはまるでジェイを庇うかのように、彼とハ・ラダーとの間に立っていた。その光景を見たジュージューが勇敢にもヴァニッシュに駆け寄り、その手を取って一緒に逃げるよう、引っ張って行こうとしていた。

 だが、ヴァニッシュはまったく動く気配は見せず、その碧眼は真っ直ぐにハ・ラダーを見据えていた。


「バカな! お前たちだけでも早く逃げろ!」


 ジェイは二人に怒鳴りながらも、無駄とは知りつつハ・ラダーからの攻撃を防ぐべく盾を創り出そうと試みた。案の定、周辺の感応物質は既に敵の制御下にあり、ジェイの力では何を起こすこともできない。

 ハ・ラダーは、ちらりとジュージューの姿を見て、大きなため息を吐いた。


「もう横槍は充分だ。鬼ごっこもな。依頼には背くが、まあいい。全員まとめて消し炭になっちまいな!!」


 ハ・ラダーは再度銃を構えた。何の遮蔽物もなく、この至近距離からでは、その死神の一撃を防ぐこともかわすことも不可能だろう。ジェイは思わず目を瞑り、衝撃を待ち受けた。

 だが、またしても何も起こらなかった。ジェイは驚き、ハ・ラダーを見つめた。

 ハ・ラダーの表情は驚愕で歪んでいた。武器は構えたままだが、引き金に掛けた指がピクリとも動いていない。その表情はまるで、自分の力だけでは動きそうもない大きな物を一生懸命持ち上げようと苦闘している人間のそれに見えた。

 ジェイは予想外の好機と悟り、反射的に懐に手を入れ、切り札の武器を取り出そうとする。

 だが、目の端でジェイの攻撃的な動きを捉えた襲撃者は、安全を確保しつつ事態に対処するため、先ほどジェイたちが攻撃を加えた通路出口あたりまで一気に後ろに飛び退いた。その表情はまだ驚愕の仮面を貼り付けたまま、自身の武器をジッと見ていた。

 その瞬間、ジェイはついに疑問が氷解するのを感じた。


『分かった・・・。分かったぞ・・・!』


 ジェイは急ぎ他の者に残された縦の影に隠れるよう指示を出した。それぞれが手近な盾に隠れることになり、ジェイ側の盾にはジュージュー、ヴァニッシュもともに隠れ、反対側の盾にはエリザ一人が隠れることになった。

 ジェイは自身が気付いたことを、興奮気味に全員に伝える。ジュージューとヴァニッシュには口頭で、エリザには感応波通信によって。


「やっと分かったぞ! あいつは『暗示』か『強制』に支配されている!」


 ジュージューとヴァニッシュが、えっという表情でジェイを見つめる。ジュージューの表情は半信半疑という感情を能弁に物語っている。


「いいか? 今あいつは『依頼に背いて』三人を同時に抹殺しようと試みた。だが、武器を使えなかった! じゃあ、『依頼』って何だ? 奴が標的ターゲットを抹殺しようとしているのは明らかだ。それは当然ヴァニッシュさんのことだろう。そして、彼女を守ろうとする俺も排除すべき敵なんだろう。俺単体への攻撃は問題なく行えていたようだしな。これだけでは『依頼に背く』って要素はどこにも無い」


 ジェイは一息入れて先を続ける。


「昨日からおかしいと感じていたんだ。敵の攻撃は、奴の経歴から考えても不自然なほど手緩い。今日もそうだ。まるで俺たちを追い立てるためだけに、こんな追跡行を行っているみたいだ」


 ジェイは盾から少しだけ顔を出して、敵の様子を観察する。ハ・ラダーは顔に青筋を立てて、何かに力を入れて格闘しているように見える。その様子を見たジェイは、まだ多少は時間があると判断し、二人に向き直った。


「答えは簡単、奴は依頼主から、ヴァニッシュさんとそれを守る者以外には、絶対に手を出すなと命じられていたんだ! だから、俺たちを追い立てて、バラバラになったところを標的だけ仕留めようとしているんだ。そして、さっきの状況ではジュージューを巻き込むことになるから、『依頼に背く』ことになるんだ。それから、俺が『暗示』にかかっていた時にお前らに助けられたが、あの時も同じ状況だった。路地に逃げる俺たち三人を、あいつは攻撃しなかった。いや、攻撃できなかったんだ!」

「ちょ、ちょっと待てよ。奴の依頼人は何でそんなことを命じたんだ? どんなヒューマニストなんだよ!?」


 ジェイは肩をすくめた。


「さあな。理由までは分からん。だが、そう考えたら、昨日の事も腑に落ちる。奴は大量破壊のプロだ。昨日は事務所ごとふっ飛ばせば、依頼は完了だったのに、わざわざハッキングとか面倒くさいことをしている。その理由も明らかだ。昨日はエリザがあの場所にいたから、巻き込めなかったんだよ!」

