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奈落の男  作者: HYG
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奈落の男40

 外国人達はダクトテープでぐるぐる巻きにされた大野達を、そのまま大野達が乗って来たワゴン車に運び込んだ。そして何人かが同様に車に乗り込む。ルイスは運転席に乗り込み、ワゴン車のエンジンをかけた。

「それじゃあ、よろしくな」雅臣はルイスに頼んだ。

「ああ、キッチリ届けるぜ」ルイスはすっかり上機嫌だった。

『せんせー』不意に視界内に現れる洋子のアバター。

『どうした?』

『あたしさー、またまたせんせーに褒められる事してきたんだけどー』

『何だって?』

『この場所、狙われてたんだよ。警察に』

『ああ?』

『それでさ、この洋子様が華麗にそれを阻止してきたんだって! 知ってた?』

洋子のこの言葉で、雅臣の頭の中でこの事件の全てが繋がった様な気がした。最下層で殺し合いをする外国人、それを利用して儲けようとするヤクザやヤクザを利用する企業、そんな最下層の現状を適度に支配する警察組織。

『そうか…… ありがとうな』雅臣は力なく答えた。

『それで、警察の人がこの件については口外しないで欲しいってさ』洋子は雅臣のそんな様子にも気づかずに自分の得た収穫を得意げに雅臣に伝える。勝手な言い分だなと雅臣は思った。だが、その条件を呑まない限り安全にここを離れられる保証もないし、今後警察組織を敵に回す事になるだろう事も雅臣には容易に想像出来た。『ああ、分かった。癪に障るがこれ以上ゴタゴタしてもしょうがない。面倒臭い話はゴメンだ』

『分かった。伝えてくるね』洋子のアバターが消えた。

事実、雅臣はもう心底どうでも良いと思っていた。これ以上面倒事に関わる気力も体力も残っていなかった。とっとと治療を終わらせて、李から金を受け取り酒が飲みたい。

「佐伯さん!」

雅臣や、その場にいたほぼ全員が声のする方向を見る。そこには荒川和美警部補と二体のフル装備のガーディアンドロイドが立っていた。警察はこの件から手を引く件はまだ彼女には伝わっていないのだろうと雅臣は思った。周囲の皆は突如現れた警官の姿にギョっとした。和美はゆっくりと雅臣の方に近づいてくる。二体のガーディアンドロイドは周囲を威嚇する様に警戒ながら同様に移動する。

「荒川警部補か……」周囲の皆が雅臣と警官の動向に注視する。「お前達には関係ない。とっととそいつらを李の所に運んでくれ。その他のヤツはどっかに行っちまえ」雅臣はワゴン車の車体を叩きながら周りの皆に呼びかける。その合図でワゴン車はこの場を走り去って行った。周りの皆もそそくさとこの場を離れて行った。

「こんな所で何をしているんですか?」和美は雅臣に問い質した。

「お前には関係の無い事だよ」

「その腕はどうしたんですか!」

「だから、お前には関係無い事だと言っているだろ!」

「いいえ、関係あります。佐伯さんは事件の重要参考人として手配されているんですよ?」

「それはお前の所為だし、お前等警察の都合だろ?」

雅臣は和美の態度に苛立ちを覚えた。恐らく、和美自身は自分の警察官としての信念に基づき捜査活動を行っているのだろう。だが、その働きを都合よく利用して状況を歪曲させて都合よく処理しようとする警察組織には腹が立って仕方がなかった。何が重要参考人だ。それは俺と接点を作った荒川警部補の状況を、警察の上の連中が都合よく利用しようとした結果に過ぎないだろうが。そして、それに気づきもせずに間の抜けた行動をしている和美自身にも。

「ですが……」

「良いか? よく聞け。俺も、ここに居たあいつ等も皆、お前等警察の都合でこんな目にあってきたんだ」欠損している右腕を和美の前に突き出しながら雅臣は言った。「だらしないお前等警察の所為でこんな目に合っても、俺やあいつ等は我慢して生きて行こうとしてるんだ。だからもう構うな」

「でも、それならこの事件を解決する事が、佐伯さんや彼らの為になる事なんじゃあないんですか?」

「この事件? 事件だって?」

「ですから……」

「お前が思っているそんな事件なんて存在しないんだよ」雅臣は和美の言葉を遮った。

「それはどう言う意味ですか?」

「その意味はお前の仲間に聞くんだな」

和美は雅臣の言動が理解出来なかった。不意にプロジェクションゴーグルに笹野管理官からの呼び出しが入る。和美は呼び出しに答えた。「荒川警部補、本件の捜査はこれで終了です。その場を引き上げて下さい」笹野管理官の言葉に、和美は呆然とした。そして、今まで自分が追ってきた事件だと思っていたそれは、和美には何か理解出来ない闇の物の様に思えてきた。自分は一体何を捜査し、何を経験してきたのだろう。そんな思いと徒労感が和美を襲った。

「満足したか?」

「……」雅臣の問い掛けに和美は何も答えなかった。いや、答える事が出来なかった。

「もう俺はお前の教育担当官でも同僚でも無い。俺はこっち側、お前はそっち側なんだ」雅臣は和美の返事を聞こうともせずに歩き出しながら言った。

和美はビルの中に戻ろうとする雅臣をただ見送る事しか出来なかった。

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