奈落の男23
MONONOFUは立ち上がって周囲を見回した。視界内にアプリケーションが表示するマーカーはターゲットがもう近くに居ない事を表していた。ターゲットまでの方角と直線距離しか示していないのだ。そして、その直線距離はどんどん広がっていく。MONONOFUは表示がちらつく視界に苛立った。どうやら画像認識機能の何処かに異常が発生しているらしい。MONONOFUは全身の損傷度を確認する。機械製の四肢は若干動きが鈍く軋んでいる様だった。着込んでいたレプリカの武者鎧はボロボロになっていた。超高周波振動刀は問題無く動作する。足に取り付けてあるモーターブレードはその回転から推力を得る事が出来なかった。MONONOFUは諦めて吹き抜けまで歩き出した。いかに高機能サイボーグとは言え機体にダメージがある状態で無茶な使用は出来ない。幸いこの状態を襲われてもまだ反撃出来るだけの機能はある。今は無理をしないだけだ。MONONOFUの人口皮膚の口元には笑みが浮かんでいた。久しく感じた事の無い気分。この俺にいっぱい食わせる事が出来る奴が居たとは。MONONOFUは思った。あせる必要はない。ここは俺の為に用意された公然の狩場、闘技場だ。俺はここに居さえすればそれで良い。それにターゲット指定した男は彼の頭の中に存在するアプリケーションプログラムの所為で、遅かれ早かれ再び、この地を訪れて俺と対決し、俺を倒さなければならないのだ。それまでにはこの体の損傷も修復出来るだろう。問題はターゲットの男より、電制を奪おうとアタックしてきた侵入者の方だ。恐らくこっちはターゲットと連携して行動しているに違いない。試験リストもいい加減なポイント付けをしている……
MONONOFUは軋む体を引きずる様に闇の中へと消えていった。