「そうは言うけど、あいつの感応力の強さだったら、地面の感応物質とかで俺たちを羽交い絞めにして標的だけ狙うとかもできるだろ? その理屈はおかしくないか?」

「いや、それも難しかったのかもしれんな。昨日の時点では、事務所の防御兵装があって中の様子を覗けなかったから、外から山勘を頼りに羽交い絞めにしたとしても、誤ってエリザを害していた可能性がある。そして、今日に至っては、お前の手柄だよ」

「何だって?」


 ジュージューは思わぬところから自分のことを褒められて、目をパチクリさせながらジェイに問い返した。ジェイは唇の端をゆがめながら、説明する。


「今日は俺たち全員、お前が提供してくれた同じようなボロ服を着ていたから、かなり近寄らないと誰が誰だか判別できなかったんじゃないかな? これまた適当に誰かを拘束したとしても、標的以外を害する可能性があったから、攻撃的な行動は手控えていたんだろうな。いや、そういった間接的な攻撃すらも禁止されるほど徹底的に『強制』されているんだよ」

「いやいや、全体的に話が飛躍しすぎていないか? その屁理屈を裏付ける証拠はあんのかよ!?」


 ジュージューのもっともな指摘に、ジェイは後ろを振り返り、またもや盾の影からハ・ラダーを見た。そこには、ジェイたちには目もくれず、まだ何かを必死に念じているような敵の姿があった。


「あれが証拠だよ。奴は奴自身が気付かない間に、『暗示』か『強制』を掛けられちまってる。あれだけ行動を制限されているってことは『強制』だろうな。奴はそれを今ようやく悟ったんだ。二度も直接的な攻撃の意志を曲げられちまったんだからな。さすがに気付くさ。そして、必死に自身の感応力で『強制』を解除しようとしてるんだ。・・・まるでさっきの俺みたいにな」


 ジェイは三人に話すことで次々と考えが明瞭になっていき、ようやく敵のことを理解できた気がしていた。

 そして、敵を理解したことで、脳裏に閃光のように作戦が思い浮かんだ。ジュージューの反対が目に浮かぶようだったが、もはや手段を選んでいる暇はない。


「奴を倒せるかもしれない、最後の作戦を思い付いた。俺の持つ切り札と、そしてジュージュー。お前が頼りだ」


 ジュージューはあからさまに胡散臭げな表情を浮かべた。



 ---


 ジェイの推測は概ね的中していた。ハ・ラダーは自身に起こった現象について、到底信じることができなかった。

 確かに依頼人からは再三に渡って、標的とそれを直接守る者以外には絶対に手を出してはいけないと、言い渡されていた。通常であれば、そういった妙な依頼は断っているのだが、今回は多額の報酬につい目が眩んでしまっていた。

 妙な依頼とはいえ、依頼は依頼だと自分を納得させてはいたが、まさか知らない間に『強制』を受けているとは夢にも思っていなかった。ハ・ラダーがジェイに対して『暗示』をかけたように、圧倒的な感応力の差があれば、そういった芸当は可能だが、それは依頼人が彼に比べて途方もないほど強力な感応力を持っていることも意味している。


『奴はいったい何者なんだ!?』


 ハ・ラダーは依頼人に対する怒りが急激に高まっていた。確かに、怪しげな格好をし、顔も見せない不気味な依頼人ではあった。そんな依頼人の素性をよく確かめなかった、自身の落ち度が腹立たしかった。

 いや、と彼は思い直した。おそらく、依頼人自身のことを詮索しないように、思考を誘導し『暗示』をかけていた可能性が高い。

 どちらにせよ、彼はこの依頼人の行動を敵対行動とみなし、復讐することを固く誓った。

 だが、まずはこの忌々しい『強制』を解除するのが先決だった。標的を始末しようにも、先ほどのように『強制』が思わぬ障害になることもある。また、依頼人に復讐しようとしたところで、それを禁止するような『強制』を既に掛けられている可能性もあり、そうなれば手も足も出なくなってしまう。

 ハ・ラダーは意識の半分を集中し、感応力を全開にして、自身の感脳の制御を取り戻そうと試みた。もちろん、意識の半分は当然ジェイたちに油断なく向けられていた。

 数分間そうしていただろうか。

 ハ・ラダーは自身の感応力でできることは全て行った。だが、これで『強制』が解除されているかどうかは自信がなかった。身体の一部の自由が奪われていたのであれば、解除後は自由に動かすことで解除したことを知ることもできるだろう。しかし、意識に働きかける『強制』については、通常であれば確認することもできない。

 あとは、標的を攻撃する際に確認しながらの行動になるだろうと、彼は忌々しげに考えた。

 では、激烈な確認作業に入ろうか、とハ・ラダーが考えると同時に、標的たちが隠れていた盾の陰から、奇妙なものが飛び出してきた。



 ---


 ジェイ、ジュージュー、ヴァニッシュは勢いよく盾から飛び出し、一つの塊になって動いていた。その三人の周りを、大きな紫色の布地の束がふわりと覆っていた。ヴァニッシュの長いドレスの余った布地を、ヴァニッシュの感応力で三人の周りに纏わせているのだ。

 ジェイを助けた時に、ヴァニッシュはドレスの布地を伸ばし、彼の全身に巻きつけていた。それで、どうやらヴァニッシュのドレスの布地は、ヴァニッシュの感応力である程度伸縮できると知ることができた。今回は、それの応用だった。

 これで、敵からは布の下に何人隠れているのか、見ただけでは判別できなくなったはずである。そして、ヴァニッシュのドレスは、事務所での初対面のときの騒動から分かるように、ジムのユニットをもってしてもその下に隠れているモノを探知できないという特性があった。ジムより強いハ・ラダーの感応力でも同様の状態となることを、ジェイは痛切に願った。これは賭けだった。

 もし、ジェイの推測が当たっているならば、誰が何人隠れているか分からないモノを攻撃するなど、『強制』が邪魔をして絶対に行えないはずだった。

 そして、三人は息を合わせて、敵に向かって一気に走り出した。布地の束に小さく作った隙間からジェイが前方を確認しながら、真っ直ぐとハ・ラダーに向かう。

 そして、ジュージューが感応力とパルサーの擬似感応力で、ハ・ラダーの周りにある石ころや、微細な瓦礫を操り、360度の全方位から敵に向かって投げつけた。

 石ころとはいえ、感応力で加速させれば立派な武器である。もしまともに命中するようであれば、「痛い」という感想だけでは到底済まないだろう。



 ---


 ハ・ラダーは、予想外の事態に一瞬面食らっていた。ここまで追い詰められた敵が、こんな奇妙な行動を起こすとは想像していなかった。

 まず、四方八方から飛んできている石ころである。これは全く問題にもならなかった。

 彼の持つ装備の制御ユニットは、彼に近づく感応物質を検知すると、その軌道を自動的に逸らせるよう、擬似感応力で働きかける設定になっているからだった。実際に、飛んでくる石ころは全て、ハ・ラダーに到達するはるか以前に別方向に弾き飛ばされていた。

 もう一つの、布地はこのままでは少々厄介だった。確かに、『強制』のことを気付いたのであれば、有効な普段に思える。

 しかし、布地を取ってしまえば、あとはどうにでも料理できる。わざわざこちらに向かってくれるというサービス精神を発揮してくれており、個人の判別さえ付けば、拘束など容易いものだった。

 ハ・ラダーは三人を覆っている布を剥がそうと、素早く感応力を向けた。

 だが、予想に反して、布地はピクリとも動かない!

 またもや個人専用の素材で作られた布地なのか、それともハ・ラダーの感応力でも干渉できないような上階層のものなのか判別できないが、どちらにしてもハ・ラダーの感応力では動かすことができず、彼は一瞬混乱してしまった。

 その一瞬が勝負を分けることになった。



 ---


 ジェイは、ハ・ラダーの採った行動と、その結果引き起こされた混乱が手に取るように分かった。ハ・ラダーの行動は、ジェイが同じ立場でもそうしていただろうと推測できるからだ。

 敵の一瞬の混乱の隙に、ジェイは懐から切り札の武器を取り出した。そして、ヴァニッシュに合図し、その武器で敵を狙えるように、ジェイたちを覆う布地にほんの少し隙間を開てもらう。そこまでの連携は、事前に簡単に作戦内容を説明しただけとは思えないほど、見事なものだった。

 ジェイは慎重かつ大胆に武器を構え、一発発射した。そして、数拍置いて、二発発射した。

 それは、実体弾マテリアル・ブレッドだった。



 ---


 ハ・ラダーは、紫の塊の一部から武器が見えていることに気付いた。彼の歴戦の経験から来る勘は、それが実体弾だと告げていた。

 間髪入れずに響く、乾いた一発の発射音。

 だが、ハ・ラダーは実体弾だと勘付いた瞬間に、鼻で笑っていた。先ほどから、石ころの雨を完全に防いでいるフィールドが分からないのだろうか?

 それとも、石ころに紛れて発射すれば、制御ユニットの処理が追いつかなくなり、命中するとでも考えているのだろうか?

 石ころとは違い、さすがに拳銃の超至近距離からの一撃では軌道を逸らすにも限界はあるが、30メートル以上離れている現状であれば、100%対応可能だった。


 そんなハ・ラダーの自信のとおり、ジェイから放たれた一撃は、目に止まらない速度のまま軌道を曲げられ、明後日の方角に飛び去っていった。

 二撃目も、同じ武器から発射されていた。

 ハ・ラダーが使用しているような複合銃であれば、ボタンを押すなどの特定の操作でブラスターなどと切り替えることができる。しかし、ジェイにそのような素振りはなく、初撃と同様の実体弾が飛んでくるものだと、ハ・ラダーは考えた。



 ---


 後から発射された二発の弾丸も、初撃と同様にハ・ラダーの胸部を目がけて襲い掛かった。

 そして、ハ・ラダーの制御ユニットは、彼の目論見どおり正常に作動し、近付いて来るあらゆる感応物質を弾き飛ばすよう、擬似感応波のフィールドを形成している。

 この場に立つジェイ以外の人間は、初撃と同じ展開になることを予想していた。


 ハ・ラダーの誤算は、この期に及んでもまだ自身の装備と能力を過信していたことにある。ハ・ラダーの考えていることなど、ジェイも当然予測していた。


 二発の弾丸がフィールドに突入する。

 しかし、その軌道は寸分の狂いも見せず、天から降るという古代の伝説に聞く流星のごとく、ハ・ラダーの胸に命中した。


『バカな!』


 全く想像だにしていなかった事態に、ハ・ラダーは胸部の激烈な痛みと、事実を現実として認めることを拒否する表情とともに、着弾のショックで後ろに跳ね飛ばされた。

 それを見たジェイは、二人に指示を出した。

 ヴァニッシュは、盾から飛び出す前から既に布地を糸状に変化させ、先ほど弾き飛ばされていたブラスターに伸ばして銃身に巻きつかせていた。ジェイの合図とともに、三人を覆っている布地を取り去り、同時にブラスターを瞬時に回収する。ジェイという人間の質量ですら巧みに引き寄せることができるヴァニッシュにとって、この程度の芸当は朝飯前だった。

 そして、ブラスターを回収した三人は、間髪入れずに引き金を絞り、倒れているハ・ラダーに一斉射撃を見舞わせた。

 非情なようであるが、止めを刺し損ねては、これまでの努力が水泡に帰すだけでなく、おそらくハ・ラダーを倒すチャンスは永久に巡ってこなくなるだろう。

 ジェイの実体弾を喰らって盛大に吹き飛ばされた敵は、地面に倒れながら呻いていたが、ブラスターの熱線を浴びて、ピクリとも動かなくなった。ジェイの目論見どおり、止めを刺すことができたのだろう。

 三人はそのまま何十秒かブラスターを構えたままハ・ラダーを警戒していたが、動きは何一つない。

 ジェイは試しにもう一発ブラスターを発射したが、命中してもハ・ラダーには何の動きもなかった。

 ここでようやく、三人は緊張を解いた。


「嘘だろ・・・マジでやったな!!」

「二人とも、よくやってくれた」

「ううん、みんな無事でよかったわ」


 三人は口々にお互いの無事を祝福している。ジェイは口には出さなかったが、ここまで上手く予測が的中したことに驚いてもいた。

 本当にギリギリの、紙一重の勝利だった。

 おそらく、ジェイ一人では絶対に勝てなかっただろう。一つの生命体と言ってもよいほどの精度で三人が連携できたことが最大の勝因だった。


「それにしても、ジェイの旦那。何でこんなに上手くいったんだ? 種明かしをしてくれよ」

「うん? 一つだけ先に教えておこうか。俺が使った切り札は、『原初弾』というんだ。いわゆる、感応物質を全く含まない、原初の素材だけで構成された武器だよ。だから、あいつは感応波で弾き飛ばすことができなかったんだ」


 ジェイの言葉に、ジュージューもヴァニッシュも驚愕の表情を見せた。それもそうだろう。この世界のありとあらゆる物に感応物質が使用されているのは、周知の事実である。原初の素材など、どこから手に入れたのだろうか?

 ジュージューはもちろんジェイの古代趣味は知っていたが、まさか使う武器まで旧人類仕様だとは思っていなかった。


「まあ、後の細かい話は、エリザと合流してからゆっくりと話すよ」


 ジュージューが振り返ると、エリザは隠れ場所だった盾の陰から出て、ジェイたちに手を振りながら向かってきているところだった。ジュージューはニヤニヤしながら、ジェイをからかう。


「ジェイ、エリザさんだけ仲間外れにしてよかったのかよ?」

「あのな。エリザと俺との信頼関係を嘗めてもらっちゃ困るな」


 強敵を倒した安心感からか、ジェイにしては珍しく、軽口に対して軽口で答えていた。

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